
2026年超予測:フィジカルAIは日本の救世主にならない
2026年超予測:塩野誠が語るビジネス・コンサル業界の未来図
常に未来のトレンドをいち早く捉え、先手を打ってきた経営共創基盤CEOの塩野誠氏が、2026年のビジネスとコンサル業界を予測する。
フィジカルAIの真の可能性からホワイトカラーの仕事の変革、防衛産業の興隆、そして日本企業が直面する長期投資やガバナンスの課題まで、多岐にわたるテーマを鋭く分析した。
独自の視点で未来を見通す塩野氏の予測は、激変するビジネス環境を生き抜くための重要なヒントを与えてくれるだろう。

Q. 塩野氏はどのようにして未来のトレンドを予測しているのか?
塩野氏が未来を予測する上で最も重視するのは、世界をグローバルに俯瞰し、海外と日本の間に生じる「ズレ」を観察することだ。
海外で起きている現象が数年遅れて日本に波及するケースもあれば、逆にアニメなどの日本文化が世界に浸透する現象もある。この「タイムラグ」や「方向性の違い」にこそ、次のトレンドの兆候が隠されていると語る。
また、社会構造の「未来都市」として東京を分析する視点も重要である。
他のアジア主要都市が「若い」と評価される中、東京は「成熟」した都市として、いち早く社会的な課題やライフスタイルの変化を体験している。東京を定点観測することで、今後の社会が向かう方向性を掴む手がかりを得られるとする。

さらに、ビジネスとは直接関係ないと思われる学術分野、例えば地域研究や安全保障の専門家の「まともな研究論文」も注意深く読み込む。
こうした学術的な予測が、数年後にビジネス界に甚大な影響を与えることは少なくない。海外のゲームエンジニアが攻撃ドローン開発に転じるような事象も、こうした多角的な視点からいち早く捉えることができるという。
Q. 日本のビジネス界において、フィジカルAIは救世主となり得るのか?
「フィジカルAIが日本の製造業を救う」という言説は、過度に楽観的な幻想だと塩野氏は断言する。
フィジカルAIの最も分かりやすい例は「自動運転」だが、この分野では既に米国や中国が大きく先行している。
日本の産業用ロボットが持つ「同一作業の高速再現性」という強みと、AIの「未知の環境下でのゼロショット(初見での対応)能力」とは、根本的に異なるスキルセットだと指摘する。
人型ロボット(ヒューマノイド)の必要性についても疑問を呈する。
ヒューマノイドは人間が生活する環境(レトロな環境)にロボットを「レトロフィット」させる発想であり、エネルギー効率の点で根本的な問題を抱える。
ロボットが「立っているだけ」で電力を消費する現状では、エネルギー問題がより深刻化するAIの特性と相まって、その実用性には大きな課題がある。自動ドアや巨大自販機のように、ロボットが活躍できる環境自体を最適化する方が合理的という見解だ。
日本のAI戦略としては、海外の巨大IT企業が開発したLLMなどの基盤モデルを追うよりも、それらをいかに賢く「使う側」に回るかが現実的という。
自動運転技術も、将来的にコモディティ化し、安価に導入できるようになることを待って「フォロワー戦略」を取ることも、合理的な経営判断だとする。エージェントAIの領域にはチャンスがあるものの、大手ITプラットフォーマーに標準機能として統合される可能性も考慮に入れる必要があるだろう。
Q. AIの進化は日本のホワイトカラーの働き方をどう変えるのか?
AIの進化は、ホワイトカラーの働き方に「生産性革命」をもたらすだろう。コンサル業界では、これまで若手コンサルタントが1週間かけていたリサーチや分析作業が、生成AIによってわずか数分で完結する時代に突入した。
この変化は、特に経験の浅いジュニア層に強い危機感を与えている。AIが単純な情報収集・分析を代替する結果、多くの業界で同様の現象が起きると予測される。
かつてバズワードであった「DX」は「AI」へとシフトし、これからはAI投資の費用対効果(ROI)が厳しく問われる「評価のフェーズ」に入ると分析する。
日本企業の「ダラダラ」とした非効率さに乗じて、工数で稼いできたコンサルティングファームは、真に価値を提供できなければ淘汰される運命にある。基盤AIは目まぐるしく進化するため、多くの企業はOSに統合されるAIをうまく活用する戦略をとるべきだろう。
Q. 防衛産業への注目は高まる中、日本企業にとってどのような機会と課題があるのか?
国際政治や国家間の関係がビジネスに直接影響を及ぼす現代において、防衛産業への注目は三菱重工の株価高騰に象徴されるように急激に高まっている。
しかし、ソニーのような民生品メーカーは、技術の軍事転用、いわゆるデュアルユースに対して依然として慎重な姿勢を示している。過去に防衛装備品を製造していなかった企業にとって、その心理的・倫理的ハードルは非常に高いようだ。
防衛産業は、政府が唯一の顧客(B2G)であるため、本質的に利益率が低く儲けにくい構造にある。

