
地方改革のリアル:60年振りの人口増、北九州市の稼げるまち創り
「私が60年ぶりに人口転入超過に転じた北九州市のリアル」
近代史上最長の人口転出が続いていた北九州市が、2023年に60年ぶりに人口転入超過に転じた。この躍進の裏には「稼げる街づくり」という明確なビジョンがある。2年前の就任以来、経済成長を最優先課題に据え、企業誘致や若者支援に取り組む北九州市長・武内和久氏に、地方改革の最前線を聞いた。


Q: 北九州市の現在の動きを教えてください
北九州市は近年急速に変化している。就任から1年目で、企業誘致の投資額は過去最高の2581億円、フェリーの貨物量は5040万トンで過去最高となった。また観光面では小倉城の入場者数も過去最高を記録し、ふるさと納税や税収入についても全て過去最高になった。
特筆すべきは、スタートアップ企業の出現率が全国トップ10に入っていることだ。これは北九州市の技術力、産業集積、住みやすさに注目が集まっている証拠だと言える。
何よりも大きな成果は、60年間続いていた人口の転出超過が、昨年ついにプラスに転じたことだ。住み続けたいと思う市民の割合も84.1%と過去最高を記録している。

Q: 北九州市のポテンシャルはどのようなものですか?
北九州市は人口約92万人の政令指定都市で、「物づくりの町」として発展してきた。日本製鉄、三大ロボットメーカーの一つである安川電機、TOTOなど世界的な企業が立地し、それを支える企業が集積している。非常にグローバルなつながりを持つ都市だ。
北九州市の強みは産業基盤だけではない。交通インフラが整備され、工学系の人材も豊富で、地震などの災害リスクが低いという特徴もある。さらに、都会的な機能と自然環境が両立した住みやすい「リバブル」な街である。
安全面でも大きく変化している。かつては「危ない町」というイメージがあったが、過去10年間で刑法犯認知件数が85%減少し、一人当たりの刑法犯認知件数は福岡市を下回るまでになった。
Q: 「稼げる街づくり」とはどのような考え方ですか?
「稼げる街づくり」は私の市政運営の中核となる考え方だ。市長が「稼げる街にしよう」と言うと批判を受けることが多い。「福祉をもっとしっかりやるべきだ」「金のことばかりではない」といった声が上がる。しかし、経済的な基盤がなければ、医療も福祉も文化も教育も充実させることはできない。
首長の役割は市民を豊かにし、守ることだ。そのためには強い経済基盤を作ることが不可欠で、それに真正面から取り組んでいる。市の職員全員が「稼げる街」をメインテーマに進んでいる。
具体的には、財政を模様替えして、予算が効果的に使われていない分野から成長につながる分野へ移す。企業を呼び込み、官民投資を増やして経済成長を促進する。その経済成長の果実を文化、芸術、医療、介護などに回していくという考え方だ。
Q: 若者を呼び込む具体的な取り組みについて教えてください
若者を呼び込むための施策として、まず成人式で話題になるド派手衣装について、これまで「街の恥」と批判されてきたものを文化やファッションとして評価し直し、自ら着用して若者を応援するメッセージを発信した。
その3ヶ月後には、全国初となるZ世代によって構成された「Z世代課」を設置した。Z世代の若者たちがあらゆる政策に意見を出せる仕組みを作り、彼らのアイデアを形にするコンテストも開催。そこには300万円の予算もつけた。
アーバンスポーツの分野では、パルクールの世界選手権やスケートボード、ブレイキングなどのイベントを誘致し、若者が新しい文化を創造する場を提供している。
さらに、ナイトタイムエコノミーの振興にも力を入れており、夜間の経済活動を活性化するために、ライトアップや音楽イベント、食事など、様々な夜の楽しみ方を創出している。
Q: 規制緩和と企業誘致はどのように進めていますか?
規制緩和は自治体ができる最も重要な取り組みの一つだ。北九州市には若松という地区があり、美しい海岸線や灯台など観光資源としての潜在力がある場所だが、市街化調整区域などの規制があり観光地化できないと言われていた。
就任直後から、この場所の活用を指示し、担当者を配置した結果、1年で規制緩和の見通しが立った。現在はこの地区にレストラン、カフェ、宿泊施設、物販所などを誘致する計画が進行中だ。規制緩和には国との連携も必要だが、自治体の職員が誠実に努力することで道は開ける。
企業誘致については、トップセールスを積極的に行っている。この2年間で170社のトップと面会し、1000社以上の企業にアピールしてきた。トップセールスには失敗するリスクもあるが、トップ同士が話すことで決断が早く、通常の行政ルートでは見えない視点も共有できる大きなメリットがある。
例えば、半導体後工程の世界最大手ASEの誘致に成功した事例もある。以前PSMCの誘致に失敗した経験を教訓に、粘り強く交渉を続けた結果だ。

