ビジネス虎の巻
AI時代の最強のガクチカは読書【小林祐児×大澤陽樹】
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2026年1月5日

売り手市場が企業側にもたらす企業の無個性化。選ばれるために取るべき採用戦略とは?AI時代の就活最前線をテーマに、パーソル総合研究所の小林祐児氏と、オープンワーク代表の大澤陽樹氏に聞いた。 ▼プロフィール 小林祐児|パーソル総合研究所 上席主任研究員 上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博...
AIが変える就職戦線:学生が求め、企業が苦悩する「本質」とは何か?
AIの進化が加速する現代において、新卒採用の現場では大きな変化と課題が生まれている。AI面接や適性検査は果たして効果的なのか。企業は理想の「A面」ばかりを語り、学生は真実の「B面」を求め奔走する。売り手市場が続く中で、企業は採用の「量」から「質」への移行に苦慮し、学生の早期離職は後を絶たない。
本記事では、激変する新卒就活市場の最前線を深掘りし、企業と学生がそれぞれ直面する現実と、これからの時代に求められる「本質」的な戦略を探る。

Q. AI面接やAI適性検査は採用において本当に意味があるのか?
昨今流行するAI面接やAIを使った適性検査について、専門家からは「意味がない」という見解が出ている。その理由は、学生側もAIを活用して回答を作成し、対策を講じることが可能だからだ。これでは、AIが導入されても本質的な学生の評価には繋がらず、企業側の選考の質が上がるとは言い難い。
AIの能力向上と同時に学生のAI活用能力も高まることで、選考は形骸化しつつある。企業が学生の優秀さやマッチ度を見極めるためには、物語を作り上げるスキルではなく、よりごまかしの効かない客観的なデータが必要となるだろう。

Q. 企業の採用活動はなぜ学生に響かなくなり、どんな課題があるのか?
「選ばれる側」という意識が先行した結果、多くの企業が採用サイト、パンフレット、説明会で「良いこと」しか語らなくなり、情報が画一化してしまった。これにより、学生は企業の情報発信を信用せず、OpenWorkやSNSのオープンチャットといった裏側の情報源で「B面(本音や課題)」を探すようになった。
採用市場が学生優位の売り手市場となる中で、企業の採用課題は「量」の確保から「質」の確保へとシフトしている。採用人数を確保するために基準を下げた結果、入社後に学生のスキルや期待値を調整する「チューニングコスト」が増大し、現場の負担が深刻化している。また、学生はデジタルスキルは向上したが、リーダーシップや積極性に課題を抱えており、企業が求める人材像とのギャップが広がっているのだ。
インターンシップもその多くが「新規事業立案」のような画一的な内容となり、学生の関心を引けなくなっている。質の高いインターンには現場の協力が不可欠だが、多忙を理由に協力を得にくいのが現状だ。形骸化したインターンでは、学生とのギャップを埋めるどころか、逆に志望度を下げるリスクも存在する。
Q. 企業は初任給の引き上げ競争で何を狙っているのか?
近年報じられる初任給の引き上げは、多くが採用マーケティングを目的とした表面的な取り組みに過ぎない。固定残業代を基本給に含めたり、賞与を減らして月額を高く見せかけたりする「見せかけ」の手法が横行している。
優秀な学生は給与の内訳や残業時間まで見抜いて判断するが、多くの学生は表面的な金額に惹きつけられてしまうのが現状だ。採用力向上だけを目的に初任給を引き上げると、既存社員の不満や離職を招きかねない。企業価値に貢献する社員が報われる人事制度全体を設計することこそが、本質的な競争力を高める鍵となるだろう。
Q. 早期離職が後を絶たない根本的な原因は何だと考えるか?
早期離職に関するデータ分析では、「ブランド」「成長性」「安定性」といった漠然とした理由で入社した学生ほど、3年以内に退職する傾向が強いことが判明している。彼らは入社後、「キャリア成長への不安」や「仕事へのやりがいのなさ」を主な理由に離職している。
これは、表面的な魅力に惹かれて入社した結果、企業とのミスマッチや自己の成長実感の欠如を経験するためである。日本企業におけるポテンシャル採用は「未経験でも入社後に成長する」という前提があるにもかかわらず、その後の育成が伴わないと学生は早い段階で壁に直面してしまうのだ。

早期離職の問題は、採用部門と育成部門の間に責任の所在が曖昧な「ノーマンズランド」が存在することに起因する。採用時に得られた学生の個別情報をその後の育成に活かす仕組みが不足しており、部門間の連携が強化されなければ、この問題は解決しないだろう。
Q. 「通年就活化」によって学生のメンタルヘルスはどのように変化しているのか?
就職活動の開始時期が明確でなくなり、大学1、2年生から始まる「薄くて長い通年就活化」が進んでいる。学生は大学生活の多くを就活の準備に費やすことになり、2年から4年間の長期間にわたり、漠然とした不安を抱え続ける。
日本の就職活動は、なぜ不合格になったのか明確な理由が伝えられないことが多く、学生は人間性を否定されたと感じやすい。これが長期間続くことで精神的な負担が増大し、「就活うつ」と呼ばれる状態に陥るケースも少なくない。過度に思い詰めず、「これはゲームだ」というくらいの心持ちで臨むことが推奨されている。
Q. AI時代における新しい採用指標と、学生が実践すべき差別化戦略とは?
AIの普及により、学生はAIを使って魅力的な自己PRを容易に作成できる。これにより、従来のESや面接での「物語を語る力」による評価は限界を迎えつつある。この状況を打破するため、客観的でごまかしの効かない新しい採用指標が求められている。

その一つとして注目されるのが「履修データ」だ。これは、学生が大学で何を学び、どの程度努力してきたかを示す、4年間で1000時間以上を投下した努力の結晶である。これまで人事担当者は履修データを卒業可否の確認程度にしか用いてこなかったが、データ分析が進むことで、授業の難易度、評価の分布、グループワークの多寡などから、学生の潜在能力や学習への真摯な姿勢を客観的に評価できるようになる可能性がある。
AI時代に学生が真の差別化を図るには、AIには代替できない「濃い体験」を積むことが不可欠だ。何かに没頭し、情熱を注いだ経験は、個人の根幹を形成し、AIには真似できない独自の価値となる。
また、AIが学習していない情報に触れることも有効な差別化戦略となる。Web上の情報とは異なり、特に古典や哲学書といった「本」を読むことは、AIにはアクセスしにくい深遠な知識と独自の思考力を養う。周囲がAIに依存する中で、あえてアナログな読書をすることは、間違いなく個人の際立った特徴となるだろう。