
ホンハイ・日産・ホンダ。3社連合の可能性
ホンハイが日産に接近?関氏の重要性とトヨタの思惑とは
自動車業界に激震が走っている。ホンダと日産の経営統合の話が出る中、台湾のホンハイ(鴻海)も水面下で動いているという。いったい何が起きているのか?自動車ジャーナリストの杉本りうこ氏と井上久男氏に詳しく聞いた。


Q: ホンハイはなぜ日産に興味を持っているのでしょうか?
ホンハイは日産の子会社化を狙っているというより、EVビジネスの拡大に関心がある。ホンハイの理想は多くの日本メーカーのEVの製造を担うことだ。三菱自動車が既にオーストラリアやニュージーランド向けにホンハイの車を採用している例がある。これは三菱にとって自社開発するより低コストで環境規制に対応できるメリットがある。
ホンハイは注文が取れれば十分で、出資する必要はない。例えばAppleやSonyにも出資していないが、時にはお客の工場を買い取ることはある。過去にSonyのメキシコとスロバキアの工場を買い、同時に注文をもらうという形で協力関係を築いた。日産との関係もこのパターンになる可能性がある。
Q: ホンハイとの関係で、関CEOがなぜ重要なのですか?
実はホンダは日産との統合を検討していた際、ホンハイのEV事業責任者である関氏の獲得を試みていたという。日産を再建するには、リストラを実行し短期間でリバイバルプランを作れる人材が必要だが、ホンダにはそのような人材がいない。
関氏は本来ホンハイに行く前にホンダが獲得を試みた人物だったが、社内の反対もあり実現しなかった。関氏は防衛大学出身で、コミュニケーション能力が高く評価されている。そのため、ホンハイにいても独立しても、日産再建のキーパーソンとして引き続き注目されている。

Q: ホンハイのEVビジネスの強みは何ですか?
ホンハイの強みは主に3つある。一つ目はコスト削減力。二つ目は製造のスピード。例えばプロジェクトが立ち上がると半年程度で量産が視野に入るほど開発から生産までの期間が短い。三つ目はNVIDIAとの密接な関係だ。
自動車メーカーからすれば、EVは将来的には必要だが、現在は製造コストが高く利益を上げにくい。そこでリスクを取らずに製品を持ちたい企業にとって、ホンハイとの協力は有効な選択肢となる。
また、ホンハイはNVIDIAのジェンスン・フアンCEOと密接な関係を持っており、「AIファクトリー」構想を共有している。これは走行中の車のデータを工場の生産に反映させ、短期間での開発や走行中の車のアップデートを可能にする構想だ。日本企業からすれば、ホンハイと組むことでNVIDIAのAI技術にもアクセスできるという利点がある。

Q: ホンダと日産が統合するとどのようなメリットがあるのでしょうか?
ホンダのハイブリッド技術や部品の共通化によるシナジー効果は大きい。ホンダは現在1兆2000億円ほどの営業利益があるが、日産との統合によって最終的には1兆円ほど利益が押し上げられると分析されている。
しかし、シナジーが出なければ統合する意味はない。過去の電機業界の統合事例を見ても、人間関係の摩擦や資産の重複などの問題が発生することがある。そのため、日産とホンダの統合も慎重に進める必要がある。
Q: トヨタはホンハイや日産・ホンダの動きをどう見ていますか?
トヨタはホンハイと組む可能性は低い。しかし、ホンハイとホンダ・日産が組むことには警戒感を持っていると考えられる。それは新しい化学反応が起きて自分たちの地位が脅かされることを恐れているからだ。
実際、日産・ホンダの経営統合破談の日に、トヨタの首脳から日産社長に「お手伝いできることはありませんか」という電話があったという情報もある。これはトヨタが日産を自陣営に引き込もうとする動きと解釈できる。
Q: 日本の自動車産業の今後についてどう思いますか?
日本の電機業界は過去に同じような製品で競争し、結果的に体力を消耗してしまった。自動車業界も同じ轍を踏まないためには、競争する領域と協調する領域を明確にすることが重要だ。例えば、コモディティ化している部品などは集約して「チーム日本」として取り組むアプローチも考えられる。
また、ホンハイのような企業の実力を過小評価してはならない。過去に日本の電機メーカーが中国のファーウェイを軽視し、10年後には「かなわない」と認めた例がある。自動車業界もプライドを捨て、冷静に分析し、どうすれば利益が出るかをベースに考えるべきだ。
ホンハイのような企業と組む場合も、その体質を理解することが重要だ。ホンハイは「フェイル・ファースト&ラン」の考え方で、早く失敗してそこから学ぶスピード重視の経営をしている。日本企業は失敗を恐れる傾向があるが、これからの不確実な時代には、そうした考え方から学ぶことも大切だ。

Q: 日本の自動車産業が電機業界から学ぶべき教訓は何ですか?
電機業界は、メモリや薄型テレビなど同じ分野で各社が競争し、結果的にシャープがホンハイ傘下に入り、パナソニックもテレビ事業を事実上撤退するという結果になった。
一方、ソニーはホンハイをうまく活用した好例だ。ソニーはテレビ工場をホンハイに売却し、ノートパソコンもホンハイに製造させることで、自社の投資を軽くし、変化が必要な時に素早く対応できる体制を作った。
この違いが生まれた理由は、ソニーが早くからホンハイの実力を直接見て、世界の一流企業と同じリーグで戦うために何をすべきかを学んだからだ。対して他の日本メーカーは「技術がない」「信頼できない」などと言って実力を正確に見なかった。
自動車業界も同様の過ちを繰り返さないよう、相手の実力を正確に評価し、過大な幻想や偏見なく協力関係を構築することが重要だ。
