
2026年超予測:中国版「失われた30年」。家も車も飲食もデフレ
過激な世論の裏側: 中国経済「デフレ停滞」と「テック躍進」のリアルな断層を読み解く
中国に関する報道は過激な見出しや断片的な情報に偏りがちだ。しかし、その表面的な情報からだけでは、真の中国社会や経済の状況は見えてこない。
特に現在の中国経済は「デフレ」という長期的な停滞と、「テクノロジー」という特定の分野での目覚ましい躍進という、一見矛盾する二つの顔を持っている。

本稿では、このリアルな断層に注目し、現地の実情やデータから読み取れる中国社会の現在地をQ&A形式で深く掘り下げる。
過度な楽観論や悲観論ではなく、現実に基づいた多角的な視点から、複雑な中国の未来を探っていく。
Q. 中国社会のリアルな姿は、ネット上の情報だけでは見えてこないものか?
日本からの視点で見ると、中国のネット世論は反日的な過激な言説に染まりがちだ。日本の政治家の台湾有事発言に関するニュースが中国のネットで大きく報じられた時期でさえ、実際の中国の街中にはそうしたムードは全くなく、日本の話題に言及する人も皆無であった。
むしろ、人々が語るのは「景気どうだ」「うちの経済は最悪だが、そちらはどうだ」といった自国の経済状況ばかりである。
ウェブの世界とリアルの世界とでは、関心の焦点が大きく異なっているのだ。日中双方において、ネット上の極端な意見ばかりを取り上げ、相互批判や過剰な警戒心を煽る側面が見受けられるが、それは現実から大きく乖離した虚像を生み出すことに繋がる。中国のウェブメディアには日本関連の過激な記事が溢れていても、庶民の日常感覚とは隔たりがある点が顕著である。
Q. 中国の真の世論を把握するには、どのような視点が必要か?
中国の世論は把握しにくい。世論調査が禁止されており、百度(Baidu)やByteDanceのニュースアプリのトピックスランキングも政府の都合により操作されるため、
習近平総書記の動向が常に上位に位置するなどの特徴がある。また、アテンションエコノミーの原理から過激な情報が上位に上がりやすい傾向も持つ。
本当の世論を知るには、これらの操作されたトップ記事のさらに下、ランキング11位以降のトピックスに注目することが有効である。

例えば、先の日本関係の騒動があった時でも、それと同じくらい関心を集めていたのは「電動自転車の国家基準改定」という話題であった。
中国では年間3000万台もの電動自転車が売れる社会インフラであり、そのバッテリー火災や安全基準、あるいは子どもを送迎するための自転車に関する細かな規定改定は、庶民の生活に直結する。このように、生活密着型の「地味な」話題にこそ、国民のリアルな興味や懸念が隠されていると推測できるのだ。
Q. 中国経済を襲うデフレはどの程度深刻で、その実態はどのようなものか?
2020年代に入り、中国経済はコロナ禍以降、低迷を続けている。特に2022年末からは状況が悪化し、政府は2023年9月に大規模な景気対策を宣言したが、その効果は表れていない。住宅販売額は2021年をピークに大幅に減少し、深センのような大都市でも実勢価格がピーク時から3割程度下落しているとみられる。
地方政府の多くは価格維持のため売り出し量を減らす措置をとる中、深センのように価格下落を容認した地域ではその実態が露呈した形だ。
価格下落に耐えきれなくなった個人が中古住宅の売り出しに殺到し、物件数がピーク時の1.5倍以上に急増する事態も発生した。しかし買い手が付かず、価格のマッチングも進んでいない。
中国ではGDPの約3割、家計資産の7割を不動産が占めていたため、資産が2割ほど減少した家庭が多いと試算され、その経済的な打撃は大きい。過剰な供給問題は根深く、解決には「損切り」のような根本的な対策が不可欠だが、政府は現状それを大胆に実行できていない。
GDPのデータからもデフレの深刻さが読み取れる。中国政府は年間5%程度の成長目標を掲げ、実質GDPではこれを達成しているが、インフレの影響を除いた名目GDPは4%前後と大きく乖離する。この1%ほどの差は、物価下落(デフレ)を示しており、GDPデフレーターは2023年第2四半期から2年以上にわたってマイナスが継続、その下落幅は拡大傾向にある。

