
結婚式場の倒産がなぜ増えているのか?
厳冬期を迎えた結婚式ビジネス、顧客減少と物価高騰の中でいかに生き残るか
近年、結婚式ビジネスに異変が起きている。急なキャンセルや倒産といったニュースが相次ぐ中、業界はどのような構造的問題を抱え、どう生き残っていくべきなのか。今回は、老舗結婚式場「八芳園」の井上義則社長に話を聞いた。

Q. なぜ今、結婚式ビジネスは厳しい状況に陥っているのか?
結婚式業界が抱える問題は、マクロ、ミドル、ミクロの3つの視点から考えられます。
マクロ的には少子高齢化の影響が大きく、2024年の婚姻件数は50万組を下回っています。また、物価高、特に食材の高騰と人材不足による賃上げ問題も業界を直撃しています。
ミドル的には、結婚式に対する価値観の変化があります。「なし婚」と呼ばれる婚姻届は出すが披露宴を行わないカップルが21.4%に達しています。さらに、コロナ禍以降のリモートワークの普及により、会社関係者を招かないケースが増え、平均参加人数も減少しています。
ミクロ的には、結婚式場は固定費が非常に高いビジネスモデルです。コロナ禍での融資返済も始まり、人材確保のための短期借入金の返済負担も重くなっています。

Q. 物価高騰の影響はどれほど深刻か?
食材の原材料価格が大きく上昇しています。結婚式では非日常的な体験としてフルコースを提供することが多いのですが、海外からの食材調達コストも、国内の輸送コストも共に上昇しています。料理原価は全体的に1割から2割上昇しているのが現状です。
それにもかかわらず、消費者側が支払える価格は大きく上がっていないため、利益率が圧迫されています。さらに人材不足と賃上げの問題も重なり、人件費も上昇しています。

Q. 結婚式業界の労働環境はどうなっているのか?
結婚式業界の平均年収は400万円を若干下回る水準で、決して高くありません。その理由の一つが固定費の高さです。結婚式場という「装置」を作るためには莫大な建築費がかかり、その償却費用が常にのしかかっています。
マーケットが右肩上がりであれば、この固定費を十分に回収できるビジネスモデルですが、市場が縮小している現在では回収が難しくなっています。さらに、土地を借りている場合は家賃も発生します。調理場スタッフ、サービススタッフ、プランナーなどの固定人件費も大きな負担となっており、賃上げが難しい状況です。
Q. 結婚式業界の全盛期はいつ頃だったのか?
結婚式業界が最も活況だったのは、団塊ジュニア世代が結婚適齢期を迎えた時期です。1970年代頃には年間婚姻件数が100万組もありましたが、現在はその半分程度に減少しています。
当時は「結婚式をするのが当たり前」という社会通念があり、家と家との結びつきとしての意味合いも強かったため、親が費用を出すケースも多く、盛大な結婚式が一般的でした。
Q. 今後の結婚式のトレンドはどう変化しているのか?
「なし婚」の増加に加え、結婚式の選択肢そのものが多様化しています。従来の披露宴スタイルだけでなく、挙式のみ、写真撮影のみ、海外挙式、レストランウェディングなど、さまざまな形式が選ばれるようになりました。
顧客にとっては選択肢が広がって良いことですが、事業者側から見れば、縮小する市場でさらに細分化が進んでおり、各事業者の実施件数は減少しています。そのため価格競争が激化し、厳しい経営環境となっています。
Q. 結婚式場はどのようなビジネスモデルで成り立っているのか?
結婚式場は典型的な「装置産業」です。装置産業とは、結婚式場やホテル、テーマパークのように、特定の「場」を必要とするビジネスモデルを指します。日本の結婚式ビジネスの特徴は、装置(場所)とオペレーション(運営)が一体化していることです。
これは世界的に見ても珍しいモデルで、例えばアメリカでは、セレモニーを行う場所とそれをプロデュースする会社は別々であることが多いです。日本では高度経済成長期に人口が急増し、効率性と利益を追求するために、場所と運営を一体化させたモデルが発展しました。
このモデルは人口が増加している間は効率的でしたが、人口減少時代には固定費の負担が重くのしかかり、経営を圧迫する要因となっています。
Q. 装置産業としての結婚式場の経営状況を示す指標は?
装置産業の健全性を示す重要な指標として「総資産回転率」があります。この数値が1.0回転以上であれば、効率よく資産を活用して利益を生み出していると言えますが、それを下回ると経営が圧迫されている状態です。
現在のブライダル業界では、この数値が1.0を超えている企業は全体の約2割程度で、残りの8割は厳しい経営状況にあると推測されます。八芳園でも回転率は約0.9ですが、これは土曜日と日曜日はウェディング、平日はビジネスイベントやMICE関連イベントで施設を活用しているからです。ブライダル専業で営業している企業は、より厳しい状況に置かれています。
Q. 結婚式場が競争力を高めるための要素は何か?
結婚式場の競争力は、主に以下の要素から成り立っています:
- 接客力・ホスピタリティ
- ウェディングプランナーの提案力
- 魅力的な商品・サービス
- 装置(施設)そのものの魅力
- 空間デザイン
- ブランド力
- 立地や規模
これらの要素のうち、価格競争に巻き込まれやすいのが中間的な要素です。マーケットが縮小する中で値引き競争が激化しており、商品の差別化だけでは優位性を保つことが難しくなっています。
商品力で見ると、料理は差別化ポイントになりうるものの、各社それなりに努力しており、見た目や味で決定的な差をつけることは難しくなっています。
現状、顧客の選択に最も影響を与えるのは「接客」です。良い接客を受けると、「この人と一緒に結婚式を作りたい」という思いから、プランナーを指名するケースも増えています。人材への投資と採用を強化することで、人が付加価値を生み出す流れを作ることが重要です。

Q. 今後の結婚式ビジネスの生き残り戦略は?
従来の「装置」と「オペレーション」が一体化したモデルから脱却し、それらを分離する戦略が考えられます。例えば八芳園では、日本庭園という文化資産を活かした「拠点」としての機能と、非日常体験を演出する「ワンストッププロデュース」の能力を分けて考えています。
また、インバウンドウェディングも成長分野です。外国人旧婚者、特に中国や韓国からの需要が伸びており、彼らは日本の自然環境や四季を背景にした撮影やセレモニーを好む傾向があります。
結婚式産業単体では厳しい状況ですが、「人生の通過儀礼産業」として再定義すれば、生まれてから亡くなるまでの様々な節目をプロデュースするビジネスへと拡大できる可能性があります。
地方の結婚式場は、地域のセンターピンとして新しい食や文化を発信する場へと転換し、ブライダル産業と観光産業の2軸で収益を上げる戦略が有効かもしれません。
