
【徹底解説】体にいいのはどっち?②
医師が解き明かす現代健康常識の真実:最適な行動が未来を変える
巷には健康に関する情報が溢れ、どれが真実か、何を取り入れるべきか判断に迷う人も多いだろう。長年高齢者医療に携わる老年医学の専門医・山田悠史氏が、エビデンスに基づいて運動、食事、睡眠、サプリメントなど身近な健康常識のウソとホントを解き明かす。未来の健康を左右する今日の選択を、改めて見つめ直す機会だ。

Q. 効率的な運動とは、具体的に何から始めればよいだろうか?
運動の最も重要な原則は「継続」である。自分のライフスタイルに合わせて続けられる頻度と時間帯を見つけることが大切だ。かつて健康の目標として語られてきた「1日1万歩」は必ずしも絶対ではない。最新の研究によると、健康リスクを大幅に減らすには1日7000歩までで十分な効果が得られると分かっている。最低ラインとして、1日3000歩でも認知症の発症リスク低減につながるとの研究報告もある。デスクワーク中心のビジネスパーソンは、まず3000歩から、次いで7000歩を目標とするとよいだろう。

運動の時間帯には、それぞれにメリットがある。体脂肪の減少を目指すなら、朝食前の空腹状態で行う「朝の運動」が脂肪燃焼効率を高める。一方、筋力向上を目指す場合は、日中の活動で体が温まった「夜の運動」がより高いパフォーマンスにつながり効率的だ。運動頻度については、毎日継続するのも、週に2~3回集中的に行う「ウィークエンド・ウォリアー」も、健康への効果に大きな差はない。究極的には「やらないと気持ち悪い」レベルまで習慣化することが理想である。
また、最高の脂肪燃焼を考えるなら、運動を増やす「足し算」の前に、まず食事量を減らす「引き算」が最も効果的であることを忘れてはならない。効率的に体重を減らすには、摂取カロリーの管理が基本となる。その上で、有酸素運動や強弱を繰り返すインターバルトレーニングを取り入れるのが、脂肪燃焼への最短ルートといえる。
Q. 「睡眠のゴールデンタイム」や寝る前のスマホは、本当に睡眠に影響するだろうか?
美容業界などで語られる「22時~2時の睡眠ゴールデンタイム」は、科学的根拠に乏しい。その根拠として挙げられる成長ホルモンの分泌は、特定の時間帯ではなく、就寝後の最初の深い睡眠サイクル中に最も活発になるためだ。何時に寝たとしても、眠り始めの深い睡眠が重要であり、夜8時に寝ても深夜0時に寝ても、質の良い深い睡眠が得られれば成長ホルモンは十分に分泌される。

睡眠においては「質より量」が基本原則である。まずは7~8時間程度の十分な睡眠時間を確保することが最も重要だ。量を確保した上で日中の眠気やパフォーマンスの低下を感じる場合に、初めて睡眠の「質」を考える必要がある。そして、その睡眠の質を著しく低下させる現代的な要因が「寝る前のスマホ操作」だ。
スマートフォンが放つブルーライトは、脳を昼間だと錯覚させる強い光であり、自然な眠気を誘うホルモン「メラトニン」の分泌を抑制する。これにより、寝つきが悪くなったり、睡眠が浅くなったりと、睡眠の質が低下するのだ。ベッドに入る前にスマホを触るのをやめる、寝室に持ち込まないといったルールを作るだけでも、睡眠の改善につながるだろう。アルコール摂取も睡眠の質を下げる要因となるため、両方を見直すことで効果を期待できる。
Q. 食事に関する健康常識、「赤い肉はNG」や「オーガニック野菜は優秀」は真実だろうか?
まず、赤い肉や加工肉の発がん性についてだ。ベーコン、ソーセージ、ハムなどの加工肉は発がん性が「確実」な食品群に、牛肉や豚肉といった赤い肉は「おそらくある」食品群に分類されている。毎日50gの加工肉、あるいは100gの赤い肉を摂取すると、特定のがんリスクが20~30%上昇するとも言われる。しかし、日本人の平均的な肉消費量は欧米と比較して少ないため、たまに焼肉を楽しむ程度であれば過度に心配する必要はない。日常的に摂取するならば、鶏肉や魚に置き換える選択肢を検討するのが賢明だ。

次にオーガニック野菜だが、通常の野菜と比較して健康に優れるという明確な科学的根拠は今のところない。現在の農薬は改良が進み、体への悪影響は少ない。むしろ、農薬を使わないオーガニック野菜は、害虫から身を守るために野菜自身が天然の毒素を生成する割合が増えるという報告もある。また、どちらの野菜も環境汚染の影響は平等に受け、調理前の洗浄で農薬成分の影響はさらに軽減される。大切なのはオーガニックかどうかではなく、種類を問わず十分な量の野菜を摂取することである。
プロテインサプリメントは、食生活でタンパク質が十分に摂れていれば基本的に不要だ。魚や肉といった自然の食材からタンパク質を摂取する場合、同時に良質な脂質やビタミンなど、体に必要な様々な複合的な栄養素も摂取できる。サプリメントでタンパク質だけを補うと、これらの他の重要な栄養素が不足する可能性があるので、栄養はまずバランスの取れた食事から総合的に摂ることを基本とすべきだ。
「海藻を食べると薄毛が改善する」という説にも、人間での効果を示す科学的根拠は認められない。これは細胞レベルの実験結果が拡大解釈されたものに過ぎない。むしろ、ワカメなどの海藻を毎日大量に摂取すると、含まれるヨウ素の過剰摂取につながり、甲状腺機能低下症を引き起こすリスクがあるため注意が必要だ。体調を崩す原因になる可能性もあるため、薄毛が気になる場合は、食品に頼らず専門医への相談が最も確実な対策である。
Q. サプリメント、漢方薬、そしてサウナは健康効果を期待できるだろうか?
サプリメントは、特定の栄養素が「不足」している場合に「補う」目的で使うのが正しい。例えば、妊娠を計画している女性の葉酸摂取や、ヴィーガン(完全菜食主義者)のビタミンB12摂取などだ。健康な人がバランスの取れた食生活をしているなら、サプリを摂取してもさらなる健康増進効果は期待できない。過剰摂取によるリスクも存在する。特に高価な高濃度ビタミンCサプリの多くは、価格に見合う特別な効果が科学的に証明されておらず、むしろ過剰摂取は尿管結石のリスクを高める可能性があるので、安易な摂取は避けるべきである。
漢方薬は、経験則だけでなく現代医学的な研究(臨床試験)によって多くの処方で効果が確認されている。偽薬と比較して有効性が証明された漢方薬は、日本の医療現場でも西洋薬と並行して治療に用いられており、信頼できる治療選択肢の一つとなっている。医師から処方される漢方は、科学的根拠に基づいて選ばれた治療法と理解して良い。
サウナについては、習慣的な利用が心臓病や高血圧のリスクを減らす可能性を示す研究報告(主にフィンランド発)はある。しかし、現在の爆発的な人気を支えるほど強固なエビデンスが確立されているわけではなく、やや神格化されすぎている側面もあるだろう。また、サウナ後の水風呂と外気浴で得られる「整う」という感覚の医学的なメカニズムや安全性については、まだほとんど解明されていないのが現状だ。基礎疾患のある人は、利用に際して特に注意が必要である。
これらサプリメント、漢方、サウナ、いずれにおいても、根拠に基づいた適切な理解と賢い選択が、自身の健康を守るために不可欠と言えよう。
