
徹底解説:ホンハイの実像。テリー・ゴウは復帰するのか?
ホンハイの激震!テリーゴー復帰の可能性で日産・ホンダとの提携はどうなる?
世界の電子機器製造受託(EMS)大手企業「本杯」が自動車業界に本格進出する動きを見せている。先日、三菱自動車との提携が発表され、今後は日産やホンダとの関係にも注目が集まる。しかし本杯の社内では創業者テリーゴー氏の復帰の噂も流れ、今後の展開は混沌としている。ジャーナリストの杉本りうこ氏と井上久男氏に本杯と日本の自動車メーカーの思惑について聞いた。


ホンハイってどんな会社?世界有数の規模なのに意外と知られていない巨人
Q: ホンハイはどのような会社なのでしょうか?
ホンハイは世界最大級の電子機器製造受託企業で、売上高は約32兆円に達します。この規模は日本企業の中ではトヨタに次いで大きく、世界の上場企業の中でも小売大手のウォルマートとアマゾンに次ぐ第3位の規模を誇ります。従業員数も約90万人と非常に多いです。
しかし、時価総額は約10兆円と売上高の割に小さく、日本企業で言えば東京エレクトロンと同程度です。これは本杯の営業利益率が約2.9%と低いことが要因です。
Q: 主な取引先はどこですか?
本杯の凄いところは取引先の質の高さです。世界の時価総額トップ5企業のうち、NVIDIA以外のApple、Microsoft、Amazon、Googleはすべて本杯の顧客です。NVIDIAもサプライヤーとして関係があります。日本ではソニーや任天堂が数十年来の主要顧客で、任天堂のSwitchも本杯が製造しています。
Q: 本杯はなぜEV事業に力を入れているのですか?
ホンハイの売上構成は、スマートフォンやゲーム機が約半分、AIサーバーが約3割で、EV事業を含む「その他」は全体の約6%に過ぎません。そのうちEV事業の売上は100億円にも満たないと推測されます。
しかし、ホンハイは採算の低さという課題を抱えています。EMSというビジネスモデル上、より生産量が大きく、単価の高い製品を作る必要があります。創業者のテリーゴー氏は「次は自動車だ」と考え、2005年頃からEV事業に着手していました。
また、最大顧客のAppleが自動車事業(Apple Car)に参入する計画があった時期もあり、本杯もそのパートナーになることを期待していました。しかし、Appleが2024年にEV計画を中止したため、本杯は日本の自動車メーカーとのタッグを模索し始めたというわけです。

Q: 三菱自動車との提携は予想外のニュースでしたか?
これは業界内では規定路線と見られていました。ホンハイのCEOは3月中旬の決算説明会で「12ヶ月以内に日本の自動車メーカーと協業の契約が結べる」と明言していました。実際には年内にはほぼ決まっていたと思われますが、発表のタイミングが遅れたのは、日産の問題があったためです。三菱自動車の株式の27%を日産が保有しているという事情があります。
Q: ホンハイのEV事業の現状はどうなっていますか?
本杯のEV事業は、台湾の自動車メーカーユーロンとの合弁会社「フォックストロン」が中心です。しかし、生産能力は約10万台にとどまります。別にアメリカでEVメーカーの工場(ローズタウン)も買収しましたが、こちらは30万台程度の生産能力があるものの、相手方の経営破綻により係争中で現在は使いにくい状況です。
本杯は2025年にEV市場の5%(約85万台)の生産を目標にしていますが、現在の生産能力では全く足りません。最大の問題は「明確なお客さんがいない」ことです。当初想定していたAppleやテスラとの協業も実現せず、今は自社ブランドで作るしかない状況です。
Q: 創業者テリーゴー氏の復帰の噂がありますが、事実ですか?
2023年12月に台湾メディアが「テリーゴーが復帰に向けて動いている」と報じました。テリーゴー氏が本杯のOB幹部たちと食事会を開き、「人間は賢くある前に義理を尽くさねばならない」「今のホンハイがあるのは兄弟君たちのおかげだ」などと述べたと伝えられています。
テリーゴー氏は「EVよりAIサーバーだろう」という考えを持っているとされ、ホンハイの将来の方向性に影響を与える可能性があります。AIサーバー事業は急成長しており、特にAppleのAIサーバー製造に関連して75兆円規模の米国内投資計画も発表されています。

Q: テリーゴー氏が復帰すれば、EVへの取り組みはどうなりますか?
もしテリーゴー氏が復帰すれば、現CEOの劉氏は退任する可能性が高く、EV事業責任者の関氏も辞める可能性があります。その場合、本杯のEV戦略が見直される可能性があります。
ただし、テリーゴー氏の本杯株式保有率は12%で、彼に協力する人々を合わせても20%程度にしかならないため、復帰は容易ではありません。
Q: 日本の自動車メーカーは本杯をどう見ているのですか?
「実態がまだわかっていない幹部も多い」と井上氏は指摘します。「iPhoneを作っている会社で、新規事業としてEVをやっている」程度のイメージしか持っていない経営者も少なくありません。
また、ホンハイの中国との関係を懸念する声もあります。日本の自動車メーカーは米国市場を重視しており、ホンハイと組むことでアメリカ政府から何か言われるのではないかという懸念を持つ経営者もいます。
加えて、ホンハイがシャープを買収した際の経験から「成長戦略がいまいち」というイメージも持たれています。
Q: ホンダはホンハイとの協業にどのようなメリットを見ているのですか?
興味深いことに、もしテリーゴー氏が復帰してホンハイがEV事業を縮小する方向に向かうなら、それはホンダにとって好都合という見方もあります。井上氏によれば、「本田には日産をリストラさせて指導できる経営人材がいない」ため、ホンハイがEV事業に熱心でなくなれば、むしろ技術協力などの関係構築が進めやすくなる可能性があるとのことです。
ホンダ側としては、従来の自動車業界の常識にとらわれない新しい技術や考え方を取り入れる機会として、ホンハイとの協業に期待しているという側面もあります。
ホンハイの組織構造「不族のような会社」で意思決定の難しさも
Q: ホンハイの社内体制はどうなっていますか?
ホンハイは「不族のような会社」と表現されるユニークな組織構造を持っています。事業グループ(事業本部)が6つあり、特にApple向け事業を扱う「A」部門が最も重要です。各部門のトップは強い権限を持ち、部門内の結束が非常に強いのが特徴です。
テリーゴー氏はこれらの「部族の酋長たち」をまとめる求心力を持っていましたが、現在のCEO劉氏は外部から買収された企業の出身で「傍流」の人物です。テリーゴー氏は自身が政界に出る可能性を考え、あえて強すぎる後継者を選ばなかったとも言われています。
ホンハイの現在の課題の一つは、長年の重要顧客であるAppleとの関係です。劉CEOは就任から4年後になってようやくAppleのティム・クックCEOに会ったとされ、両社の関係にやや隙間風が吹いているとの見方もあります。