海外市場への参入は、既に多くの競合がひしめき合い、厳格な法規制やサプライチェーンの壁が存在するため、新規参入企業には極めて難しい。国内での国産ドローン開発も議論されているが、ウクライナ戦争で日々進化する安価な海外製品と伍していくには高いハードルが存在する。
サプライチェーンの安全保障も大きな課題である。
バックドアやマルウェアの懸念から、潜在的な仮想敵国からの攻撃を受けない「クリーンなサプライチェーン」が重視され始めている。
この安全保障コストをどこまで負担し、新規産業を育成するのかは、国家的な意思決定にかかっているが、現状の日本では大規模な新規投資や開発は難しいだろう。
Q. 政府主導の「混合経済」が主流となる時代、日本はどう対応すべきか?
トランプ政権の「自国回帰」政策や、テクノリバタリアンの有力者(ピーター・ティールなど)が政府との関与を強める動きに見られるように、政府が産業を主導する「混合経済」が世界の潮流となっている。
米国のみならず、各国政府が重要分野に的を絞り、補助金や減税によって企業の投資を誘導する傾向が顕著だ。
日本政府も産業政策を強化し、複数の重要領域を定めている。しかし、問題はその時間軸にある。
量子技術や核融合など、成果が出るまでに数十年を要するプロジェクトも多く、短期間での効果を期待する国民の失望を招きやすい。
また、政権交代による政策のひっくり返るリスクも内包しており、これが長期的な成長を阻害する可能性を指摘した。
現代の経営者は、純粋な民生品事業であっても、地政学・地経学的なリスクやサプライチェーンの国家間関係による変化を先読みし、意思決定に織り込む能力が不可欠であると結論付けた。
Q. 日本企業の中長期的な成長戦略を阻む要因は何なのだろうか?
日本企業では、サラリーマン社長の任期が4〜6年と短いため、10年、20年といった長期的な視点での大規模な投資や戦略実行が構造的に難しい状況にある。
この構造的な課題が、企業全体の意思決定に近視眼的な傾向をもたらしていると塩野氏は指摘する。
PEファンドが日本市場に活発に進出しているが、彼らを「日本の救世主」と呼ぶことには疑問を呈する。
PEファンドはあくまで投資家であり、中長期的な投資は行うものの、回収期間も定まっているため、永続的な成長を支援する存在ではない。アクティビストやPEファンドに「言われたからやる」という他律的な経営姿勢ではなく、企業自身が主体性を持って構造改革を進め、成長投資や賃上げに資金を投じるべきだと強調する。
Q. コーポレートガバナンスにおける社外取締役の役割は今後どう変わるのだろうか?
現在の日本企業には、残念ながら「なんちゃって」な社外取締役が多いと塩野氏は指摘する。
社外取締役は、外部から専門知識やリスクへの示唆をもたらすことができる「スーパーアイテム」のような存在である。
その貴重な枠を数合わせの「イエスマン」で埋めてしまうことは、経営機会の甚大な損失であり、そこに経営陣の必死さが表れるとする。

「女性の社外取締役が少ない」という言説にも異論を唱え、外資系コンサルや弁護士・会計士といった専門職には、豊富な経営経験や知見を持つ優秀な女性が多数存在すると述べる。
人材がいないのではなく、企業側が「探していない」、あるいは「物言う人材」を避けていることが問題の本質だ。
今後、ガバナンス改革が進む中で、本当に自社に必要な知見やスキルを持つ人材を、国籍や性別、企業規模にとらわれずに見つけ出し、積極的にボードに迎える努力が求められる。
