
すぐに実践可能な『フィードバックの新常識』
大企業病を打ち破る「冒険する組織」への変革:個人の“モヤモヤ”解消と成長への道
人生100年時代、企業に属して働く人々の間で「モヤモヤ」が広がっている。終身雇用制度が揺らぎ、キャリアの捉え方が大きく変化する現代において、旧来の組織論や働き方が機能しなくなりつつあるのは明白だ。企業を覆う「大企業病」とは何か、そしてその閉塞感を打ち破り、組織と個人の活力を最大化するにはどうすればよいのか。組織開発の専門家であるミミクリデザイン共同代表の安斎勇樹氏が提唱する「冒険する組織」という新たなパラダイムと、その実現に向けた具体的な方策を考察する。
Q. 「会社中心のキャリア観」が「人生中心のキャリア観」へ変化する背景は何だろうか?
かつて「会社中心のキャリア観」は当たり前であった。安定した企業に入り、昇進と給与の上昇を目指し、最終的に定年まで働くという一本道のキャリアパスである。個人の感情ややりがいは二の次で、与えられた役割に自分を適合させ、自我を殺すことも厭わない風潮が存在した。しかし現代では、人生100年時代の到来、終身雇用の崩壊、転職や副業・兼業といった働き方の多様化、SNSを通じた多様な価値観との接触、そしてAIの急速な進化などが相まって、キャリアの主軸が「自分の人生」へと大きく移行した。「自分の人生をいかに豊かにするか」という問いが中心にあり、会社はその目的を達成するための数ある手段の一つに過ぎないと捉える人々が増加している。会社にキャリアを委ねるのではなく、自分自身でキャリアをコントロールする意識が高まっているのが実情である。

Q. 現代のビジネスに深く根差す「軍事的世界観」とはどのようなものか?
現代ビジネスの日常会話には「戦略」「戦術」「市場を攻める」「顧客を刈り取る」「現場の士気を高める」といった、戦争を起源とする用語が溢れている。これらの言葉は、知らず知らずのうちにビジネスを競争や奪い合いと捉える「軍事的世界観」を組織に植え付けてきた。その歴史的背景には、1940年代以降、軍隊が兵士を短期間で育成し目的遂行能力を高めるノウハウが、効率的な工場生産や企業経営に応用できるとされ輸入された経緯がある。これにより、組織内の人間は目標達成のための「兵隊」や「歯車」として扱われる風潮が定着し、個人の主体性や感情は軽視されがちになったと言える。この考え方が、現代において人々の「モヤモヤ」の根本原因の一つとなっている可能性がある。
Q. 組織で働く各世代が抱える「モヤモヤ」の具体的な正体は何だろうか?
現代の企業で働く人々が感じる「モヤモヤ」は世代によって様々だが、根底には旧来の組織構造と個人の価値観のズレがある。20代から30代の若手層は、入社時に抱いた「やりたいこと」と、配属後の単調な業務や意見が通らない現実との間に大きなギャップを感じる。さらに「先輩もそうだった」という同調圧力により、不満を表現できない環境も重なる。40代の中間管理職は、プレイヤーとしての実績で評価され昇進したものの、専門性を発揮する機会が減り、部下の管理や調整業務に忙殺される状況に陥る。「何のために働くのか」という目的意識を喪失し「ミドルエイジクライシス」に直面したり、管理職自体が「罰ゲーム」のように見られることもある。そして50代から60代の経営層は、株主や社会からの厳しいプレッシャー、コンプライアンス遵守の重責から、ディフェンシブな姿勢を強いられ、挑戦的な決断が難しくなるケースも多い。このように、各世代がそれぞれ異なる形で閉塞感や無力感を感じているのが現状である。

Q. 多くの企業が陥る「大企業病」とは一体どういう状態を指すのか?
「大企業病」の正体は、組織が「内向き」になる「官僚的文化」である。本来、競合という外部と戦うために存在する力や権力が、社内の「筋を通す」「誰かの顔を立てる」といった内部調整や根回しにばかり使われる状態を指す。結果として、組織はガチガチのルールに縛られ、そのルールを変えることすら困難になり硬直化が進む。例えば、ある企画を通すために多数の部署を回り、いくつものハンコが必要になるなどの状況だ。この官僚的文化は、従業員の感情や内発的動機を無視し、非効率なプロセスや無意味な政治を強要する。人間は本来、ネジや歯車ではなく感情を持つ存在であり、やりがいのある仕事には力を発揮し、そうでない仕事にはパフォーマンスが低下する。組織の内向きな調整にエネルギーが消費され、外部への価値創出が疎かになるこの状態こそが「大企業病」であると言える。

Q. 閉塞した組織文化を打破し、新しい「冒険的世界観」へ移行するにはどうすればよいか?
「大企業病」という官僚的文化からの脱却には、組織の根本的な「OS」である世界観の転換が不可欠である。ただ厳しいだけの「軍事的文化」では人が定着せず、仲良しグループのような「家族的文化」ではぬるま湯となり成長が望めない。唯一の道は、外部への価値発揮と個人の感情・才能活用を両立させる「冒険的文化」を構築することである。これは、市場を奪い合う競争から、地球の持続可能性や社会全体の豊かさを共に考える「共創」へとビジネスの前提をシフトさせ、個人の好奇心や興味を資源に新しい価値を探求していく考え方だ。例えば東急の100周年記念スローガン「たった100年」は、歴史への敬意と未来への挑戦を両立させ、従業員に新たな誇りと目的意識をもたらした。表面的な施策に留まらず、組織の根底にある「空気感」を変え、働く一人ひとりが主体的に意味付けできる文化の醸成を目指すべきである。
