
W杯強豪国分析:ドイツ。予想はベスト8
ドイツ代表、再生への道:前回の教訓を糧に躍進はなるか?
前回のワールドカップで不本意な結果に終わったドイツ代表は、かつての栄光を取り戻すべく新たな挑戦に臨む。度重なるグループリーグ敗退という屈辱を経験し、国内外から厳しい批判にさらされた彼らは、この度、過去の教訓を真摯に受け止め、ピッチ内外で抜本的な改革を進めている。本稿では、ドイツ代表の現状を多角的に分析し、その戦術的な挑戦、そして注目すべき選手たちの役割に焦点を当てる。
再建を託されたユリアン・ナーゲルスマン監督の下、チームはどのような変革を遂げ、強豪国の威厳を取り戻すのか。主力選手の動向、守護神ノイアーの復帰、戦術上の課題と対策、さらには日本との因縁めいた対戦の可能性まで、徹底的に深掘りする。

Q. ドイツ代表は前回のワールドカップでの失敗からどのように改善されたのか?
前回のワールドカップにおけるドイツ代表の大失敗は、大きく分けて二つの側面があった。一つは、カタールでの人権問題に対する政治的なメッセージが試合直前まで続き、選手たちのサッカーへの集中力を欠いたことである。二つ目は、チームが本拠地としたドーハから離れた古城ホテルが、選手たちの家族との交流を阻害し、士気を低下させたことである。
これらの反省を受け、今回のドイツ代表はピッチ外の環境を徹底的に改善した。まず、キャプテンのヨシュア・キミッヒが「政治的な問題は持ち込まない」と明言し、チーム全体がサッカーに集中できる土壌を築いた。さらに、お揃いのレトロユニフォームを着用するなど、結束力を高める意識的な取り組みも見られる。ホテル問題に関しても、会場に近い拠点を確保し、試合翌日には選手とその家族が交流できる環境を整えた。ホテルには映画館、ゴルフコース、ボードゲーム、ダーツといった娯楽施設を完備し、選手が精神的にもリフレッシュできる配慮がなされている。これらは、2014年優勝時にスポンサー企業の協力でキャンプ地を設営し成功した再現を狙うものであり、ピッチ外の要素が長期戦を戦い抜く上で極めて重要であるとの認識が伺える。
Q. 今回の予想フォーメーションと戦術上の主な課題は何か?
ナーゲルスマン監督の予想フォーメーションは、攻撃陣にジャマル・ムシアラやフロリアン・ヴィルツといった足元の技術が高い選手を並べ、ポゼッションを重視した戦い方が主になると見られている。しかし、これにより絶対的なストライカー不在や、全体的なプレー強度の不足が懸念される。メディアやOBからは、ボルテマーデやデニス・ウンダフのような生粋のセンターフォワード、あるいはフィジカルと運動量が武器のクリス・ヒューラーなどを起用し、攻撃に多様性や強度を加えるべきだという意見も上がっている。

最大の戦術的課題は、専門の右サイドバック(SB)の不在である。本来ボランチを本職とするチームの心臓キミッヒを、その穴を埋めるために右SBで起用せざるを得ない状況が続いている。キミッヒ自身は中央でのプレーを望んでいるが、信頼できる代役がいないため、チーム全体のバランスを考慮すると彼を右SBに配置するのが現状の最適解となる場合もある。しかし、この起用法は彼の能力を最大限に引き出す妨げにもなり、長年の論争となっている。さらに、攻撃的すぎる戦術は2018年ワールドカップで「完璧なポゼッションを目指しすぎたのが敗因」と指摘された反省と重複するリスクもはらんでいる。
Q. 守護神マヌエル・ノイアーの代表復帰はチームにどのような効果をもたらすのか?
一時代表引退が噂された41歳の守護神マヌエル・ノイアーの復帰は、ドイツ代表にとってまさに朗報であり、チームに計り知れない影響を与えるだろう。これまでマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンに代わる正GKが不在であり、国際経験の乏しい選手が起用されるなど、ゴールキーパーはドイツの最大の懸念点の一つだった。
ノイアーはバイエルン・ミュンヘンとの契約を1年延長し、自身のコンディションに対する手応えから代表復帰を決断した。彼の現在のパフォーマンスは、レアル・マドリード戦で9本のシュートセーブを記録するなど、今なお世界最高レベルにある。これは長年の課題だった正GKの穴を完全に埋めるものであり、堅守を期待できる。

