
AI時代に管理職は不要か?
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2026年8月22日
AIの導入だけでは組織の生産性は決して上がらない。AIがコモディティ化する時代に、ハイパフォーマーを輩出する組織の条件とは何か。マネージャーは部下にどのような「泥臭い経験」を与えるべきなのか。パーソル総合研究所主席研究員の小林祐児氏に徹底解説してもらった。 <ゲスト> 小林祐児|パーソル総合研究所...
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AI時代に「差がつく人材」が持つ能力とは? 「アニマルスピリット」と「立体思考」を育む3つの非AI経験
人工知能(AI)は、もはやビジネスの現場において不可欠なツールとなった。多くの企業がAI導入を進め、効率化や生産性向上への期待は高まる一方である。しかし、AIに頼りすぎることで、私たちは知らず知らずのうちに、人間固有の能力を蝕まれているのかもしれない。
本稿では、AIの恩恵を最大限に享受しつつ、自らの価値を向上させるための新たなアプローチを提唱する。AI時代を生き抜くために個人が育むべき能力、そして組織が提供すべき経験とは何かを、具体的な質問を通して考察する。

Q. AI活用が進む現代において、個人が能力を伸ばすために注意すべきことは何か?
AIの活用がもたらす「アンチスキリング」に注意すべきだ。これはAIが代替するタスクが増えることで、人間本来の判断力、思考力、経験といったコアスキルが低下する現象を指す。AIに任せるほど自身の能力が下がり、最悪の場合、AIに置き換え可能な人材になるリスクも生じるだろう。
一見、AIによる効率化は生産性向上に繋がるように思える。しかし、多くの研究では、作業が高速化してもその後のファクトチェック、修正、不必要な情報の量産などにより、マクロな視点で見れば期待ほど生産性が向上していない実態がある。
Q. AI時代に企業や個人が育むべき重要な能力とは何か?

AI時代に特に重要となるのは「アニマルスピリット」と「立体思考」の二つの能力である。AIでは代替できない、人間に固有の探求力と多角的な視点を持つことが肝要だ。
「アニマルスピリット」とは、現状に甘んじることなく自発的に挑戦し、アイデアを行動に移す主体性と好奇心に溢れた状態を指す。企業に飼い慣らされ、年を重ねるごとにこのスピリットが失われがちだと指摘されている。対して「立体思考」は、目の前の事象や仕事の前提を疑い、全体を俯瞰し、物事を多角的に捉える認知能力である。
Q. 「アニマルスピリット」と「立体思考」はどのように育てるのか?
これらの能力を育むには、座学だけでなく「実践を伴う学び」が不可欠だ。
アニマルスピリットは「冒険探索型の学び」を通して向上する。仲間との共同プロジェクト、少し長めの研修でチームを組ませての企画実施、あるいは意図的な失敗経験といった、リアルな環境で自律的に行動する機会を設けることで育まれる。硬直した組織構造ではなく、新しいアイデアを試せる柔軟な場が、その開花を促す。
一方、立体思考は「読書」によって特に強く培われることが分かっている。統計的にも読書経験が多い人ほど立体思考が高まる傾向があるという。動画やスマートフォンといった受動的なインプットから離れ、本と向き合うことで深い認知体験が得られ、目の前の情報を客観的に相対化・俯瞰する力が磨かれるだろう。
Q. AIを離れて培うべき3つの「非AI経験」とはどのようなものか?

AIに頼りすぎる現状を打破し、能力を総合的に引き上げるためには、「手触り」「見渡し」「踏み出し」という3つの非AI経験が鍵となる。これらの経験は、いずれもパソコンの前を離れて得られるものであり、現代において特に意識的に取り組むべき活動である。
手触り経験: 現場で物理的、直接的、身体的、または対人的な経験を積むことだ。例えば、顧客の声に耳を傾ける、店舗の状況を肌で感じる、イベントで多くの人々と熱狂を共有する「集合沸騰」といった経験が含まれる。これにより机上の空論ではない、現実に基づいた感覚を養う。
見渡し経験: 組織やプロジェクトを俯瞰し、全体像を捉えることである。役職が上がることで自然に得られるが、若手のうちから部門横断プロジェクトに参加したり、後輩の教育係を務めたりすることでも養える。自社の状況を「引きの目」で捉え、戦略的な視点を持つ。
踏み出し経験: 慣れた環境を飛び出し、新たな挑戦をする越境的な経験だ。副業、海外出張、または他部署や社外コミュニティへの参加などが含まれる。現在のドメスティックなやり方から一歩踏み出すことで、アニマルスピリットが飛躍的に高まる。
これらの経験はAI活用とは対極に位置するが、だからこそ人間の持つ独自性を引き出し、AIだけでは到達しえないレベルの成長を促す基盤となる。
Q. AI時代のマネージャーに求められる「新たなリーダーシップ」とは何か?
マネージャーは、部下がAIを使いこなせるようサポートしつつも、同時に彼らをAI依存から引き剥がす「お節介」な役割を担うべきである。
まず、成果の基準を明確にし、AI生成物に対しても安易に「OK」を出さない厳しさが必要だ。見栄えだけ良く中身が薄いアウトプットに対しては、ただボツにするのではなく「AIへの質問のどの観点を変えて再考すべきか」といったメタ視点での具体的な指導を与え、部下自身の思考力を高める機会とすべきだ。AIに何を聞くかというプロンプトが重要になるだろう。
次に、部下をAIから「引き剥がす」努力が重要だ。現代は読書離れが進むが、マネージャーが自身の経験や信頼関係に基づき、部下にとって質の高い書籍をレコメンドすることは、ネットの浅い情報から彼らを引き離す効果的な方法だ。本を通じて体系的な知見に触れることは、他人に真似できない深い知性を育む。
さらに、AI活用の「サイロ化を防ぐ」意識を持つ必要がある。特定部署のAI活用事例をデータベース化し、他の部署へ展開する視点だ。マネージャー自身が「これを使えば新しい何かができるかもしれない」というアニマルスピリットを持ち続け、全社的なイノベーションに繋げるためのハブとなることが期待される。AIは組織独自の文脈を理解できないため、人間ならではの判断と指導が不可欠である。
Q. AIの進化は「知性」と「学歴」の価値をどのように変えるか?

AI時代においては、「本当の知性」がこれまで以上に高い価値を持つことになるだろう。AIハイパフォーマーと呼ばれる人材は、単にAIの操作に長けているだけでなく、豊富な「AI以外のインプット」や強い知的好奇心、独立した判断軸を持つ傾向にある。
AIが生成する大量の情報を抽象度の高いレベルで統合・再構築し、明確なストーリーとして他者に伝える能力は高度な知的労働であり、知的なトレーニングの経験が有無を分ける。単純な業務処理や、人当たりの良さだけで成果を出してきた人材の活躍の場は狭まり、深く考え、複雑な問題を解き明かせる少数の「頭を使える人材」に成果が集中する形で、組織内で新たな格差が生まれると予測される。
正解のない問いについてリアルな他者と対話し、深く思考し続ける「哲学対話」や、体系的な知識をインプットできる「読書」は、AIに代替されにくい人間固有の知性を養う上で極めて重要となるだろう。単に勉強ができるというよりは、自分の頭で深く考える力、既存の枠にとらわれずに本質を探求する力、まさにリベラルアーツ的な素養の価値が高まる時代だと言える。
