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ガス電気料金上昇へ:ホルムズ海峡以外にも懸念が
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2026年3月5日

中東の緊迫化はエネルギー情勢にどう影響するのか。原油輸入のほとんどを中東に依存する日本にとって、代替不能な供給断絶は電気・ガス料金の高騰を招く。エネルギー自給国であるアメリカをも巻き込む価格高騰のメカニズムと、イランが「捨て身」の行動に出る可能性を専門家が徹底分析。 <プロフィール> 小山 堅|日...
中東情勢緊迫化、世界と日本のエネルギー安全保障に迫る脅威
世界経済を左右する中東情勢の緊迫が、今再びエネルギー供給に影を落としている。特に世界のエネルギー流通の大動脈であるホルムズ海峡の安全保障が揺らぎ、その影響は日本を含む各国に甚大な影響を与える。今回の危機が過去と比較してどう異なるのか、そして我々が直面するエネルギー価格の未来について、日本エネルギー経済研究所専務理事、主席研究員の小山堅氏の分析を基に探る。

不安定な国際情勢の中、エネルギーの安定供給は国家の死活問題だ。ホルムズ海峡を通航する船舶の動向が日々報じられる中、その具体的なリスクと日本への波及経路を正確に理解することが急務と言える。
Q. なぜホルムズ海峡は日本のエネルギー供給にとって生命線となるのか?
ホルムズ海峡は、中東からの原油や液化天然ガス(LNG)を世界に輸送する上で、地理的に避けて通れない要衝である。石油の場合、世界の1日あたりの通航量は約2000万バレルに及び、これは世界の総供給量の約2割を占める。同様にLNGも年間約8000万トンがここを通過し、やはり世界の供給量の約2割に達する。まさに世界のエネルギー供給の「大動脈」と言うべき存在である。

この海峡の重要性は、仮にここが閉鎖された場合、誰もその代替供給を増やすことができないという事実に集約される。それだけ圧倒的な量のエネルギーが、ここを起点に世界へ供給されている。そしてこの動脈が滞れば、当然、エネルギー価格の高騰と深刻な供給不足が全世界で発生する事態となる。特に日本にとっての依存度は極めて高い。
日本は現在、原油輸入の約95%を中東地域に依存しており、そのほぼ全てがホルムズ海峡を通過して運ばれる。そのため、この主要な供給ルートが機能不全に陥れば、日本にとっては文字通り「エネルギー有事」に直面することになる。石油のみならず、全てのエネルギー価格、すなわちガソリン、ガス、電気の価格が一斉に高騰することは避けられない。
Q. ホルムズ海峡の危機が日本のエネルギー価格にどう影響するのか? 価格上昇のメカニズムは?
原油価格の上昇は、まず最も身近な石油製品、特にガソリンや灯油の価格に顕著に反映される。この影響は比較的早く消費者に到達する。ガソリンスタンドでの価格変動を多くの国民が日々実感することになるだろう。しかし、それで終わりではない。
次に天然ガスの価格が影響を受けるが、ここには特有のタイムラグが存在する。天然ガスの価格は原油価格に連動して決定されるものの、その変動が実際の料金に反映されるまでには通常3ヶ月から4ヶ月程度の時間差が生じる。これは、長期契約の価格決定サイクルや在庫の影響によるものだ。
このため、今現在原油価格が上昇し始めたばかりであっても、その影響は数ヶ月後の天然ガス料金や、それに連動する電気料金へと確実に波及していく。仮に足元の情勢が短期的に鎮静化したとしても、既に発生している原油価格の上昇分は、遅れて国民の生活費に影響を与えることを覚悟しておくべきである。
Q. 日本の石油備蓄は今回の危機に十分な対策となるのか?
日本はこれまで多額の費用と労力を費やし、およそ8ヶ月分相当の石油を備蓄してきた。これは国際的にも高水準であり、短期間の供給途絶に対して一定の緩衝材となることは確かだ。しかし、この備蓄だけで今回のような大規模かつ長期化しうるエネルギー危機を完全に乗り切ることは困難である。備蓄はあくまで時間稼ぎの手段に過ぎないという現実を認識する必要がある。

