PIVOT CAREER
学ばない若手はなぜ生まれたのか?日本を襲う「学習恐慌」
(1489)
2.3万回視聴
2025年10月6日

コロナ以後、若手社員の成長意欲が下がっている。なぜ「学ばない若手」が増えているのか?AIは若手の育て方・育ち方をどう変えるのか?日本を襲う「ラーニングリセッション(学習恐慌)」と、その処方箋について、パーソル総合研究所の小林祐児・主任研究員に聞いた。 <ゲスト> 小林 祐児|パーソル総合研究所 主...
AI時代の「学習不況」に警鐘。若手育成の危機と対応策
現代ビジネス環境は急速に変化し、特に生成AIの普及は社会や個人の働き方に大きな影響を与えている。その中で、若手社員のキャリア意識や学習意欲にも、従来の想定を超えた変革が起きているのが現状だ。

企業の成長を担うはずの若年層で、なぜ学びや成長への意欲が失われつつあるのか、この「学習不況」とも呼べる危機的状況の背景と、企業が取るべき対策について解説する。
Q. AI時代の若手育成が今なぜ問題視されているのか?
生成AIがビジネス現場に本格的に浸透し、「AIと共に育つ世代」が主流となりつつある。このような環境下で、「新卒不要論」のような過激な議論も浮上しているのが実情である。さらに、若年層が年功序列を好むといった従来の若者像とは異なる価値観の出現も指摘されており、彼らをどう育成するかが喫緊の課題となっている。特に、パーソル総合研究所の調査からは、日本の若者層における成長志向の著しい低下、「学習不況」の到来が明らかになり、この問題が企業成長にとっての重大な障壁と認識されている。
Q. 若者のキャリア意識や学習意欲は、コロナ禍でどのように変化したのか?
コロナ禍を境に、新卒のキャリア意識は大きく変わった。かつて重視されていた「やりたい仕事ができる」という項目は優先度が低下し、代わりに「勤務時間や場所が柔軟に選べる」といった「柔軟な働き方」へのニーズが高まった。これは、企業が推進するジョブ型採用の方向性とは逆行する動きだ。
さらに驚くべきは、「自分にとって働くことはお金を得るための手段に過ぎない」という考え方が17%も増加した点である。対照的に「仕事を通じて成長したい」という意欲は最も大きく低下した項目だ。こうした意識変化は、入社後のポテンシャルを重視し、育成を通して成長させる日本企業の採用モデルの根幹を揺るがしている。社外での学習、すなわち読書やセミナー参加などの自己啓発活動に「何も行っていない」と答える若手正社員の急増は、まさに「学習不況」の深刻な実態を示すものである。
Q. なぜ若者の学びや成長への意欲がここまで低下したのか?
若者の学習意欲低下は、「内圧(本人の動機付け)」と「外圧(組織の強制力)」の双方の減少が引き起こしている。まず内圧の低下については、キャリア上昇の魅力が薄れた点が挙げられる。特に「罰ゲーム化する管理職」という表現にもある通り、管理職の負荷増大と報酬の不均衡から、昇進のコストパフォーマンスが悪いと若手は感じている。

