
冒険する組織のつくりかた
組織で感じるモヤモヤの正体:『軍事的文化』から『冒険的文化』への転換
現代のビジネス環境において、組織で働く多くの人が漠然とした「モヤモヤ」を抱えている。それはなぜだろうか?キャリア観が大きく変化する中、従来の組織のあり方が時代と乖離していることが一因だ。
本記事では、MIMIGURI共同代表の安齋氏の著書『冒険する組織の作り方』に基づき、組織における根本的な課題を解き明かし、個々の潜在能力を最大限に引き出す「冒険する組織」への転換について解説する。現在の組織が直面する課題から、明日から実践できる具体的な変革方法まで、Q&A形式で深く掘り下げていこう。

Q. 組織で働く多くの人が感じる「モヤモヤ」の正体は何か?
この「モヤモヤ」は世代ごとに異なる顔を持つが、共通しているのは組織への不満である。
20〜30代の若手層:入社時に抱いた「やりたいこと」の理想と、現実に与えられる「単調な業務」とのギャップに苦しむ。自分の意見が聞いてもらえず、先輩も我慢している状況を見て、声を上げられないことが多い。
40代の中間管理職:プレイングマネージャーとしての専門性を活かせず、部下の管理や調整業務に忙殺される。「罰ゲーム化する管理職」と称されるように、自身の役割を見失い「ミドルエイジ・クライシス」に直面するケースが増加している。
50代以上の経営層:株主や社会からの厳しいプレッシャーに常に晒され、新しい挑戦よりもコンプライアンス遵守などの守りの姿勢になりがちだ。会社を動かす権限を持ちながらも、自由な意思決定が難しく、内向きの課題解決に追われる。
こうした各世代の悩みの根底には、時代遅れとなった組織のあり方と、硬直化した旧来のルールが存在する。これが「大企業病」の本質であり、組織が本来持つはずの活力を蝕んでいる状況である。
Q. 従来の「軍事的組織論」はなぜ機能しなくなっているのか?
現代のビジネス用語には「戦略」「戦術」「顧客を刈り取る」など、戦争に由来する言葉が数多く見受けられる。これは1940年代の戦争を契機に、軍隊の効率的な組織・人材育成手法が経営に取り入れられ、その「軍事的世界観」が日本の組織に深く根付いたためである。この考え方では、社員は命令に従う「兵隊」や「歯車」として扱われ、効率と統率が最優先とされた。
「会社中心」から「人生中心」へのキャリア観の変化:かつては安定した会社に入り、長く働き、昇進することが理想とされたが、「人生100年時代」を迎え、定年後も人生が長く続く。会社の寿命もキャリアの確実性も低下し、終身雇用が崩壊したことで、「会社に自分を合わせる」働き方ではなく、「自分の人生に仕事を位置づける」働き方が求められるようになった。副業や転職の選択肢が増え、人々は自分の幸福を基準にキャリアをデザインし始めている。
ビジネス前提の「競争」から「共創」への移行:従来のビジネスは競合との「奪い合い」を前提とし、マーケット拡大を目指したが、多くの市場は飽和状態にある。地球規模の持続可能性が問われる中、単純な奪い合いは共倒れを招くだけだ。例えば、ビール業界は市場縮小に対し、競合と協力し「飲食の時間の価値向上」という新しい価値創造に取り組んでいる。このように、これからは競合を含む多様なステークホルダーと対話し、社会全体の可能性を探求する「共創」がビジネスの新たな前提となっている。
これらの変化により、個人の感情や主体性を軽視する「軍事的世界観」に基づく組織は、多様な価値観を持つ人材を引きつけ、不確実な時代に新たな価値を生み出すことが困難になっている。

