
前編:日本人のオルカン一択へ警鐘【成田悠輔】
新NISAだけでは不十分か?識者が語る金融リテラシーの真の価値と落とし穴
「貯蓄から投資へ」という政府の政策が推進され、新NISAを機に多くの人々が投資を始めている。しかし、目先の利益を追求するだけで、本当に金融リテラシーが高いと言えるだろうか?世界経済が不安定さを増す中、日本人はどのように自身の資産を守り、増やしていけば良いのか。本記事では、気鋭の有識者たちの議論を深掘りし、真の金融リテラシーとこれからの投資のあり方について考える。
Q. 新NISAと「貯蓄から投資へ」という政府の動きは、今の日本経済においてどのような意味を持つのか?
新NISA制度の開始は、日本のインフレ経済と個人の資産運用への圧力を象徴している。物価が上がり始めれば、現預金を銀行口座に置いておくだけではその価値が減っていくため、自然と投資へ資金が向かうのは当然の流れだ。さらに、経済学者・成田悠輔氏はこの動きに「日本が稼ぐ方法をなくした末、最後の頼みの綱が2000兆円に及ぶ個人資産になった」というネガティブな側面があると指摘する。
投資に関する議論では、往々にして短期的なリターンばかりが焦点となる。しかし、真に考えるべきは「金融や資本市場をどう活用し、国、文化、人々といった社会全体を長期的に豊かにしていくか」という視点である。単なる短期的な金儲けではなく、持続的な価値創造に資する資金の使い方が求められているのだ。
Q. 史上最高値を更新した現在の株価は、日本経済の実力を反映しているのか、それとも過熱した「バブル」に過ぎないのか?
日経平均株価の史上最高値更新を受け、現在の市場動向を巡って識者の意見は二分している。
悲観論者は、現在の株価を「ファンダメンタルズでは説明がつかないバブル状態」と見ている。経済評論家の中空麻奈氏は、新NISAによる国内資金の流入や、中国を回避する海外投資マネーが日本に集中している需給要因が大きいと分析。円安により外国人から見ればまだ割安で、一時的に4万2000円程度までは上昇の可能性がある。しかし実体経済の成長を伴わなければ「上がりすぎた分は必ず下がる」と警鐘を鳴らす。
一方で、楽観論者は、株価の上昇を「日本経済の正常化と魅力向上」と捉えている。上場企業経営者からは、約30年続いたデフレ経済からインフレ経済への転換、企業の収益増加、そしてそれに伴う賃上げという良いスパイラルへの期待が指摘される。また、政治的にも法的にも安定している日本は、不安定な中国市場などに代わる安全な投資先として、海外投資家からの注目を浴びているという。株価は「未来収益の逆算値」であると考えると、現在の期待値を超える成長性も期待できると述べる。
Q. 「金融リテラシーが高い」とは具体的にどういう状態を指すのか?また、日本におけるその課題とは何か?
金融リテラシーとは、「積極的なリスクを取り、高いリターンを追求すること」だと誤解されがちである。米国では高いリターンを求める文化がベンチャーキャピタル産業を育てた一方、借金による破産者が多発している現実がある。この両面が米国の金融リテラシーの実態と言える。対して日本では、現預金で資産を保有し、大きなリスクを避け、多くの人が同様の資産形成をしてきた背景がある。
この結果、日本は所得の格差が控えめな一方で、投資から得られる金融資産のキャピタルゲインにおける格差は、先進国中で最大級とも指摘される。問題は、多様なリスク許容度やライフスタイルを持つ個人が、画一的な資産形成を選びがちであることだ。本当の意味で金融リテラシーを高めるには、「自分がどういう人間で、どういうライフスタイルを求めているのか、どれくらいのリスクなら許容できるのか」といった自分自身の内面を深く理解することが不可欠となる。
Q. 新NISAで「オルカン」を始めた投資初心者が、次に何をすべきか?投資で失敗しないためのポイントは?
新NISAで「オルカン」から投資を始めるのは良い第一歩である。しかし、そこから自身の資産を着実に増やすには、次なるステップとして「自分のリスク許容度」と「出口戦略」の確立が不可欠となる。
金融の専門家は、分散投資の基本として「資産の3分の1を現金、3分の1を債券、残りを株などのリスク資産」に分けるバランスを推奨する。また、円だけでなくドルや高金利通貨など複数の通貨に分散させることで、為替変動リスクも軽減できる。
投資で最も難しいのは「どこで売るか」の判断だ。株価の「見た目の利益」(評価益)は、実際に売却して初めて自身の利益となる。ピークで売るのは不可能なので、「欲をかかず、8割で売れれば成功」と考えるのが賢明だ。人間の心理は、利益が出ると早く売りたがり、損失が出ると「いつか戻る」と期待して持ち続けてしまう傾向がある。これを克服するため、「○○%上がったら売却する」といった明確なルールを設定する、あるいはロボアドバイザーを利用するなど、感情を排した「仕組み化」が重要だ。
個人投資家の最大の強みは「待てる」ことだ。プロのように四半期ごとの評価を気にする必要がない。優良な資産であれば、多少の下落があっても焦らず長期保有を継続することが成功の鍵となる。
Q. 子供から大人まで、最速で本質的な金融リテラシーを身につけるにはどうすれば良いか?
本質的な金融リテラシーは座学だけでは得難く、「実体験」が最も効果的だ。例えば、実際に物を仕入れて売る「商売」を体験することで、投資、利益、株価といった経済の基本原理が身体的に理解できる。ファンドマネージャーも、最初に少額を渡され、運用経験から学びを深める。とにかく、小さくても良いので、実際にお金を動かす経験を積むことが推奨される。
しかし、新NISAで多くの人々が「オルカン」に資金を集中させている現状には、懸念も示される。もし世界的な株価下落が起これば、多数の個人が含み損を抱え、「世論」がパニックに陥るリスクがある。これは政府の信用を揺るがし、ひいては社会問題に発展する可能性を秘めている。過去の金融危機が繰り返される可能性も踏まえ、投資は「全がけ」せずに、日々の生活に必要な資金は確保し、適切なリスク許容度内で取り組む慎重さが求められる。
Q. 情報が溢れる現代において、「正しい投資情報」と「騙しの情報」を見分け、資産を守るにはどうしたら良いか?
YouTubeなどのプラットフォームには良質な投資情報が数多く存在する一方で、「1億円をすぐ稼ぐ方法」のような情報商材や、著名人の名前を騙るSNS投資詐欺も横行している。2023年のSNS投資詐欺被害は警察庁が把握するだけで500億円を超え、その手口は巧妙化している。詐欺から身を守るためには、情報を見極めるメディアリテラシーを向上させる必要がある。
まず「過剰に美味しい話」は存在しないという原則を認識することが重要だ。「あなただけの情報」「ここだけの情報」といった排他的な誘い文句、あるいは「利回り1000%」といった非現実的な高利回りを提示された場合は、詐欺を疑うべきである。あらゆる情報に潜む「ポジショントーク」(発言者の立場に基づく主張)を理解し、一つの情報源を鵜呑みにせず、多角的な視点から総合的に判断することが求められる。
SNS詐欺への対策として、法規制が求められるが、日本は過剰規制に陥りやすく、健全な投資活動まで阻害するリスクがある。むしろ、被害者の「救済制度」や「騙されないための金融リテラシー教育」、それを支える「セーフティネット」の整備がより効果的との意見がある。リスクとリターンの関係性、「リスクを取らないと儲からない」という真理を義務教育段階から理解できる教育が必要である。
