
日本代表5人をプロデュース。菅原由勢を支える「最強の代理人」
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2026年5月23日
サッカー界で影響力を増す代理人。欧州に住み、菅原由勢選手など日本代表5人の担当をするのが「Sports360」の龍後昌弥氏だ。代理人の仕事、選手との関係などについて、龍後氏と菅原選手に聞いた。 <ゲスト> 龍後昌弥|サッカー代理人 ドイツの大手代理人事務所「Sports360」に所属。アジア部門責...
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「最強代理人」が語る、欧州サッカービジネスの真髄と日本への提言
サッカー代理人という仕事は、これまで選手の移籍を裏で支える「黒子」というイメージが強かった。
しかし近年、欧州サッカー界では代理人の影響力を高まっている事例が増えている。その象徴的存在の一人が、「最強代理人」と称される龍後昌弥氏である。

彼が著書を執筆した背景には何があるのか。日本代表の菅原由勢選手との対談を通じ、移籍市場のダイナミクス、選手の多岐にわたるサポート体制、そして欧州と日本のサッカービジネスにおける決定的な差異について深く掘り下げていく。
本稿では、選手のキャリアを左右する代理人の真の役割、現代に求められる関係性、そして日本サッカー界が直面する課題と解決策に迫る。
Q. なぜサッカー代理人は自身の物語を本にして世に問うたのか?
龍後氏が所属するドイツの大手代理人事務所「Sports360」では、菅原由勢、瀬古歩夢、小川航基、塩貝健人、松木玖生、久保建英といった選手を担当。そのうち5選手が2026ワールドカップの日本代表として選出されている。日本サッカー界でこれほどの勢力を持つ代理人でありながら、自身の経験を語る著書を出版した背景には深い意図がある。
当初、書籍出版のオファーは菅原選手に届いたが、彼は「まだ自分に語るべき物語はない」として辞退した。その窓口を務めていた龍後氏に、代わりに執筆の機会が訪れる。

龍後氏はドイツ在住で欧州サッカーの最前線で働く経験から、自分がやってきたことを日本サッカーに還元できると考えた。
海外では、代理人がメディアに登場し、積極的に情報発信することは珍しくない。龍後氏が所属するSports360の会長も自伝を出版しベストセラーとなり、業界内での影響力を高めている。このような事例を見て、龍後氏も自らが経験してきた選手の物語、移籍の裏側にある駆け引きを世に問うことが、日本サッカーの発展に繋がると確信したのである。

Q. 欧州サッカー市場で「最強代理人」とされるために不可欠な要素とは何か?
龍後氏のような欧州に拠点を置く代理人の最大の価値は「情報の鮮度」と「スピード」だ。菅原選手は、日本にいる代理人と比較して、欧州在住の龍後氏が提供する情報の質と、迅速な対応を特に強調する。
欧州のクラブとのミーティングにおいて、日本にいる代理人であれば時差やフライト時間を考慮し、Zoom設定に手間取ることもあるだろう。しかし欧州にいれば、LINE電話のような手軽さで即座に連絡が取れ、Face to Faceでの直接交渉も容易である。
これは細部に思えても、交渉の熱量や選手の思いを伝える上で極めて重要な要素だ。
サッカーの世界では「情報の鮮度が命」であり、移籍市場は刻一刻と状況が変化する。1日や2日の遅れが選手の未来を大きく左右することも珍しくない。
特に移籍期間の終盤には、数分ごとの判断が求められることもある。
その際に、時差なく即座に動ける現地在住の代理人の存在が、選手のキャリアを最良の方向へ導く決定的な要素となるのだ。
Q. 移籍交渉はどのようなプロセスで進行し、代理人はいかに選手を最適な環境へ導くのか?
菅原選手のブレーメン移籍は、まさに龍後氏の持つネットワークと交渉力の真髄を示す好例だ。菅原選手が前シーズン所属していたサウサンプトンでは、移籍直前にドイツ人のGMが就任していた。
このGMは龍後氏の同僚と20年来の友人という深い関係にあった。
さらに、ブレーメンの監督とは龍後氏の別の同僚(元選手で現代理人)が長年の付き合いを持ち、同クラブの強化部長と龍後氏の社長も強固な関係を築いていた。これらの複数経路を使い、サウサンプトン側、ブレーメン側、そして選手自身の意向を綿密に調整したのである。
この移籍は、偶然が重なったパズルのようであったが、最終的にはワールドカップ出場を目指す菅原選手の「5大リーグでプレイする」という強い意思をクラブ側が尊重し、リリースする形で成立した。これは契約クラブ、移籍先のクラブ、選手本人、そして代理人やそのバックにある関係者が一堂に会して初めて成し遂げられるものだ。
龍後氏は、自身の成功は、一つ一つの目の前の仕事を愚直にこなし、信頼を積み重ねた結果だという。
トップエージェントである会社の社長のもと、日本人、アジア担当の長として裁量権を与えられ、さらに欧州で活躍する日本人選手たちの「日本人ブランド」も後押しになっていると語る。
Q. 代理人の仕事は移籍の仲介に留まらない。他にどのような多角的なサポートを提供するのか?
代理人の役割は、単なる移籍交渉の仲介にとどまらない。龍後氏の仕事は、選手がサッカーに集中できる環境を文字通り全方位的にサポートすることだ。
彼は担当選手の全試合をライブでチェックし、率直なフィードバックを与える。試合のパフォーマンスだけでなく、戦術的な課題やメンタル面についても深く踏み込んだ助言をする。また、より高度な分析を求める選手には、アルゼンチン人の分析官や、食生活を支えるシェフなどを紹介を行う。
さらに、欧州クラブのメディカル体制が日本人選手に合わないといった悩みに対しては、ドイツやイギリスに住む専門の理学療法士を紹介するなど、きめ細やかな生活サポートも欠かさない。これにより選手は、ピッチ外のあらゆるストレスから解放され、サッカーに100%集中することが可能となる。
まさに代理人は、選手にとって「家族」とも表現されるような伴走者であり、その信頼関係の深さが選手のパフォーマンスとキャリア形成に直結する重要な要素である。
Q. 欧州サッカー界の代理人ビジネスは日本のそれとどう異なるのか? 日本サッカーが目指すべき姿は何か?
現代の代理人には、選手との親密な関係性が求められる。かつての権威的で強面なイメージではなく、選手と「友達」のように接し、本音で話し合えるフレンドリーな距離感が、特に若い選手たちのニーズに合致していると龍後氏や菅原選手は語る。

