
筋トレはなぜ健康にいいのか?マイオカインに注目せよ
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2025年12月15日
「筋トレが健康にいい」ことが常識になりつつあるが、なぜ筋トレは体にいいのか?筋トレの適量とはどの程度なのか?筋肉と健康づくりのヒントをテーマに、筋肉を長年研究している京都府立大学大学院の青井渉准教授に聞いた。 ▼プロフィール 青井 渉|京都府立大学大学院 准教授 1998年京都府立大学卒。05年同...
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筋肉の真の力: 最先端の科学が解き明かす驚異の健康効果
本稿では、京都府立大学大学院准教授であり、長年の筋肉研究者である青井渉氏に、筋肉の知られざる可能性について深掘りする。
10代からの筋トレ経験と探究心が高じて筋肉研究の道へと進んだ青井氏が、「筋肉はすごい」という自身の著書でも言及するように、最新の科学的知見が明らかにする筋肉の驚くべき健康効果や、今日から実践できる具体的な筋トレ習慣のヒントを提供する。

私たちの生活と健康を根本から変えうる、筋肉の「本当の力」に迫る。
Q. 筋肉にはどのような種類があるのか?
筋肉は体を動かすだけでなく、心臓の鼓動や血管の収縮、消化活動など、多岐にわたる生命維持機能に関与する。
大きく分けると「横紋筋」と「平滑筋」の2種類があり、横紋筋はさらに「骨格筋」と「心筋」に細分化される。
私たちが自身の意思で動かすことができるのは骨格筋だけであり、一般的に筋トレによって鍛えられるのはこの骨格筋である。
心筋は心臓を動かし、出生から死亡まで常に拍動を続ける、休息することのない筋肉だ。
平滑筋は血管や消化管など内臓器官の壁を構成し、意識することなく血流の調整や食物の消化・排出などを行っている。
血管を太くしたり細くしたり、腸の内容物を送ったりする働きも、この平滑筋の作用によるものだ。
筋トレが対象とする骨格筋は、体を構成する約40%を占め、エネルギー消費の中心的な役割を果たす臓器とも言えるだろう。
Q. 骨格筋の速筋と遅筋は、トレーニングによって変化するのか?
骨格筋には、主に2つのタイプがある。
瞬発力に優れ、筋トレによって肥大しやすい「速筋」(白筋)と、持久力に優れ、脂肪燃焼に効果的な「遅筋」(赤筋)だ。
この速筋と遅筋の割合は、概ね生まれた時に遺伝によって決定されている。
そのため、自分のタイプを理解することは、適したスポーツ種目の選択や、効率的なトレーニング方法を見つける上で有益なヒントとなるだろう。
後天的な要因でこの割合が大きく変わることはほとんどないが、トレーニングによって個々の筋線維の質や機能は向上させられる。
例えば、ウェイトトレーニングなどで体が「ムキムキ」に見えるのは、主に速筋が肥大するためである。
一方、ランニングなどの有酸素運動では遅筋の質が向上し、見た目は細身であっても、食べたものを効率的に燃焼できる「燃費の良い」体質を構築する。
また、一般的に言われる「運動神経」についても、筋力や持久力といった部分は遺伝の影響が大きいが、巧みな体の動きや技術といった要素は、日々の訓練によって大きく発達させられるのだ。
Q. 筋トレは具体的にどのように健康に良いのか?
筋トレが健康に良いという科学的なエビデンスが明確に確立されたのは、比較的最近の2000年代以降だ。
それ以前は、筋トレは一部のアスリートのためのものであり、その健康効果については具体的な研究が不足していたが、数多くの研究成果により今では万人にとって有効な健康法として認識されている。
筋トレの健康効果の核心は、筋肉を「代謝のエンジン」として大きくすることにある。
筋肉量が増えることで、摂取したエネルギーを効率良く消費し、体脂肪の蓄積を防ぎ、太りにくい体質へと導くのだ。
これにより、肥満やそれに伴う生活習慣病のリスクを低減させることが可能となる。

さらに、筋力トレーニングは高齢社会において非常に重要な役割を担う。
加齢とともに進行する筋肉の衰え(サルコペニア)に対抗し、身体能力の維持・向上を通じて、要介護リスクを低減させ、活動的な老後を送るための基盤を築くのだ。
筋肉量の増加は、身体的なパフォーマンスの向上に直結し、日常生活における活力を高める効果も期待できる。
Q. 健康維持のために、筋トレはどの程度行うべきだろうか?
健康を目的とした筋力トレーニングにおいては、量が多ければ良いというわけではない。
数々の研究により、筋トレの効果を最大化しつつ健康リスクを避けるための最適な頻度が明らかになっている。
厚生労働省の指針にもある通り、一般的には週に合計60分程度の筋トレが最も病気のリスクや死亡率を下げる効果が高いことが示されている。