Q: 公共空間の活用方法について革新的な取り組みはありますか?
公共空間の活用については、アーバンスポーツの世界選手権開催時に市役所前の道路を全面封鎖し、競技場やパーク内だけでなく、ストリートでBMX競技を行ったことが挙げられる。
また、同じ場所で子どもたちが地面に絵を描く機会も提供した。これは通常の規制の下では実現しない非日常的な体験で、子どもたちに大変喜ばれたイベントになった。
このように、既存の公共スペースの使い方を変えるだけで、新しい風景を見せたり、市民に新たな体験を提供したりできる。そうした取り組みが街の賑わいにつながっていく。
Q: サステナビリティへの取り組みはどのようなものですか?
北九州市は高度経済成長期に「死の海」と呼ばれるほどの公害問題を経験した都市だ。空は「7色の煙」で覆われ、様々な健康被害や環境汚染が進行していた。しかし、女性たちが中心となった市民運動により、企業や市民の行動変容を促し、美しい空と海を取り戻した「公害克服の歴史」を持っている。
この歴史から環境先進都市としてのプライドが生まれ、現在もあらゆる場面で環境への配慮を取り入れている。例えば、バレーボールネーションズリーグという国際大会では、応援で使われるスティックバルーンを全てリサイクルに回し、選手には弁当を配布せずミールクーポンを提供した。
これにより選手たちが街中の飲食店を訪れ、地域の人々と交流する機会が生まれた。2メートル近い外国人選手が地元のうどん店で食事をする姿は街の話題となり、スポーツ大会が単なる競技の場ではなく、街全体が盛り上がるきっかけになった。
また、洋上風力発電の拠点化も進めており、アジアをマーケットとする大規模な洋上風力の総合拠点構想も推進している。
Q: 地方改革のセンターピンは何だと思いますか?
地方改革のセンターピンは「よそ者」の視点だと考えている。よそ者だからこそ、良い意味での破壊ができる。北九州市出身ではない私には、地元の人が見過ごしていた場所のポテンシャルが見えることがある。
例えば、「ここが観光地になるわけがない」と思われていた場所でも、よそ者の目には「観光地になる可能性がある」と映ることがある。このような新鮮な視点が地方改革には不可欠だ。
また、本質的には「ハート」つまり政治的リーダーシップが重要だ。政令指定都市は全国に20しかなく、その一つである北九州市でも、リーダーが変わることで街が動き出す好例を示している。
改革を成功させるためには「勝ち癖」を作ることも大切だ。企業誘致のような数字や成果が見えやすい分野から成功体験を積み上げていくことで、街全体に前向きなマインドが浸透していく。
Q: 地方自治体のKPIとして最も重視すべき指標は何ですか?
地方自治体が最も重視すべきKPIは「経済成長(GDP)」と「人口」だ。特に人口の社会増(転入超過)は大きな自信となる。人が集まる、人が来るということは、住民のシビックプライド(市民の誇り)を高める大きな証拠になる。
北九州市の場合、人口増加は若者とファミリー世代の改善が大きく寄与している。若者を応援し、否定せず、学ぶ姿勢を示すことで、若者の反応を得られた。ファミリー層については、都会機能と自然が両立した住みやすさが評価されている。
安全面でも大きく改善しており、過去10年で犯罪認知件数が85%減少し、安全な街へと変貌を遂げたことも人口増に貢献している。このように経済が成長し、街が豊かになることで街も美しく安全になり、ポジティブなスパイラルが生まれる。それが「稼げる街づくり」の本質だ。
Q: 今後の北九州市の展望について教えてください
北九州市は今、大きな転換点にある。60年ぶりの人口転入超過を実現し、企業誘致や観光、ふるさと納税など様々な指標で過去最高を記録している。このポジティブな流れをさらに加速させていく。
今後も「稼げる街づくり」を基本理念に、若者支援、規制緩和、企業誘致、サステナビリティへの取り組みを継
続・強化していく。特に、土地利用に関する規制緩和は今後のキーワードになるだろう。
日産のEVバッテリー工場の1533億円の投資など、大型プロジェクトもいくつか進行中だ。こうした投資は雇用を生み、地域経済を活性化させる。トップセールスも継続し、グローバル企業の誘致にも積極的に取り組んでいく。
私は「強くなければ優しくなれない」というスローガンの下、しっかりと稼いで経済的な基盤を作り、その上で市民の医療、福祉、文化、教育を充実させるという方針を貫いていく。そして北九州市を、誰もが住みたい、訪れたい、働きたいと思う魅力的な都市にしていく決意だ。
