
いまさら聞けない欧州経済
欧州経済の実像と将来性を徹底解説:ビジネスパーソンが知るべき経済・政治の動向
欧州経済はアメリカや中国と比べると日本人にとってやや遠い存在に感じられがちだが、実はその経済規模は世界GDPの15〜20%を占める巨大市場だ。近年の関税をめぐる動きや政治不安は、日本のビジネスや安全保障にも大きな影響を与えている。そこで今回は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト・田中理氏に欧州経済の現状と今後の見通しについて聞いた。

Q. 欧州経済の基本的な特徴とは?
欧州は成熟した先進国が中心で、ドイツ、フランス、イタリア、スペインなどの国々で構成されている。アメリカや中国のような高成長やダイナミズムは期待できないが、安定した経済基盤と大きな市場規模が特徴だ。人口約5億人を抱え、世界GDPの15〜20%を占める巨大経済圏である。基本的には万年低成長と考えておいて良いが、その安定性と市場規模の大きさは重要な魅力となっている。
Q. アメリカの対EU関税引き上げの影響は?
アメリカにとってEUは中国に次ぐ貿易赤字相手国だ。EUは医薬品、自動車、機械類などをアメリカに多く輸出しており、関税引き上げはEU経済に打撃となる。しかし最終的に15%の関税率で決着したことは、EUにとってそれほど悪くない結果と言える。他の貿易赤字相手国に比べれば優遇されている面もある。
また、EU側が準備していた報復措置も回避できた点も評価できる。中国やカナダなどは米国からの高い関税に対して報復関税を課し、報復の応酬となったが、EUはそうした事態を避けられた。

トランプ政権誕生前の対EU関税率は平均1%程度だったことを考えると、15%への引き上げは確かに負担だが、不透明感が解消されたことで先送りされていた経済活動が再開される効果も期待できる。
Q. ドイツ経済の停滞理由は?
ドイツはEU最大の経済国で、昨年は日本を抜いて世界第3位の経済大国となった。しかし過去2年間ほとんど成長していない。その理由は大きく2つある。

1つ目は、ロシアからのエネルギー供給問題だ。ドイツは日本と同様に製造業が強く、自動車、工作機械、化学製品などを輸出する国だが、これまでロシアから安価なエネルギー資源を輸入して競争力を保ってきた。ロシアのウクライナ侵攻により、ロシアからの資源調達ができなくなり、アメリカや中東からの割高な資源に頼らざるを得なくなった。ロシア侵攻前と比べてエネルギー価格は約2倍になり、ドイツ産業の国際競争力が低下している。
2つ目は、長年続けてきた財政緊縮政策だ。ドイツは歴史的背景からインフレを恐れ、財政規律を厳しく守ってきた。その結果、インフラの老朽化が進み、産業構造の転換や新技術への投資が不足してきた。特に自動車産業では中国市場でのEV対応の遅れが顕著で、中国製電気自動車の台頭によりドイツ車の競争力が低下している。
Q. 最近のユーロ高は何が原因?
トランプ政権誕生前はユーロ安が進行し、1ユーロ=1.02ドル程度まで下落していたが、最近は1.16ドル程度まで上昇している。この変化には複数の要因がある。
最大の理由はドイツを中心とした財政政策の大転換だ。ドイツは長年緊縮財政を続けてきたが、今はインフラ投資と国防費を大幅に増やす方針に転じている。特別基金を設けて10年間で5000億ユーロのインフラ投資を計画し、国防費もGDP比2%から2029年までに3.5%に引き上げる予定だ。
また、EU全体としても財政緊縮から積極財政への転換が進んでいる。EUは加盟国に対して共同債券を発行し、国防費増強のための資金を提供する計画だ。EU全体でGDP比1.5%程度の国防費増額を目指している。
金利面では、欧州中央銀行(ECB)が政策金利を4%から2%まで引き下げてきたが、これは利下げ終了が近いとの見方も出ている。ユーロ圏の中立金利は1.75〜2.25%程度と考えられており、現在の2%という水準はちょうど適正なところに来ている。
Q. 欧州の政治不安は経済にどう影響する?
欧州各国では近年、既存政党への支持が低下し、いわゆるポピュリスト政党や極右・極左政党が台頭している。その背景には、若年層の高い失業率、物価高による生活苦、社会保障の切り詰め、移民問題などがある。

特に注目すべきはフランスの政治状況だ。フランスでは極右が勢いを増しており、2027年の大統領選挙では極右候補がリードしているという世論調査もある。現在の政権は議会で過半数を確保できておらず、予算案通過にも困難を抱えている状況だ。
すでにイタリアやハンガリーではポピュリスト政権が誕生しているが、今のところEU全体の政策が大きく転換するには至っていない。オランダやオーストリアでも極右が第1党になるなど勢力を拡大しているが、政権獲得後に現実路線に転向するケースもある。
今後も政治不安は欧州経済の注視すべきリスク要因であり、特にフランスの政治動向が重要となる。
Q. 欧州のグリーン政策は今後どうなる?
欧州は引き続き環境政策を推進する基本方針を持っているが、軌道修正も必要になってきている。グリーンやデジタル化を掲げているものの、財政状況が厳しい中で国防費にも資金を割かなければならず、リソース配分の見直しが迫られている状況だ。
Q. 世界のブロック化が進む中、日本はどう立ち回るべき?
世界が米中を中心としたブロック化に進む中、日本は3つのブロックに橋渡しの役割ができる存在だ。特にドイツと日本は製造業を中心とした輸出立国という共通点がある。日本がこうした国際関係において柔軟で中立的な立場を維持することが重要になるだろう。
