
2030年の利益5000億円。野村證券の次の稼ぎ方:奥田CEOに聞く
「日経平均株価6万円超」野村ホールディングスが予測する日本市場の未来と、グローバル変革の全貌
野村ホールディングスが大胆な市場予測を発表した。日経平均株価は2026年末までに6万円を超えるという。この強気な見通しの背景には、中国から日本への資金シフト、ROEを意識した日本企業経営陣の変革、そして好調な企業業績という、ファンダメンタルズに基づく構造的な変化がある。本記事では、この市場の地殻変動と、それに対応し自らのビジネスモデルを根底から変革し続ける野村ホールディングスの戦略について、CEOの奥田健太郎氏へのインタビューを通じて深く掘り下げていく。奥田氏が描くグローバル投資銀行としての野村の未来図とは何か、そしてリーマン・ショックを乗り越え、いかに異文化統合を実現してきたのか。その全貌に迫る。

Q. 野村ホールディングスのビジネスモデルは過去5~6年間でどのように変化したか?
過去5~6年で会社のビジネスモデルを大きく変えようと考えて取り組んできた。従来の「野村證券のお店」という国内中心のイメージとは異なり、今や野村ホールディングスの社員2万8000人のうち約半数が海外勤務である。日本の次に従業員数が多いのはインドで、約5000人が従事している。全体収入の半分が日本、ホールセール部門では3分の2が海外収益を占めており、既にグローバルな投資銀行へと大きく変貌を遂げた。

この変革の核は、売買手数料に依存する「フロー型」から、顧客の預かり資産に応じた手数料を得る「ストック型」への収益構造のシフトだ。これは「狩猟民族」から「農耕民族」への転換と表現することもできよう。安定的なストック型収益でコストの8割を賄う体制を構築することで、安定した成長基盤の確立を目指している。これは収益構成をアグレッシブに保ちつつ、安定成長を目指す明確な舵切りであると奥田氏は説明した。
Q. 国内のウェルスマネジメント事業はどのように進化しているのか?
国内のウェルスマネジメント部門も、資産管理型のビジネスモデルへ大きく転換した。かつて売買が中心であったビジネスは、ストック型手数料への依存度を高めている。顧客の単純な取引ニーズはデジタルやアプリで対応し、人が関わるのは付加価値の高い領域へとシフトした。

