
ブライダル産業の新たな勝ち筋
結婚式場が苦境を乗り越える道とは?八芳園社長が語る「通過儀礼産業」への再定義
結婚式産業が厳しい状況に置かれる中、八芳園の井上義則社長は「通過儀礼産業」としての再定義を提案する。婚姻数減少の時代に生き残るためのビジョンとは何か?

結婚産業から「通過儀礼産業」への転換が鍵
Q: 産業として成り立たなくなるほど苦境に陥りませんか?
人生全体をサポートする「通過儀礼産業」として再定義することで可能性が広がる。結婚だけでなく、誕生から死までの人生イベント全体をカバーするビジネスモデルへの転換が重要だ。「結婚産業としては厳しいかもしれないが、人生の通過儀礼産業として定義を置き換えれば、誕生から死去までを伴走できる」という視点で事業を再構築できる。

Q: 文化資産がなくてウェディング専業の企業は生き残りが難しいのでは?
可能性があるのは地方の式場だ。地域のセンターピンという役割を担い、新しい食文化や地域文化を発信する場へと変革することで、地方の式場には生き残る道がある。「ブライダル産業と観光産業という2つの軸から収益を上げられる点で、地方には大きな可能性がある」と井上社長は指摘する。
結婚式不要論への反論—「心の故郷」としての意味
Q: 結婚式や披露宴はいらないのではないか?
結婚式の意味を再定義する必要がある。現在は商業的なショーとして認識されがちだが、本来は人生の節目を記念し、心を新たにする大切な儀式だ。「夫婦が誕生し、家族が人生の儀式や心を新たにする瞬間を作ることで、生きてきた証を残す」という意味を強調すれば、その場所が「心の故郷」となり、生涯にわたって利用される可能性が高まる。
井上社長は「神社で手を合わせた瞬間に『今日も良いことがありそうだ』と感じる、心を新たにする瞬間はとても必要」と語る。精神的な豊かさを求める時代において、目に見えない価値が重要になっていくという。

Q: アメリカ人やヨーロッパの人たちも披露宴をするのか?
国によって異なるが、欧米では社交場という考え方が強い。「社交パーティーの一つのテーマがウェディングであり、人を集める力が多いほどステータスを得られる」という側面がある。日本ではかつてステータスを重視する親主体の結婚式から、「自分たちらしさ」を追求する本人主体の式へと変化してきた点が欧米と異なる。
Q: 婚姻数を増やすために披露宴が安くなったり、簡素化されるべきでは?
「結婚式を無料にしてみたらどうか」という発想も検討に値する。自治体は出会いの場は提供しているが、結婚式の補助までは行っていない。しかし、「街づくりの一環として夫婦を生み出す結婚が地域産業の重要なファクターになる可能性」を考えると、企業と官民の連携による新しい取り組みが必要だ。
井上社長は「韓国では企業が結婚時にかなりの支援金を出すケースが多い」と指摘し、日本でも結婚式をなくすよりも適切な補助を提供する方向性を示唆している。

Q: 経営面で結婚式ビジネスが成功するために何が重要か?
非日常体験の創出が最も重要だ。そのためには4種類の人材が必要となる:
1. プロデューサー人材(企画力、編集力、接客力)
2. デザイン人材(商品開発、デザイン力、演出力)
3. デジタル人材(効率化のためのDX推進)
4. 食の開発人材(地域食材を活用した新メニュー開発)
これらを組み合わせて「ワンストッププロデュース」を実現し、付加価値を高めることが重要だ。「非日常体験をプロデュースする力を強化して価格に転換することで、賃上げにも結びつける」という方針を掲げている。
Q: テイクアンドギブニーズという企業は画期的だったのか?
同社は非日常体験の提供に注力し、大きな成功を収めた。「クローズ型の貸切空間で特別なウェディングを提供し、サプライズというキーワードで消費者の驚きや喜び、祝福を最大化する」取り組みが急成長の原動力となった。従来の式場が儀式と宴会の提供にとどまる中、非日常体験という付加価値を生み出した点が革新的だった。
地方式場の成功事例
Q: 地方の式場で実践されている例はあるか?
北陸地方の事例では、地域の食材を活用した「北陸キュイジーヌ」というコンセプトを立ち上げ、地域資源を掘り起こす取り組みが行われている。「シェフたちが地元野菜の新しい調理法を開発し、食のイベントや市場を開催することで地域を活性化」し、それがメディアに取り上げられて観光客を呼び込む好循環を生み出している。
このように「建物内のオペレーションだけでなく、エリア全体をマネジメントする」視点が重要だ。ブライダル産業と観光産業の2軸からアプローチすることで収益を上げられる可能性がある。
Q: なぜ結婚式業界に入られたのか?
「人が喜んでくれる姿を見るのが嬉しい。その喜びの度合いが結婚式では特に高い」と井上社長は語る。「ありがとうと涙を流しながら抱きしめてもらえる瞬間があり、それを味わうとさらに人を喜ばせたいという思いが強くなる」と、仕事の原動力を説明している。
この喜びの連鎖が、単なるブライダル産業を超えて観光産業も含めた「感動体験の提供」へと発展していく原動力となっている。
結婚式場の継続と業界の未来
Q: 産業として統合を進めるべきか?
中小企業が多い業界構造の中で、「中堅企業が中小企業とリレーションを取る構造」が望ましい。井上社長は「結婚式場は残すべき」という持論を語る。その理由は「そこで結婚式を挙げた人たちにとって心の故郷になっているから」だ。
「結婚式場がなくなると、思い出が消滅していくような感覚を持つ人が多い」ため、業界全体が変革に取り組み、結婚式場を存続させることが重要だと指摘している。
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結婚式産業は単なるサービス業から、人生の節目を彩る「通過儀礼産業」へと進化することで新たな可能性を見出せる。文化資産を活かし、地域と連携することで、変化する社会においても持続可能なビジネスモデルを構築できるだろう。
