
認知症は“採血でわかる”時代に?
【Q&A】2040年には日本の認知症患者が800万人に?アルツハイマーを見つける血液検査が登場
日本では65歳以上の6人に1人が認知症と言われ、2040年には800万人に増加すると予測されている。この社会課題に対して、新たな希望の光が見えてきた。アメリカで承認された「アルツハイマー病の診断に使える血液検査」とは、どのようなものなのか。

認知症の原因となる疾患のうち、約6割を占めるアルツハイマー病。これまでの診断には高額な検査や身体的負担の大きい検査が必要だったが、簡単な採血だけで診断できる時代が到来したという。この画期的な検査の仕組みと今後の展望について、米国内科・老年医学専門医の山田悠史氏に話を聞いた。
Q. アルツハイマー病と認知症の違いは何ですか?
認知症とアルツハイマー病は混同されがちだが、両者は別物である。アルツハイマー病は脳で起こっている状態を指し、アミロイドとタウという2つのタンパク質が脳内に異常に蓄積する疾患だ。一方、認知症は物忘れなどの症状を指す。

認知症を引き起こす原因となる病気は複数あり、その中で最も多いのがアルツハイマー病だ。アルツハイマー病が原因で認知症を発症した場合を「アルツハイマー型認知症」と呼ぶ。
注目すべきは、アルツハイマー病があっても認知症でない人がいるという点だ。実は認知症を発症する約30年前から、脳内ではアミロイドやタウの蓄積が始まっている。つまり、70歳で認知症を発症する人の場合、40歳頃から脳内での異常が始まっているのだ。
Q. 血液検査でアルツハイマー病が診断できるようになったのはなぜ画期的なのですか?
従来のアルツハイマー病診断は、腰椎穿刺(ようついせんし)という背骨に針を刺して髄液を採取する検査か、PET検査などの大掛かりな画像検査が必要だった。時間もコストもかかり、患者への負担も大きかった。
それが血液検査で診断できるようになったことで、安価で短時間、そして負担の少ない方法で診断が可能になった。この検査は症状がある患者に使った場合、従来の検査と同等以上の正確性があることが確認されている。

さらに注目すべきは、この検査が認知症発症の20年以上前から異常を捉えられる可能性があることだ。現時点では症状がある患者への使用が主だが、将来的には早期発見・早期予防へつながる可能性を秘めている。
Q. この血液検査は具体的に何を調べているのですか?
この検査ではアミロイドとタウという2つのタンパク質を検出する。特にタウの中でもピータウ217と呼ばれるものが重要で、これが増加し始めることを血液検査で捉えることができるようになった。
アルツハイマー病の進行過程では、まずアミロイドが蓄積し始め、その約3年後にタウが蓄積し始める。この時点ではまだ症状は現れないが、脳内では異常が進行している。
この血液検査によって、このような無症状の段階から異常を検出できるようになり、将来的には「早期発見・早期予防」の世界が実現する可能性がある。

Q. アルツハイマー病や認知症の予防法や治療法は進歩していますか?
この血液検査の登場により、治療薬の研究開発が加速することが期待されている。現在、異常なタンパク質を狙って攻撃し除去する抗体薬の開発が進んでおり、さまざまなタンパク質をターゲットにした薬が開発されつつある。
また、予防の観点からはワクチン開発も注目されている。リスクが高い人に事前にワクチンを接種することで、脳内に異常なタンパク質が生じた時点で攻撃して除去できる仕組みの開発が進んでいる。
さらに興味深いのは、生活習慣の改善でタンパク質の蓄積を減らせる可能性があることだ。ある研究では、運動や健康的な食事への変更によって、血液中のピータウ値が低下したという結果が出ている。このピータウは脳の神経ダメージや認知機能低下と相関関係があるため、これを下げる行動が認知症リスクの低減につながる可能性がある。
Q. 若い世代が今から認知症予防のためにできることはありますか?
30代・40代の段階から脳内の異常は始まっているため、若いうちからの予防が重要だ。座りっぱなしの時間が長いと認知症リスクが上がるという研究結果もあり、適度な運動を心がけることが大切である。
また、視力検査や目の治療、コレステロール検査も認知症リスクと関連があるとされ、定期的な健康チェックを受けることも推奨される。
興味深いことに、インフルエンザやコロナなどのワクチン接種が認知症予防にも効果がある可能性が示唆されている。大規模な研究によると、これらのワクチンを接種した人は認知症発症率が低かったというデータもある。
山田氏によれば、この5年から10年で診療スタイルが大きく変わる可能性があり、「現在はまさに時代の変わり目を見ている」という。検査技術の進歩と共に、治療法やワクチン開発も加速し、認知症という社会課題に対する新たな解決策が見えてきている。