また、若年層の賃金上昇や未婚化の進行は、生涯に必要とする経済的ハードルを下げる。さらに副業や個人投資(NISAなど)が広がり、「パーソナルエコノミー化」が進んだ結果、会社組織に過度に依存せずとも生活を成り立たせる選択肢が増えた。これらは、報酬を目的とした外発的な動機付けを失わせ、本業での成長への意欲を減退させている。
一方、外圧の低下も顕著だ。働き方改革、キャリアの多様性の容認、ハラスメント防止策の強化により、企業や上司が部下を「無理に働かせたり」「厳しく指導したり」することが難しくなった。叱られる経験が少ない世代にとって、失敗回避志向が強く、上司もそれを承知して部下との距離を取るため、結果として成長を促すための強い指導が生まれにくい。
Q. AIは若者の学びのあり方をどう変えてしまうのか?
生成AIの登場は、従来の蓄積型の学習プロセスを大きく揺るがす「スキルのだるま落とし」現象を引き起こしている。AIはマーケティングのSNS投稿作成、広告数値の分析、コピーライティング、コンサルティングの資料収集や基礎集計など、基礎的かつ中間的なタスクを容易に代替可能だ。これにより、人が基礎をコツコツと学び、積み上げる学習モデルは「コスパが悪い」と感じられ、意味をなさなくなる可能性がある。例えるなら、電卓の普及でそろばんを学ぶ意欲が失われた状況が、より広範なスキル領域で、はるかに速いスピードで起きている。
この変化は3つのリスクを内包する。第一に、基礎知識がないためにAIの出力が正しいかを適切に判断できなくなる。第二に、AIが利用できない即興的な場面(顧客との対話、予期せぬ質問への対応など)での対応力が著しく低下する。第三に、そもそも基礎を学ぶ必要性を感じなくなり、学習意欲そのものが喪失してしまう。AIは高度な成果物を提供しても、それに対する理解と活用能力は人間の基礎知識に依拠するものであり、その基礎が抜け落ちることは非常に危険な状況だ。
Q. 「正解待ちの部下」と「正解を渡す上司」がもたらす問題とは何か?
ハラスメントの防止、叱られたくない、対立したくないという若手側の失敗回避志向と、忙しい上司が効率を重視し、部下とのコミュニケーションを避ける傾向が、職場で「正解待ちの部下」と「正解を渡す上司」という関係性を生み出している。

部下は仕事の進め方について細かく確認を求め、具体的な指示を待つ。一方上司は、それをハラスメントを恐れて拒否できず、効率的に仕事を回すために「ああしてこうして」と正解を与えてしまう。この組み合わせは一見、トラブルがなく平和に仕事が回っているように見える。しかし、その結果生み出されるのは「コンフォートゾーン(快適領域)」であり、部下も上司も成長の機会を失ってしまう。部下が自分で考え、失敗を乗り越えて学ぶ機会が奪われるため、いずれAIによって容易に代替されてしまう人材を増やしかねない。
Q. 「学習不況」によって職場はどのような状況に陥っているのか?
若手の成長意欲(内圧)と組織の育成への強制力(外圧)の組み合わせによって、職場は大きく4つのタイプに分類される。その中でも特に問題視されるのが、両方が低い「永遠のコンフォートゾーン」である。これは「静かな退職(クワイエット・クィッティング)」が増加する職場であり、一見平和に見えるため組織内に危機感が薄く、知らない間に組織の活力が失われていく危険性が高い。

次いで多いのは、内圧は高いものの外圧が低い職場だ。ここでは「やる気はあるが会社が育てる気がない」と感じる若手が増加し、成長を求めてスタートアップなどへの優秀人材の流出が加速している。かつての「ブラック企業」のような内圧が低く外圧が高い職場とは異なるが、現状ではこれらのタイプが企業の競争力を蝕んでいると分析できる。このままでは、多くの企業が変革の波に乗れず、成長が停滞する事態を招きかねない。
Q. 若手の「学習不況」を克服し、成長を促すための解決策は何か?
「学習不況」を乗り越え、若手の成長を促すためには、上司の役割を大きく変える必要がある。従来の正解を与える「お手本型」の指導ではなく、部下の挑戦を支援し、共に歩む「伴走型」へのシフトが不可欠である。上司は部下が成長しなければ自分自身も楽にならないという認識を持つべきだ。
AIが基礎的なタスクを代替する現代においては、まず応用的なタスクから部下に挑戦させる「パラシュート型」育成が有効となる。例えば、AIを駆使してプレゼン資料を一から作成させるなど、大きな仕事を任せてみる。そして、その過程での失敗や学びを振り返りながら、後から基礎の重要性を学ばせるという逆アプローチが求められる。若手の失敗を許容し、彼らが自律的に学ぶ姿勢を引き出す勇気ある指導が、これからのマネージャーに求められるのだ。