
女性活躍の現在地
女性活躍の現在地とキャリアの主導権を取り戻す処方箋
近年、「女性活躍」という言葉が定着し、制度の整備やリモートワークの浸透によって働きやすさが向上したかのように見える場面が増えている。
しかし現実の現場では、いまだに息苦しさやキャリアの停滞感を訴える声が後を絶たない。
制度と実態の間に存在する深い溝は、どこから生まれているのか。
本稿では、女性の新しい働き方を支援してきた知見をもとに、法改正の波や女性管理職の育成パイプライン問題、そして家庭と仕事の両立を阻む構造的な壁を掘り下げる。
男女双方が能力を最大限に発揮できる真の社会変革に向けて、いま何が必要とされているのかを明らかにする。

Q. 女性の就業環境はこの十数年でどう変化し、いまどのような悩みに直面しているのか?
十数年前の2013年当時は、第1子の出産を機に4割以上の女性が仕事を離職せざるを得ない時代であった。
出産後に職場へ復帰しても、やりがいのある仕事を任せてもらえなかったり、適切な評価を得られなかったりする悩みが大半を占めていた。
現在では法整備やリモートワークの普及が進み、ライフイベントを理由に離職する女性の割合は劇的に低下した。
働き続けること自体が困難だった時代から、就業継続を前提としたステージへと社会は着実に進歩している。
一方で、働き方の選択肢が急激に広がったことで、新たな迷いが生じている。
正社員としての勤務に加えてフリーランスや在宅勤務など選択肢が多様化した結果、今の自分にとって何が最適解なのかを測りかねるケースが増加した。
さらに柔軟な働き方を容認する先進企業が増えたことで、出社を前提とする旧態依然とした職場に身を置く女性は、より強い働きづらさや格差を意識するようになっている。
環境の格差が可視化されたことが、現代の女性が抱える新たな葛藤の源泉である。
Q. 法改正によって企業の現場にはどのような変革と課題が突きつけられているのか?

男女雇用機会均等法の施行から40年の節目を迎え、女性活躍推進法にも大きな改正が加えられた。
男女間の賃金格差や女性管理職比率などのデータ開示義務が、従来の従業員301人以上から101人以上の企業へと大幅に拡大された。
この基準引き下げにより、これまで積極的な情報公開を行ってこなかった中堅企業の人事部門も、迅速な情報開示と体制整備を迫られている。
形だけの施策にとどまらず、企業経営の本質的な透明性が厳しく問われる局面に入った。
また、同法律の適用期間が2036年まで10年間延長された事実は、日本のジェンダー平等の遅れを端的に示している。
本来であれば期限とともに役割を終えるはずの枠組みが、目標未達ゆえに存続を余儀なくされた。
重要なのは、女性活躍推進とは単に女性を優遇する運動ではないという点である。
固定的な役割規範は男性に対しても過重な責任や制約を課しており、偏りを解消することは社会全体の健康的な発展につながる。
10年後には特別に女性だけを対象とした支援が不要になる社会を築くことこそが、本来の到達目標である。
Q. なぜ女性活躍の実感値が低く家庭内で負荷の偏在が起きてしまうのか?

意識調査によると、女性活躍推進の効果を実感している当事者はわずか27.1%にとどまる。
世間の機運の盛り上がりに反して実感値が伸び悩む背景には、仕事と家庭の両立における過酷な実態がある。
仕事も家事も完璧にこなそうとする結果、合計200%のエネルギーを費やし「無理ゲー」と吐露する女性は少なくない。
女性側がリモートワークなど柔軟な働き方を選んだ結果、家庭内のケア労働が女性へ過剰に集中する皮肉な現象が生じている。
柔軟な働き方が浸透したことで、配偶者やその所属企業が女性の家庭内労働にフリーライドする構造すら生まれている。
男性側が職場で休めないことを理由に家事育児を免除される一方、女性側にばかり負担の皺寄せが及ぶ現状は根深い。
この不均衡を打破するためには、夫婦間でキャリアや将来設計について率直に対話することが欠かせない。
転職や独立時に生じる配偶者からのブレーキを防ぐためにも、日頃から業務や育児のスケジュールを可視化し、対等にシェアする仕組み作りが必須である。
Q. 日本企業で女性管理職が育たない真因とパイプライン不足の実態とは何か?
東証プライム上場企業の女性役員比率は18.4%まで向上しているが、その実態を見ると約9割を社外役員が占めている。
ガバナンスや管理監督を担う社外役員の登用自体は重要であるものの、社内生え抜きの女性役員が1割程度しか存在しない事実は極めて深刻である。
役員は突然外部から降って湧く存在ではなく、係長、課長、部長といった各段階の登用パイプラインが健全に機能して初めて輩出される。
中間管理職層の女性が育つ前に離脱してしまう構造が、内部昇格を阻む決定的な要因となっている。
この育成不足を招いている元凶が、組織内で無意識に生じる「経験付与の格差」である。
男性社員には営業や経営企画などの主力部門や責任ある修羅場経験が充てられる傾向がある一方、女性社員は無難なバックオフィスに配置されがちである。
困難な課題を克服する機会から女性を遠ざける過度な配慮は、結果として昇進に必要な実績の獲得機会を奪うことに終わる。
新卒採用時の比率を揃えるだけでなく、若手時代に与える業務機会の質を等しく設計しなければ、真のパイプラインは形成されない。
Q. 変化の時代に個人がキャリアの主導権を握るために取るべきアクションとは何か?

30代から40代にかけては、育児や介護など多種多様なライフイベントが重なりやすい時期である。
私生活の制約が増大する時期を見据え、20代の早い段階から主体的に手を挙げて困難な修羅場経験を積んでおくことが、強固な防御策となる。
コアな実績と業務遂行能力を先行して蓄積しておくことで、将来的に負荷を調整する場面でも選択肢を狭めずに済む。
同時に、フレックスタイム制やリモート勤務など時間と場所に柔軟性を持つ就労環境を自ら選び取っていく姿勢も不可欠である。
少子高齢化と人口減少に直面する日本において、人材という最大の資産をフル活用できる環境整備は、企業経営の持続可能性を左右する。
就業環境の自由度を高めることは、多様な優秀層を惹きつけるための必須条件である。
そして働く個人の側も、組織任せの受け身な姿勢から脱却し、キャリアの主導権を自分の手で握る強い意志が求められる。
自らが求める価値観を言語化し、枠組みにとらわれず最適な環境を自発的に選択し続けることが、先行き不透明な時代の突破口となる。