まずは国民一人ひとりのエネルギー消費に対する意識改革が求められる。例えば、ガソリンの無駄遣いを避けたり、日常生活における省エネルギーの徹底は不可欠となる。個人の努力に加えて、より効果的な対応のためには国際的な協力が不可欠である。日本単独での備蓄放出は、市場全体に与えるインパクトが限定的である可能性が高いからだ。
米国や欧州主要国など、世界の先進国の多くは同様に戦略石油備蓄を保有している。国際エネルギー機関(IEA)のような枠組みを通じて、これらの国々が協調し、大規模な備蓄原油を一斉に市場へ放出すれば、需給逼迫による価格高騰を一定程度抑制する効果が期待できる。備蓄は単独で使うよりも、多国間協力の文脈で初めて真価を発揮すると言えよう。
Q. エネルギー自給国であるアメリカは、今回の危機から本当に無傷なのか?
中東からのエネルギー輸入に大きく依存する日本とは異なり、アメリカは現在、石油や天然ガスを自国で十分に生産し、むしろ輸出を行うエネルギー自給国としての地位を確立している。そのため、中東からの物理的な供給途絶リスクに直接さらされる度合いは低い。この状況から、「アメリカは今回の危機において比較的安泰だ」と捉える見方もあるかもしれない。
しかし、アメリカもこの危機から完全に無傷でいられるわけではない。その理由は、原油が国際的な市場で取引されるコモディティであり、世界の需給バランスによってその価格が決定されるためだ。世界の原油価格が高騰すれば、アメリカ国内で生産された原油であっても、国際価格に連動して取引され、結果として国内のガソリン価格も上昇することになる。
特に車社会であるアメリカにおいて、ガソリン価格は国民生活に直接的な影響を与える、きわめて政治的な重要性を持つ指標だ。ガソリン価格の上昇は、政権に対する国民の不満に直結し、その支持率を大きく低下させる要因となる。中間選挙などを控える状況であれば、ガソリン高騰は現政権にとって致命的な打撃となる可能性を秘める。したがって、アメリカにとってもエネルギー価格の高騰は決して無視できない深刻な政治課題となるのである。
Q. これまでのホルムズ海峡危機と比べ、今回がより深刻であるのはなぜか?
これまでも中東情勢が緊迫化するたびに、ホルムズ海峡の封鎖可能性は取り沙汰されてきた。その際、専門家の多くは、実際にイランが海峡封鎖という手段に訴える可能性は低いと分析していた。その理由は明確であった。もしイランが海峡を実力で封鎖すれば、それは世界経済、特にアメリカにとって看過できない脅威となり、アメリカは強力な軍事力を行使して介入、最悪の場合、イランの体制転覆にまで発展するリスクがあったためである。
海峡封鎖はイラン自身にとってあまりにもハイリスクな戦略であり、結果的にイラン自身も破滅的な状況に追い込まれると判断されていた。しかし、現在の状況は過去とは一線を画する。特に米国の対イラン政策が、従来の「核開発阻止」から一歩進んで「体制転覆」までをも視野に入れるような言動を伴うようになった。
これにより、イラン側からすれば「もはや失うものは何もない」という「捨て身」の覚悟を持つ可能性が高まっている。追い詰められた状況下であれば、かつては決して選択されなかったような極端な手段、すなわちホルムズ海峡封鎖という最終兵器の使用が、これまで以上に現実的な選択肢として浮上する。これが、今回の危機を過去の危機と比べて、はるかに深刻なものとして捉えるべき理由である。
Q. ホルムズ海峡封鎖以外に、エネルギー供給に影響を与える別の懸念事項はあるか?
ホルムズ海峡の封鎖可能性は主要な懸念材料だが、エネルギー供給への脅威はそれだけではない。現在、もう一つの深刻なリスクとして注目されているのが、軍事攻撃による「物理的なインフラの破壊」である。中東地域での衝突が激化した場合、製油所や液化施設、出荷ターミナルなどの重要なエネルギーインフラが攻撃の標的となる可能性が十分に存在する。

大規模なインフラ施設が一度損傷すれば、その修復には膨大な時間とコストが必要となる。一時的な封鎖とは異なり、施設が物理的に破壊された場合、供給の回復には数ヶ月から、状況によっては数年を要することも珍しくない。封鎖は政治的な決断で比較的早期に解除される可能性があるが、物理的な破壊は修復が完了するまで供給能力を回復させることはできない。
したがって、この物理的なインフラ破壊のリスクは、エネルギー市場により深刻かつ長期的な影響をもたらす可能性があり、単なる封鎖とは異なる次元の脅威として認識する必要がある。