ビジネス虎の巻
アルコール依存症の危険サイン/お酒との上手な付き合い方/市販薬依存の危険性/覚醒剤成分を含む薬も
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2026年1月13日

「ビジネス虎の巻」、今回のテーマは身近な薬物依存症。後編では、お酒との上手な付き合い方と市販薬依存の危険性について、専門家が徹底解説。 <ゲスト> 松本俊彦|精神科医 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部 部長。薬物依存症センターセンター長。精神科医として薬物依存症や自傷行...
ビジネスパーソンが知るべき「身近な薬物依存」の現実:アルコール、市販薬、タバコの危険と賢い対処法
私たちの日常に深く根ざした「薬物」が、じわじわと身体と心を蝕むことがある。アルコール、市販薬、タバコなど、合法で手軽に手に入る身近なものほど、その依存性が見過ごされがちである。
本記事では、精神科医の視点から、これら身近な薬物の持つ危険性、そして私たちがどう向き合い、健康的な社会を築いていくべきかについて、専門的な知見をもとに解説する。
自身のパフォーマンスを最大限に引き出すためにも、今一度、依存のメカニズムと対策について深く理解する必要があるだろう。

Q. アルコール依存症は個人の意志の弱さが原因だという見方は正しいか?
アルコール依存症は個人の意志が弱いから陥る病態ではない。これは脳が薬物に「ハイジャック」され、コントロールを失う病気である。
社会に根強く残る「自己責任論」は、依存に苦しむ人々を孤立させ、治療へのアクセスを著しく阻害する。アルコールを巡る問題の本質を「病気」として認識し、偏見なく専門的な支援につなげる環境が求められる。
WHOも少量のアルコールであっても身体への害は変わらないと警鐘を鳴らす。
Q. 健康を維持するために、どのような飲酒量や飲み方が推奨されるか?
健康リスクを最小限にする理想的な飲酒量は、1日あたり純アルコール換算で20g(日本酒1合、ビール中瓶1本程度)が上限とされるが、ビジネスの場では現実的ではないことが多いだろう。

そこで推奨されるのは、1週間の総量を140gで管理する「やりくり」だ。特定の日に多く飲んだ場合は他の日で調整する必要がある。ノンアルコール飲料との「サンドイッチ飲み」や、アルコールと同量の水を飲む「和らぎ水」も有効である。これらにより、血中アルコール濃度の上昇を緩やかにする効果が期待できる。
純アルコール60g(日本酒3合)以上の多量飲酒は、確実に健康被害をもたらすとされている。また、飲酒時の食事も極めて重要であり、肝臓や脳、心臓のダメージを防ぐためにも、タンパク質やビタミン豊富な食事を欠かさないことが大切だ。
Q. アルコール依存症のセルフチェックとして「週に2日連続休肝日」が有効とされるのはなぜか?
アルコールの離脱症状のピークは飲酒から48〜72時間後に現れる。このため、1日だけの休肝日では離脱症状が出ず、「自分は大丈夫」と誤解してしまうケースが多い。
週に2日連続で飲まない日を設けることで、もし離脱症状(多汗、手の震えなど)があれば、それらが発現する期間をカバーし、自身の飲酒問題に気づくきっかけとなる。これは依存のセルフチェックとして非常に有効であると共に、臓器の疲労回復にも繋がる実践的な方法だ。
Q. なぜ10代の薬物依存症の多くが「市販薬」を利用しているのか?
最近の調査によると、精神科病院で治療を受ける10代の薬物依存症患者の7割以上が市販薬を常用していることが明らかになった。
特に問題とされるのは、ドラッグストアで容易に手に入る咳止め薬や風邪薬に、覚醒剤の原料となる「メチルエフェドリン」や麻薬成分である「ジヒドロコデイン(オピオイド)」が含まれていることである。これらは少量なら適応疾患の治療に役立つが、過剰摂取すれば精神を高揚させたり、不安を抑制したりする作用を持つため、安価で手軽な「薬物」として悪用されている。

違法薬物乱用防止教育が盛んに行われる裏で、より身近な市販薬の危険性が軽視され、依存を深めている状況だ。
Q. 「市販薬は病院の薬より安全」という認識は真実か?また、その依存の背景には何があるのか?
「市販薬は安全」という認識は完全な誤解である。多くの場合、市販薬は医療現場では安全性や効果の点で使われなくなった「古い薬」を、低濃度なら許可するという形で販売を継続しているに過ぎない。
このような危険な成分を含んだ市販薬の依存者の約9割が女性で、その多くは10代だ。規制を強化しても転売などで手に入れるため、根本的な解決にはならない。市販薬のオーバードーズの背景には「生きづらさ」が深く関係していると識者は指摘する。リストカット経験や自殺念慮を持つ若者が多く、死にたい辛さを一時的に紛らわすための自己治療として薬物が使われている側面が大きいのだ。
単なる「薬物乱用」として非難するだけでなく、その背景にある心の叫びに耳を傾け、適切な支援を提供することが社会全体に求められている。
Q. タバコは他の薬物と比較してどのような依存性を持つのか?加熱式タバコは安全なのか?
タバコに含まれるニコチンは、他の主要な薬物(大麻、アルコール、コカインなど)と比較しても際立って高い依存性を持つ。一度でも喫煙経験がある人のうち、10年後に依存症になっている割合は30%に達し、これは他の薬物を大きく上回る。タバコはまさに最強の依存薬物と言える。
加熱式タバコは、発がんリスクの高いタールが少ないため、紙巻きタバコよりは身体への害が少ないとの見方もあるが、ニコチンは含有されており、依存性に関するリスクは変わらない。

むしろ、タールによる不快感が少ない分、連続して多くの本数を吸ってしまい、結果的にニコチンの総摂取量が増加する可能性も指摘されている。タバコは肺がんのみならず、様々な臓器に健康被害をもたらし、基本的に「毒物」として認識すべきだ。
Q. 依存や「生きづらさ」のサインに気づいた際、周囲の大人はどう対応すべきか?
SOSを発する子供や若者に対し、大人側が身につけるべきは、専門的なカウンセリング技術よりもむしろ「雑談力」である。まずは彼らの話を頭ごなしに否定せず、「何があったのか」と関心を示し、善悪を判断せず聞く姿勢が最も重要となる。
問題解決を急ぐのではなく、安心して話せる関係性を築くことが最優先事項だ。もし、具体的な支援が必要だと感じた場合は、相談した大人が直接「精神保健福祉センター」などの専門機関に連絡し、どのような支援につなげられるか助言を求めるのが良い。
彼らにとって薬物が果たしている機能や背景にある「困りごと」を理解しようとすることが、真の支援への第一歩となるだろう。