彼の存在は、単なるプレーヤーの復帰以上の意味を持つ。長年にわたりバイエルンのキャプテンを務めてきたノイアーは、その圧倒的なリーダーシップでチームに精神的な安定感をもたらす。彼の高いポジショニングと広い守備範囲は、守備陣がラインを高く保ち、戦術の幅を広げることを可能にする。監督がナーゲルスマンに代わり、これまで彼の教え子が一時的に正GKとしてトレーニングを積む状況であった中、ノイアーの復帰は監督、選手、そしてファン全ての期待を裏切らないものとして広く支持されている。この復帰は、まるで代表に強力な新戦力が加入したかのようなインパクトをチームにもたらしているのである。
Q. 攻撃の鍵を握る主要選手の状態はどうか、またディフェンス陣の安定性は?
攻撃陣のキーマンは10番を背負うムシアラである。シーズン前半は怪我に苦しんだが、復帰後の1月以降にコンディションを上げ、4月には全盛期の輝きを取り戻した。彼はドリブルでの打開だけでなく、周囲を生かすプレーも得意としており、ナーゲルスマン監督も彼の復帰を待ち望んでトップ下のポジションを開けていた。彼の高いパフォーマンスは、ドイツ攻撃陣の得点力と創造性を大きく左右するだろう。また、才能溢れるフロリアン・ヴィルツも代表で輝きを見せており、ムシアラとの連動が期待される。両者は元々バイエルンへの移籍を検討していた時期があるほど親交が深く、相性の良さは既に示されている。

ディフェンス陣については、レバークーゼンでキャリア最高の安定感を見せたヨナタン・ターと、ドルトムントを引っ張るリーダーシップと広い守備範囲を持つニコ・シュロッターベックがセンターバック(CB)の軸となる見込みである。アントンもシュツットガルトで高い評価を得ており、センターバックとしての実力は確かだ。リュディガーの能力にムラがあることを踏まえると、ターとシュロッターベックの人格者としての存在感が最終ラインの統率において重要な役割を果たすだろう。両SBが攻撃的な選手のため、CBがカバーリングに徹する局面が増えると予想される。
Q. ナーゲルスマン監督の采配はドイツ代表を勝利に導けるのか?
ナーゲルスマン監督の戦術は、リーグ戦においては高い評価を得てきたが、一発勝負のカップ戦では実績に乏しいという懸念がある。バイエルン時代を含め、過去の経歴を見る限り、チャンピオンズリーグや国内カップ戦で早期敗退を繰り返してきた事実は無視できない。これは、彼の攻撃的なサッカー志向が、大会で勝ち抜くために必要な守備の安定感を欠くというアンチェロッティの教え(「大会で勝ちたいなら守備をしろ、試合に勝ちたいなら攻撃」)と逆行するためだと言われている。彼はカウンタースタイルの導入を検討し、それに見合わない選手を選考から外すなどの措置を取っているが、果たしてトーナメントを勝ち抜くバランスを見出せるかが見どころだ。
しかし、彼の功績も大きい。2018年、2022年ワールドカップ、そしてユーロ2020での早期敗退によって、自信を失っていたドイツ代表に再び攻撃的なマインドと活気を取り戻させたのは、ナーゲルスマンの手腕によるところが大きい。今回も、彼は優勝そのものよりも、失われた国民の信頼と期待を取り戻すことを目標としている。それは、2010年ワールドカップのように、優勝は逃したが、最も多く得点を挙げ世界を驚かせた当時の再現を目指す姿に重なる。仮にベスト8で強敵イングランドに敗れたとしても、大量得点を伴う攻撃的な戦いを披露できれば、次のワールドカップに向けてドイツ代表の確固たる土台を築けるだろう。
Q. 今回の大会におけるドイツ代表の現実的な目標は何か?
今回のドイツ代表の現実的な目標は「ベスト8進出」だと推測する。その先にはイングランドとの対戦が有力視されており、そこで現在の戦力で勝利するのは厳しいだろう。しかし、単純な勝敗だけでなく、「たとえ4失点しても3点を奪い返す」といった、ロマンを追求する攻撃的な姿勢を見せることが重要である。
ナーゲルスマン監督の契約はユーロまでであるため、今大会は将来のドイツ代表への希望を繋ぐ大会としての意義が大きい。2010年ワールドカップでのドイツ代表のように、惜敗を喫しながらも最多得点を記録し、多くの観衆を魅了した戦いを再現することで、国民からの支持を確かなものにする。そして、次のワールドカップで真の優勝を狙えるチームへと進化するための重要なステップと位置づけている。
余談だが、仮にグループリーグを3位で通過するようなことがあれば、日本代表とラウンド32で対戦する可能性もわずかながら存在する。過去の対戦で日本に連敗しているドイツにとっては苦手意識があるかもしれないが、日本にとっても強豪を打ち破るチャンスになり得る。どのような結果になるにせよ、ナーゲルスマン体制下のドイツ代表の戦いは、サッカーファンにとって目が離せないものとなるだろう。
