
トランプ政権と世界経済・米国経済
トランプ政権再び:世界経済と日本経済への影響は?
米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利し、再び政権に返り咲くことになった。トランプ氏が掲げる経済政策は世界経済と日本経済にどのような影響を与えるのか。国際経済の専門家ジョセフ・クラフト氏に聞いた。

「減税でインフレを下げる」という矛盾
Q. トランプ氏は減税とインフレ抑制を同時に掲げていますが、これは経済的に矛盾していませんか?
トランプ政策の大きな矛盾点の一つだ。彼は減税してインフレを下げると言っているが、通常、減税や財政出動はインフレを加速させる。選挙戦中のレトリックと実際の政権運営は必ずしも一致しないことを認識しておくべきだ。
トランプ氏はインフレ問題を非常に気にしており、選挙中も「インフレを対処する」と言い続けてきた。しかし、実際に大統領になったとき、減税とインフレ抑制のバランスをどう取るかが重要な課題となる。その意味で、財務長官が誰になるかによって、政策のバランスが変わってくるだろう。
Q. トランプ氏が公約に掲げる「中国製品への60%関税」は実際に実施されるのでしょうか?
選挙中の極端な発言がそのまま政策になるとは限らない。共和党幹部の見方では、最初から60%の関税をかけるのではなく、まず20%から30%程度の関税をかけ、その後さらに引き上げるという脅しをかけて中国から譲歩を引き出す戦略的アプローチを取る可能性が高い。
また、重要なのは誰が通商代表部(USTR)代表になるかだ。例えばロバート・ライトハイザー氏が就任すれば、より法を意識した現実的な政策になるだろう。一方、エリサ・マクマン氏のような対中強硬派が就任すれば、より対立的な方向に進む可能性もある。
Q. 対中関税政策は日本企業にどのような影響を与えますか?
この問題は日本にとって一言では片付けられない複雑な課題だ。中国で生産している日本企業の製品にも関税がかけられることになり、実質的には「日本にも火の玉が降りかかる」状況になる。
また、アメリカで生産している日本製品を中国に輸出しようとしても、中国が報復措置として関税をかける可能性がある。さらに、中国が「日本はアメリカの同盟国だから」という理由で同様の報復措置を取る可能性もある。
結果として、「サプライチェーンのデカップリング」が加速する可能性が高い。つまり、中国で売るものは中国で生産し、アメリカで売るものはアメリカや西側諸国で生産するという流れが強まるだろう。企業は生産拠点の分散を進める必要がある。
Q. トランプ政権は2018年の日米貿易協定をどう扱うと予想されますか?
2018年に結ばれた日米貿易協定が重要だ。この協定をトランプ氏が尊重すれば、日本に大きな関税をかけてくることはないはずだ。
特に自動車に関しては、協定の中で特殊な取り決めがある。アメリカは乗用車に2.5%、トラックに25%の関税をかけているが、これを維持する代わりに、いわゆる232条のような追加関税は日本にかけないという内容になっている。日本にとってはこの状態を維持した方が有利だ。
ただし、トランプ氏が「協定はもう知らない」と言い出す可能性も否定できず、その場合は状況が変わる。ライトハイザー氏が何らかの形で次のトランプ政権に参画すれば、日本にとっては好ましい展開になるだろう。
Q. 日本の石破政権は、トランプ政権とどのように向き合うべきでしょうか?
重要なのは、第一次トランプ政権と接した経験のある政治家を活用することだ。茂木敏充氏や岸田文雄前首相、秋葉剛男氏などは、トランプ政権との関係構築の経験があり、トランプ氏の扱い方も理解している。
しかし、現在の石破政権にはそういった人材があまり登用されていない。例えば茂木氏はライトハイザー氏と交渉した経験があり、非常に大きな役割を果たせる可能性がある。また、麻生太郎氏もトランプ氏と会っており、このような人材をうまく活用することが重要だ。
日本の政局不安も懸念材料だ。少数与党の石破政権がどこまで続くか不透明な状況で、いつ終わるか分からない政権とアメリカがどこまで真剣に向き合うかは疑問だ。来年の参議院選挙前に石破首相が交代する可能性は非常に高い。
Q. トランプ政権下での株式市場はどのように推移すると予想されますか?
前回のトランプ政権時(2017-2021年)とは環境が全く異なる。当時は低インフレで大幅な減税がサプライズだったため、株価は右肩上がりだった。しかし現在は株価が比較的割高で、インフレも高い。
減税の余地も限られており、減税しすぎると財政赤字が拡大してインフレが再燃し、株価にマイナスとなる可能性がある。そのため、今回は株式市場も警戒感を持っている。一本調子の右肩上がり相場にはならず、乱高下するリスクが高いだろう。
確かに上昇する余地もあるが、下落する余地も同程度あるため、安易に楽観視しない方が良い。
Q. トランプ氏は規制緩和を進めると見られていますが、どの分野に影響がありますか?
トランプ氏は特定の業界には規制緩和、他の業界には規制強化という選択的なアプローチを取る可能性が高い。例えば、暗号資産(仮想通貨)の規制は緩和する方針だ。イーロン・マスク氏もこれを支持している。
一方で、自分を批判するプラットフォームには厳しい態度を取る可能性がある。第一次政権時はTikTokの廃止を主張し、Apple、Amazonも攻撃していた。最近はTikTokの売却に反対するなど方針が変わりつつあるが、これも実際に政権に就いた後どうなるかは不透明だ。
興味深いのは、Appleのティム・クックやMetaのマーク・ザッカーバーグが選挙直前からSNSでトランプ氏を称賛し始めたことだ。トランプ氏の勝利を予測し、後で批判されないように予防線を張ったとも考えられる。
Q. 石破政権はいつまで続くと予想されますか?その後の展開は?
石破政権はとりあえず予算を成立させる必要があるが、過去の少数与党政権はほとんど続かなかったため、長続きすることは想定しにくい。参議院選挙前に首相が交代する可能性は非常に高い。
次期首相候補としては、高市早苗氏、茂木敏充氏、小林鷹之氏、林芳正氏などの名前が挙がっている。しかし、自民党内の主流派と非主流派の対立が問題だ。高市氏はトランプ氏と相性が良さそうだが、あまりにもリベラル寄りの石破氏から極右寄りの高市氏に移行することへの懸念もある。
トランプ政権との関係構築という観点では、茂木氏が最も適任だろう。思想的な一致よりも、トランプ氏の扱い方を理解しているかが重要で、その点で茂木氏は圧倒的に優位だ。また、麻生太郎氏の活用も重要な課題となる。