具体的な事例では、自動車産業が典型的だ。2023年の自動車販売台数は過去最高を更新し、前年比1割増であったにもかかわらず、総販売額は1%減少している。これは一台あたりの価格が下落したデフレの典型的な兆候である。
政府が価格競争を抑制しようとする中で、BYDは220万円という低価格帯の車に運転支援機能や車載冷蔵庫などの「豪華オプション」を無料で提供するといった過剰なサービス競争を展開する。実質的に1割以上の大幅な値引きが行われており、「激ヤス勝負」へのモード転換が進んでいるのが実情だ。
Q. 中国の経済対策は機能していないのか?また、「失われた30年」のような長期停滞は避けられないのか?
政府は不動産の買い上げや子供手当、奨学金の増額といった多様な給付政策を打ち出している。理由なくお金を出すことをためらう中国政府としては異例の大胆な策だ。しかし、それらの対策は規模が不足しており、1年が経過してもモメンタムを転換させるには至らず、効果は空振りに終わっているのが現状である。
このような経済停滞は、特に若年層に深刻な影響を及ぼしている。若年層の失業率は高止まりし、単なる数字以上に雇用の質の悪化が問題だ。
民間の仕事には将来性がなく、かつての起業家精神に溢れていた中国の若者たちは、安定を求めて公務員志向を強める。公務員試験の出願者は毎年50万人ずつ増加し、すでに370万人に達するまでになっている。
人々が経済的苦境を感じる証左として、エンゲル係数もコロナ禍以降に上昇傾向を示している。リスクを取らない超保守的な社会ムードは、中国版「失われた30年」という長期停滞が現実味を帯びていることを示唆していると言えるだろう。
Q. 中国経済がデフレに苦しむ一方で、成長を続ける分野は存在するのか?
国内のデフレとは対照的に、中国はテクノロジーと輸出の分野で力強い躍進を続けている。トランプ政権による関税強化にもかかわらず、中国の貿易黒字は1兆ドルを突破し拡大傾向だ。この成長の背景には、巨額の研究開発(R&D)投資がある。過去20年間でR&D投資額は15倍に増加し、研究開発人員はアメリカの4倍にあたる約800万人を擁する。
豊富な人材と資金を背景に、中国は様々な分野で技術革新を加速させている。特に注目すべきはバイオ、ロボット、AI分野だ。バイオにおいては独自の知的財産(IP)に基づく新薬開発が進行中であり、これを「第二のDeepSeek」と評する声もある。また、24時間無人薬局を稼働させるロボット技術の発展も顕著で、2026年には日本にも進出する計画がある。
AI分野では、PCブラウザの自動操作やリモートドクター、スマホ向けの実用的なアプリ開発において強みを発揮しており、ユーザーフレンドリーな実装で先行している。
これらのテック分野は、国内の停滞ムードとは一線を画す成長のエンジンであり続けるだろう。
Q. 日本企業のデフレ経済下での経験が、中国市場で活かせる可能性はあるか?
日本は長きにわたるデフレ経済を経験し、その中でコスト削減や高付加価値化、新しいビジネスモデルの創造といった多くのノウハウを培ってきた。現在の中国の経営者の間では、日本の「失われた30年」からヒントを得ようとする動きが見られ、百円ショップのような激安ビジネスモデルが模倣される事例も散見される。
日本企業が持つこの「デフレ耐性」は、現在の中国市場において大きな強みとなる可能性を秘めている。

例えば、回転寿司のスシローは深センの店舗で繁盛していた。中国では大人数での食事や家庭料理が主流であり、日本のような一人席でWi-Fiを使いながら手軽に寿司やお酒を楽しむという文化は新鮮に受け止められる。これは、安価でありながらも良質なサービスや体験を提供する日本企業のノウハウが、中国のデフレ下における消費者のニーズに合致していることを示している。
高品質を保ちつつも価格を抑える「劇的に安い」ビジネスモデルは、中国市場で新たな成長機会を掴む可能性を秘めていると言えよう。
現在の中国は、ネットの過激な言説の裏で進む深刻なデフレと社会の保守化、その一方でテック分野が牽引する新たな成長という、複数の現実が同時に進行している。
これからの中国を理解するには、安易な二極化された情報に惑わされず、複雑な現状を多角的に分析し、庶民のリアルな動向や具体的な統計データの背後にある意味を読み解く洞察力が必要だ。
デフレで培った日本のビジネスノウハウが思わぬ形で中国市場にフィットするなど、国際的な相互作用の中での中国の未来に注目すべき時がきている。