欧州の代理人業界は、移籍金や選手の年俸に応じた歩合制が主流だ。ビッグディールを成立させれば、事務所に莫大な報酬が入り、それが社員にも還元される仕組みとなっている。成果が正当に評価され、高い報酬が得られることは、夢のある仕事であると同時に、裏金などが介入しにくいクリーンなビジネス構造を構築する側面も持つ。
一方、日本のサッカー界では、このビジネスサイドの報酬体系に大きな課題がある。
「スタッフよりも選手に金をかけるべき」という風潮や、親会社からの給与体系が影響し、優秀なGMや強化部長が高額な報酬を得にくい。これにより、優秀な人材がサッカービジネス界に集まりにくいという負の構造が指摘されている。
龍後氏は、欧州のようにビジネスサイドの人材にも正当な対価を支払い、彼らの成長を促すことで、クラブ全体が強くなり、結果として選手にも恩恵がもたらされるという考えを示す。
日本サッカーが世界に伍していくためには、このようなビジネス環境の整備が不可欠だ。
Q. 激しい競争に身を置く選手を代理人はいかにメンタル面で支えるのか?
代理人として成功するには、まず一人のトップ選手を「捕まえること」が重要だ。その選手との強い信頼関係が、キャリアを築く上での起点となる。選手発掘のルートも多岐にわたり、欧州クラブのスカウト網からの情報や、日頃から築き上げてきた指導者との人脈などが、新たな才能との出会いに繋がるという。
試合後のコミュニケーションは、選手との信頼関係を深める上で欠かせない。龍後氏は、たとえ遠隔地でも試合を観戦し、その後に選手と直接会うか、電話で話すことを重視する。選手が不満を抱えている時は、その言葉を傾聴するだけでなく、本人が自己解決できるよう導くことが重要だ。
例えば、菅原選手がスタメン落ちした際、彼は監督に直談判しようと感情的になっていた。その時、龍後氏は頭ごなしに止めるのではなく、「相手(監督)はどう思うと思うか」と問いかけ、彼自身に冷静に考えさせた。この対話型アプローチにより、菅原選手は怒りをパフォーマンスに転換し、その後の活躍に繋げることができたのである。
また、塩貝選手が試合に出られない時期でも、監督の文句を一切言わず「練習でやるだけ」と語る自責思考に感銘を受けたと龍後氏は話す。欧州の厳しい環境で孤独と向き合い、自問自答を繰り返す経験は、選手を精神的に大きく成長させる。
代理人はその過程に寄り添い、選手が壁を乗り越えるための重要な「伴走者」となるのだ。