例えば、退職金の運用や事業承継といった複雑な課題解決を必要とする顧客に対して、プロフェッショナルな人材を投入し、深くサポートする。これは野村の「人」が持つ専門性と強みを最大限に活かす戦略である。さらに、地域の顧客との接点を増やすため、山陰合同銀行を皮切りに地方銀行6行と提携している。自社の支店網だけではリーチできなかった顧客に対し、地元の銀行拠点を活用することで、地域金融との共存共栄を目指すこれまでにないオープンなアプローチを採用している。
Q. アセットマネジメント事業強化に向けた具体的な戦略とは何か?
国内では「資産運用立国」という潮流に乗じ、アセットマネジメント事業の強化を最重要課題と位置付けている。投資信託や株式・債券といった従来の金融商品に加え、トップ就任以降、プライベートアセットを商品ラインナップに積極的に組み入れた。
例えば、アメリカのプライベートエクイティファンドを日本の投資家に合わせた形で提供するなど、未公開の優良資産への投資機会を個人顧客に広げている。ただし、情報量が少ないプライベートアセットのリスクについては、しっかり説明し理解を得るプロセスを重視している。
海外では、昨年アメリカのマッコーリーが保有する資産運用会社を買収した。この買収には二つの狙いがある。一つは、NISAなどを通じて日本の投資家から人気の高いアメリカ市場において、自社でしっかりとした運用能力を持つこと。もう一つは、これまで海外商品を日本に紹介する一方通行だったビジネスを、「日本の商品を海外で販売する」という双方向モデルに転換することである。これは海外投資家の日本市場への関心の高まりを受け、日本が誇る資産を世界に送り出す好機と捉えている。モルガン・スタンレーが辿った資産運用シフトの道筋と、野村の戦略には共通点が多く見受けられるという。
Q. グローバル事業の成長を牽引するアメリカでの戦略と強みは何なのか?
グローバル事業、特にアメリカ市場における成長の要因は「勝てる場所で戦う」という明確な戦略転換にある。アメリカの大手金融機関と正面から競合するのではなく、野村の強みを発揮できるニッチな分野に資源を集中投下している。
具体的には、エクイティデリバティブのアメリカにおける市場シェアは常に上位に入り、アメリカ国債の売買でも高いプレゼンスを誇る。これらの強みは、アメリカ国内の機関投資家だけでなく、ヨーロッパやアジアの投資家をアメリカ市場に誘引する「クロスボーダー」モデルによって支えられている。つまり、野村は自社の強力な母国市場と、アジアや欧州の顧客基盤を橋渡し役として活用することで、競争の激しいアメリカ市場で優位性を確立しているのだ。この「両輪でしっかりやる」戦略が順調な伸びにつながっていると奥田氏は語った。
Q. リーマン・ブラザーズ買収は野村のグローバル化にどのような影響を与え、異文化衝突をどう乗り越えたのか?
2008年のリーマン・ブラザーズ買収は、野村の歴史において大きな転換点であった。ヨーロッパとアジアで優秀な人材を獲得し、野村の文化を根底から刷新するきっかけとなったのだ。奥田氏はこの経験を、Jリーグのチームがプレミアリーグのチームを買って一緒に運営するようになったイメージだと例えた。
買収当初は壮絶な異文化衝突も経験した。当時M&Aのグローバルヘッドだった奥田氏は、香港に赴任した際、リーマン出身のアジアヘッドから「日本人を全員日本に返せ」と要求されたという。理由は、彼ら日本人が東京の本社役員に報告するため、アジアヘッドのレポートラインから外れており、「何をしているか知らない」からだという。

さらに、「ロイヤリティ」の概念にも大きな違いがあった。日本人が「会社」への忠誠心を重視する一方、リーマン出身の幹部は「直属の上司とチーム」への忠誠を求めたのだ。同じ言葉でも意味が異なるという壁が立ちはだかった。本社が東京にあることの理解や、時差を伴う会議など、物理的・文化的な障壁は非常に大きかったと振り返った。
しかし、この激しい衝突と対話を約18年間継続する中で、野村は変化を遂げてきた。海外社員は「日本企業で働くこと」の意味を、日本社員は「グローバルにビジネスをする」ということを学び、相互理解を深めていった。今や「統合」という言葉を意識することもなく、ロンドン、ニューヨーク、アジアでも新卒採用を行うなど、自然な形で一つのグローバル企業として進化している。
Q. アジアの富裕層ビジネスにおける機会と、日本国内でのプロフェッショナル人材の役割は何か?
次なる成長のフロンティアとして、アジアの富裕層ビジネスを非常に重視している。かつての日本の強みを活かしたチームを再編成し、ホールセール部門で培った機関投資家向けの高度な商品を富裕層向けに提供することで、ビジネスを急拡大させている。ドバイにもオフィスを設立し、現地の個人富裕層やファミリーオフィスと呼ばれる資産管理会社へのアプローチを強化中だ。アジアの富裕層は資産規模が桁違いであり、運用に積極的であることから、極めて魅力的な顧客層と奥田氏は語った。
一方、日本国内においては、ネット証券と価格競争をするのではなく、「人」の専門性で差別化を図る。事業承継や複雑な資産運用など、高度な専門知識が求められる課題に対応できるプロフェッショナル人材こそが野村の最大の強みであると強調した。このようなプロ人材が最大限に活躍できるプラットフォームを提供することが経営陣の重要な役割だという。
創業100周年を迎えるにあたり、創業者・野村徳七の「挑戦」と「グローバル」の精神を改めて強く意識する。常に新しいことに挑戦し、世界を舞台に戦うという創業者の思いを次世代に繋いでいくことが、野村のDNAであり、これからの未来を切り拓く鍵となる。
