
小林鷹之氏インタビュー:令和の殖産興業で先端産業を創る
小林鷹之が語る「穏健な保守」と新しい時代の日本像
「人間は間違えうる」という前提に立ち、社会との向き合い方を模索する
日本政治の将来像について、小林鷹之元経済安保相が「穏健な保守」という独自の概念を提唱している。小林氏は自民党総裁選に立候補する中で、保守の本質とは何か、日本がどのような国を目指すべきかについて、思想史家の先崎彰容氏との対談を通じて語った。

Q. 小林氏が提唱する「穏健な保守」とは何か?
小林氏によれば、保守とは単に個別政策の立場ではなく、社会との向き合い方の姿勢だという。その根本にあるのは「人間は間違えうる」という謙虚な自己認識だ。この認識に立ち、先人が積み上げてきた伝統や慣習、自立的な規範、価値観を最大限尊重する。
「既存の制度についてもリスペクトしながら改革を進めていく。改革という名のもとに既存の制度をばっさりと切り捨てるやり方は保守のあり方ではない」と小林氏は説明する。

さらに「穏健」という言葉を特に付けた理由として、近年ネット上で「保守」を名乗りながら異なる意見に対して排他的・攻撃的な風潮があることへの違和感を示した。小林氏は権力の行使は抑制的にし、異なる意見に寛容であるべきだと強調している。
「右に左にぶれやすい社会のバランスを取り続けること」が保守政治家の役割
先崎氏は保守主義の本質について、「政治家という仕事は非常にしんどく、人間は急に右や左に過激になったりする。そのバランスを元に戻して秩序を維持し続けることが政治家の仕事だ」と説明した。
社会全体が一方向に行き過ぎる時、それを適切なバランスに戻す役割が保守政治家にあるという見方は、小林氏も「しっくりくる」と共感を示した。この考え方は、現在のSNS時代において極端な意見が広がりやすい環境においても重要な意味を持つ。
Q. 小林氏はSNS規制について何を主張しているのか?
小林氏は「SNS規制」を主張しているという指摘に対し、これは「偽情報」だと明確に否定した。彼が問題視しているのは、「外国勢力が偽情報を使って日本の民主主義に介入し、社会分断を図る動き」であり、そうした脅威に対して「一定の備え」が必要だという立場だ。
表現の自由は最大限担保されるべきであり、単に自民党批判を規制するような考えは持っていないと強調している。
Q. 自民党のアイデンティティをどう再構築すべきか?
先崎氏は「70年前、自民党は共産主義という明確な脅威に対してスケールの大きい考察で立ち向かった」と指摘。対して、2010年の綱領は民主党政権だけを相手にしていて小さい視野だったと批判した。
小林氏は「自民党は立党当時から国民政党として懐の広い政党だった」としながらも、自身は「中道より少し右」に軸を置いて党の運営と国家運営を行いたいと述べている。
「世代交代」と「能力主義」で自民党の改革を目指す
Q. 小林氏が総裁になると自民党はどう変わるのか?
小林氏は「解体的出直し」が求められる今の自民党には、思い切った「世代交代」が必要だと強調する。「今回の総裁選が本当に自民党としての最後の総裁選になりかねない」との危機感を示している。
具体的な変化として、①意思決定スピードの向上、②当選回数や年齢ではなく実力と実績に基づいた真の能力主義人事、③若い世代による組織運営による活力の創出、④より長期的な視野での政策立案を挙げた。
Q. 外国人政策についてどのような立場か?
小林氏は6年前の入管法改正に反対した理由として「目指すべき社会のあり方が全くない」ことを挙げた。単に「労働力が足りないから入れる」という考え方に疑問を呈している。
外国人が日本社会で果たしている役割は認めつつも、「過度に頼らなくてもいい社会構造を作るべき」と主張。自動化の推進や日本人の雇用環境改善を優先すべきだとの考えを示している。
同時に「移民」との定義の違いを強調し、ルールを守らない外国人に対しては厳格な政策が必要だとしている。
「令和版の殖産興業」で国と民間が一体となった産業戦略を
Q. 産業政策についてどのような考えか?
小林氏は国による積極的な投資と民間投資の大胆な支援を提唱している。この「官民が一体となった産業政策」には3つの柱があると説明する。

1. 国が戦略産業を特定し、明確な大方針を決める
2. 国・自治体・民間企業・アカデミアが10年先のビジョンを共有する
3. 国が明確な資金的コミットメントを行う
特に重要な戦略産業として「情報通信」と「エネルギー」を挙げ、半導体産業再生の取り組みを成功例として示した。
先崎氏はこのアプローチを「令和版の殖産興業」と評し、小林氏もこの表現に同意している。これは福沢諭吉の思想に近い発想だという。
Q. エネルギー政策における規制改革をどう考えるか?
小林氏は「改革ありきで先に着地点のないままバサッと切り捨てる乱暴なやり方はよくない」と強調。再生可能エネルギーの推進にも課題があることを指摘し、「規制改革はイコール規制緩和ではなく、社会に合わせて規制を適正化していく視点が重要」と述べている。
先崎氏は「30年間あらゆることを自由化・解放という方向に行き過ぎた」と指摘し、小林氏も「新自由主義的な、とにかく規制緩和して競争すれば良いという考え方は違う」と同意した。両者は「起立ある自由経済」の重要性を強調している。
「自流に流されない」長期的視野を持つリーダーシップ
Q. 小林氏の政治家としての強みは何か?
議論を通じて浮かび上がったのは、小林氏が「自流に流されない」という特徴だ。例えばデータの国内保存に関する議論では、当初は「グローバルな時代にバカなこと」と言われながらも主張を続け、後に多くの人が同じ認識に至った例を挙げている。

「2050年ぐらいまで責任を持てる」と述べる小林氏。先崎氏は「2050年のビジョンを語ろうじゃないかと言う人が出てきた」と評価し、長期的な国家ビジョンを持つ政治家としての期待を示している。