Q. 組織の停滞を打破し、「冒険的文化」へ移行するためには何が必要か?
「大企業病」の正体は、組織が硬直化し、本来の外部との競争ではなく、社内の「調整」や「政治」にエネルギーが費やされる「官僚的文化」にある。これは仕組みが目的化し、どう変えればよいか分からなくなった状態と言える。
官僚的文化(内部志向/統率型):硬直化し、社内政治に忙しい状態。
軍事的文化(外部志向/統率型):競合との戦いを重視する、従来の強い組織像。
家族的文化(内部志向/柔軟型):社員間の仲良しムードを重視するが、目的意識が希薄になりがち。
冒険的文化(外部志向/柔軟型):外部への価値創出を目指しつつ、個人の感情や多様性を活かす柔軟な組織。
現状の内向きで硬直した「官僚的文化」から脱却し、外向きで柔軟な「冒険的文化」へシフトすることが唯一の道である。「ぬるいだけの家族的文化」や、人材の定着が難しい「軍事的文化」では、もはや対応できない。変革には、表面的な施策ではなく、組織の「OS」をアップデートする根本的な問い直しが必要だ。
そのためには、次の「5つのレンズ」で組織の日常を捉え直すことが有効である。これまでの当たり前を疑い、新しい視点から「目標」「チーム」「会議」「成長」「組織」それぞれの前提や目的を問い直すのだ。例えば、「目標=達成すべきノルマ」ではなく、「目標=知的好奇心を刺激する問い」と再定義することから始めることができる。

Q. 実際に組織を変革した企業の具体例とは?
東急電鉄の100周年記念プロジェクトは、「冒険的文化」への転換を体現した好例だ。
理念の再定義:「たった100年、尊い100年」というスローガンが掲げられた。これは、過去の歴史を重んじつつも、これから切り開く未来への「軽やかで冒険的な」挑戦心を表現している。経営層や社員が対話を重ねる中で生まれたこの言葉は、組織の誇りと探求心を掻き立て、社員一人ひとりの日々の業務に新たな意味とプライドをもたらした。
東急のように、企業規模が大きく、多岐にわたる事業を展開しているからこそ、単に短期的な成果を追うのではなく、100年といった壮大な時間軸で自社の存在意義やビジョンを「探求(クエスト)」していく姿勢が不可欠となる。
クエスト(探求)としての組織づくり:短期的な結果に固執せず、目標達成と個人の自己実現という一見矛盾する要素を両立させ、仮説検証を繰り返す長期的視点が求められる。この探求の姿勢は、経営層だけでなく、半径3メートル以内の職場から、誰もが「探求者」として実践できるものだ。

Q. 明日から実践できる組織変革の具体的なステップは何か?
大きな変革は、日常の小さな変化から始まる。組織を「冒険的文化」へ導くために、すぐに取り組める2つの方法がある。
目標設定の再考:組織の末端に降りてくる目標は、往々にしてその意味が伝わりにくい。しかし、意味が感じられない目標に取り組むほど意欲が削がれるものはない。与えられた目標をそのまま受け入れるのではなく、「この目標をどう解釈すれば、自分の内発的動機が湧く問いになるか?」「この短期的な目標が、自身の成長や長期的な組織のクエストとどう繋がるか?」を考え、自分事として「アレンジ」する姿勢を持つ。意味を見出すことで、業務の見え方が変わる。
フィードバックの革新:従来のフィードバックは、上から下への「指摘」や「評価」が中心で、軍事的組織論の影響が色濃い。しかし、真の育成とは、部下の行動を「指摘」することではなく、「可能性を広げる」ことである。適切なタイミングで相手の視野を広げる言葉をかけ、一方的な命令ではなく「対話」を通じて共に課題を探求する姿勢が重要である。言われたくない、言いたくないフィードバックを、双方の成長を促すコミュニケーションへと昇華させよう。
これらのアプローチを通じて、一人ひとりが自分の仕事に意味を見出し、チームや組織全体が活力を取り戻す。個々の「探求」の積み重ねが、組織全体の「冒険」へと繋がり、持続可能な未来を切り開く原動力となるだろう。
