
ドルコスト平均法の落とし穴【田内学×篠田尚子】
出遅れNISAは本当に「損」なのか?投資ブームに潜むお金の真実
新NISAが始まり、多くの人々が投資への関心を高めている。しかし、「出遅れたら損」といった焦りや、「ドルコスト平均法さえ守れば大丈夫」という過度な期待が広がっている状況だ。
本記事では、こうした投資にまつわる巷の常識に潜む盲点やお忘れられがちな側面を、専門家による議論を通じて深く掘り下げ、真に知っておくべきお金の原則を解き明かす。

Q. 新NISAは「出遅れたら損」という認識は正しいか?
新NISAは制度が恒久化され、旧NISAのように期間が限定されていない。また、確定拠出年金のような年齢制限も存在しない。
このため、「早く始めないと損をする」という考えは新NISAにおいては当てはまらない。始めたいと思った時が最適なタイミングであり、自分のペースで取り組むことが重要だ。
周りの状況に惑わされず、自分にとって最適な開始時期を見極めることが肝要である。
Q. ドルコスト平均法は投資の「万能薬」といえるか?
ドルコスト平均法は、価格が高い時には少なく、安い時には多く買うことで平均取得単価を下げる効果が期待できる。下落相場での精神的な負担を和らげる「お守り」としての価値は高いだろう。

しかし、数学的に見れば、この手法が他の投資方法に比べて常に優れたリターンをもたらすとは限らない。右肩上がりの相場では、最初の一括投資に比べてリターンが劣る可能性もある。
ドルコスト平均法は万能な儲け方ではないと理解し、「勉強すれば隠された儲けのテクニックがある」と過信するべきではない。
Q. 積立投資において最も重要なことは何か?出口戦略は?
積立投資の成否を分けるのは、いつ始めるかよりも「いつ、いくらで手放すか」である「辞め時」のタイミングが極めて重要になる。価格が上昇した時期に売却できるかどうかが、全体の利益に大きく影響を与えるためだ。
しかし、最適な辞め時を正確に予測することは不可能に近い。仮にリーマンショックのような長期低迷期と自分の退職時期が重なれば、長年積み立てた資産が目減りしたまま売却せざるを得ないリスクもある。
また、日本の人口が減少する中で「株価は長期的に上がり続ける」という前提は危うい。将来的に株式を購入する若年層が減れば、現在の投資家が一斉に売却する際、適切な買い手が見つからず、価格維持が困難になるかもしれない。
Q. 投資の「利益」はどのような種類があり、どこから来るのか?
投資の利益には主に二つの源泉がある。一つは、企業が生み出す新しい価値に対する報酬として得られる「配当(インカムゲイン)」であり、これは経済活動の成長を伴うプラスサムの利益だ。

もう一つは、他の投資家との売買によって生じる価格差で儲ける「売買差益(キャピタルゲイン)」である。これはある投資家の利益が別の投資家の損失となるゼロサムゲームの性質を持つ。
世間で語られる「100万円が1億円に」といった派手なサクセスストーリーは、後者のキャピタルゲインが中心であり、再現性は極めて乏しく、ギャンブル的な要素が強いことに留意が必要である。S&P500やオルカンも、「最強の投資法」ではなく「最も無難な選択肢」として捉えるべきだ。
Q. 現在の円安は日本経済全体にとって「良いこと」と言い切れるか?
円安が良いか悪いかは、その人の立場によって大きく異なる。輸出企業などの「生産者」にとっては、円安は収益増加につながるため「良いこと」として認識される。
しかし、輸入製品や海外旅行を享受する「消費者」にとっては、円高の方が購入力が高まり、生活の豊かさを実感しやすい。「国全体にとって」という場合でも、誰の意見を代表するかで論調は変わってくるのだ。

かつて「円安は日本経済に良い」と強調された背景には、政府やメディアが有識者として招く人々が、大企業の経営者や関連団体の代表といった「生産者側」の視点に偏りがちであったことが考えられる。個人の生活実感を置き去りにした論調には注意が必要だ。
Q. 働くよりも「投資を頑張る」べきという風潮の裏に潜む真実とは?
現代に広がる「働くより投資を頑張れ」という風潮は、しばしば経済学者ピケティの理論「r > g」(資本収益率が経済成長率を上回る)に根差すものだ。しかし、この理論の本質は「だから投資をしろ」ではなく、資本を持つ者が富を増しやすい構造が格差を生むことを憂う警鐘だった。
私たちはまず、労働によってゼロから資産を築く「資産形成」と、既存の資産を増やす「資産運用」を明確に区別すべきである。元手がない段階でいきなり運用で大きな利益を出すのは難しい。
しかし、日本は今後、深刻な人手不足時代を迎える見込みだ。これにより労働者の市場価値が高まり、賃金上昇の余地が広がっていく。小手先の投資テクニックに時間を使うより、本業のスキルアップや自分の「稼ぐ力」を磨く方が、結果的に大きなリターンをもたらす時代になるだろう。