これは、1回20分程度の筋トレを週に2〜3回行うイメージで、週末にまとめて行っても良いし、平日と組み合わせて行っても良いだろう。
注意すべきは、週に2〜3時間を超えるような過度な筋トレは、健康効果が頭打ちになるだけでなく、場合によっては逆効果となり、健康リスクを高める可能性も指摘されている点だ。
日常の活動として、ウォーキングなどの身体活動(例えば8000歩以上)と組み合わせることで、さらにその効果を高めることが期待できる。
また、筋肉には「マッスルメモリー」という一度獲得した筋肉量を記憶する機能があることが知られている。
若い頃にしっかりと筋肉を作り上げておくと、たとえ数年のブランクがあっても、トレーニングを再開した際に筋肉が付きやすくなるのだ。
このことは、若いうちの運動が、一生涯の健康に対する「貯金」となることを意味し、将来にわたって自立した生活を送るための貴重な財産となる。
Q. 運動時に筋肉から分泌される「マイオカイン」とは一体何か?
「マイオカイン」とは、運動によって筋肉から血液中に放出される、ホルモンに似た生理活性物質の総称である。
この物質は筋肉(myo)から分泌されるサイトカイン(細胞間情報伝達物質)であることから、そう命名された。
マイオカインの研究が本格化したのも20年ほど前からで、まさに「筋肉はすごい」という新たな発見を裏付ける最新科学の成果だと言える。
マイオカインには多くの種類があり、それぞれが全身の様々な臓器に働きかける。
具体的には、脂肪分解の促進、骨の形成・強化、全身の炎症抑制、がん細胞の増殖抑制、さらには脳機能の向上など、全身の健康状態を改善し、「若返り」にも貢献する驚くべき効果があることが分かっている。
さらに興味深いのは、マイオカインには「良い」ものと「悪い」ものがある点だ。
良いマイオカインは運動時に積極的に分泌される一方、運動不足や筋肉の老化によって分泌される悪いマイオカインは、かえって筋肉の質や量を低下させる可能性がある。
そのため、定期的な運動によって良いマイオカインを多く分泌させることが、健康維持に直結すると言えるだろう。
マイオカインの発見は、なぜ運動がこれほどまでに全身の健康に良いのかという、長年の疑問に具体的な科学的根拠を与えるものだ。
筋トレ中に「今、足の筋肉から全身に向けてマイオカインが放出されている」と意識することで、モチベーション向上にも繋がるかもしれない。

Q. 日常生活で取り入れられる効果的な筋トレは何があるか?
ジムに通わずとも、自宅で手軽にできる効果的な筋力トレーニングは数多く存在する。
その中でも「スクワット」は「最強のエクササイズ」の一つとされ、特に下半身の大きな筋肉を効率良く鍛えられ、全身のマイオカイン分泌を促進する上で最も優先順位が高い。
スロースクワット:4秒かけて腰を下ろし、4秒かけて元の体勢に戻す。ゆっくりとした動作は、軽い自重であっても筋肉に高い負荷をかけ、あたかも重いウェイトを扱っているかのような効果をもたらす。
ノンロック動作:スクワットを行う際、膝を完全に伸ばしきらない。常に筋肉に負荷をかけた状態を維持することで、運動効果が高まる。
継続性:決して無理せず、できる範囲で習慣化することが重要だ。90歳を過ぎても筋トレによる効果は得られることが分かっており、死ぬまでスクワットを続けることが理想的だろう。
下半身の筋肉だけでなく、上半身、特に「握力」の維持も健康寿命に直結する極めて重要な要素である。
握力の低下は将来的な要介護リスクを高めるサインの一つであり、日常生活でのペットボトルの開閉、茶碗を持つ、歯ブラシを使用するといった動作の自立を大きく左右する。
簡単な握力計の使用や、自宅にあるペットボトルを握る動作など、日常的に意識して握力を鍛えるべきだ。
もう一つの重要な習慣は「食後の軽い運動」である。
食後にすぐに安静にすると、血糖値が急激に上昇する「血糖値スパイク」が起こりやすくなり、これは全身の血管や臓器に悪影響を及ぼす。
食後10~15分程度の軽い散歩などを行うだけでも、この血糖値スパイクを効果的に抑制し、健康を維持することに繋がるだろう。
