
BYDの最大の強み。自前主義、汚れ仕事、長期視点
BYDとテスラの対決から見える未来戦略 - 「泥仕事」がEV業界の勝者を決める?
テスラはただの自動車メーカーではない。イーロン・マスクの視点では、人の働き方や生活、文明そのものをアップデートする壮大なビジョンの一部だ。一方、中国の電気自動車メーカーBYDは欧州市場で急成長を遂げ、イギリスではテスラの5倍の販売台数を記録している。この二社の競争は単なる自動車市場の争いを超え、世界のエネルギー転換や資源戦略、そして企業のガバナンスの在り方まで問いかけている。

Q. テスラとBYDの基本的な違いは何ですか?
テスラとBYDには戦略の根本的な違いがあります。BYDは自前主義を貫き、バッテリーからモーター、パーツに至るまで自社で製造する垂直統合型のビジネスモデルを採用しています。これに対してテスラは、AIやソフトウェアといったコア部分は自前で開発するものの、バッテリーの製造やモーター、パーツなどは外部から調達する戦略をとっています。
また、乗用車の販売においてはBYDに追いつくことが難しい状況にありますが、テスラはそこで勝負するという考えはあまり持っていないようです。テスラの「マスタープラン」には、持続可能なエネルギーへの世界のシフトを加速させるという明確なビジョンが記されており、EVはその入り口に過ぎません。テスラの当面の目標は、完全自動運転(FSD)のプラットフォームを構築することで、AIを全面的に活用した取り組みを行っています。
Q. イーロン・マスクはテスラをどのような会社として位置づけていますか?
一般的にテスラは自動車会社として捉えられていますが、イーロン・マスクの考えはそれとは全く異なります。彼はテスラをモビリティやエネルギー、AIロボティクスなど全てを統合し、人間の働き方や生活、文明そのものをアップデートする会社として位置づけています。
特に注目すべきはFSD(完全自動運転)の開発です。テスラは独自のAIチップを開発し、TSMCに製造を委託。自社のスパコン「Dojo」を使用して現実世界をバーチャル空間で再現し、高精度の自動運転プラットフォームの構築を進めています。これが実現すれば、個人が所有するテスラ車は使用していない時間に自動的に走行して人を乗せ、収益を生み出す資産運用の手段になる可能性もあります。
このビジョンが実現すれば、Uberのようなライドシェアサービスは不要になるかもしれません。実際、Uberは自動運転の開発から撤退していますが、これはテスラの戦略の前に見えてきた限界とも考えられます。
Q. BYDが世界市場で成功している要因は何ですか?
BYDの成功の背景には、中国の戦略的な資源確保があります。1992年に鄧小平が「中東には石油があり、我々にはレアメタルがある」と述べた言葉に象徴されるように、中国は長期的な視点で重要資源の確保を進めてきました。
EVの製造に必要なコバルト、リチウム、マンガン、ニッケルなどの重要素材は、世界各地に埋蔵されていますが、その採掘権や精製権の多くを中国企業が握っています。特徴的なのは、原料が産出される鉱山そのものを直接的・間接的にコントロールしていることです。BYDもリチウム資源の権益確保を目的として鉱山に投資しています。

また、資源の精製プロセスは環境汚染や人権問題を引き起こしやすく、ESG基準が厳しい先進国では実施が困難です。中国は環境規制が緩いという背景もあり、世界中の「汚い仕事」を一手に引き受ける形になっています。これによりBYDは他社よりも安く、高品質な材料を調達できる優位性を持っています。
Q. 欧州市場でのBYDの成功はどうなっていますか?
欧州市場では興味深い状況が展開されています。特にイギリスでは2024年4月、BYDの販売台数がテスラの5倍に達しました。これは意外な結果です。なぜなら、欧州は対中国に対して安全保障面で警戒感を示し、関税をかけるなど保護主義的な政策をとっているからです。
それにもかかわらず、BYDの高級ラインの車種が純粋に良い製品として受け入れられているようです。また、北欧においても変化が見られます。特にノルウェーでは新車販売の90%以上がEVですが、テスラを超えたEVメーカーはBYDではなくトヨタでした。トヨタのBZ4Xがスウェーデンでも好調で、北欧のメンタリティとトヨタの製品が合致しているようです。
このように、欧州市場では地域ごとに異なる傾向が見られますが、全体としてBYDの存在感は確実に高まっています。
Q. 日米はどのように対応していますか?
日米を含む先進国は遅ればせながら、中国からのデカップリング(切り離し)に向けた動きを始めています。テスラはカナダ、オーストラリア、中国の鉱山とリチウムなどのオフテイク契約(開発して産出されたら購入する契約)を締結。さらに2023年にはテキサス州でリチウム精製を自前で開始しています。
バイデン政権のインフラ削減法(IRA)の一環で、採掘はオーストラリア、精製はカナダ、バッテリー製造はアメリカというサプライチェーン構築も計画されていますが、トランプが再選された場合はこれが取り潰される可能性もあります。

日本では総合商社が鉱山開発への投資を始めています。2023年7月には三菱商事が三井物産、住友金属鉱山とともにオーストラリアのニッケル、コバルト開発の実行可能性評価契約を締結。2024年3月には三井物産がブラジルのリチウム鉱山の開発会社に出資し、オフテイク契約を結んでいます。
Q. これからのEV産業における勝者を決める要因は何ですか?
EV産業の勝者を決める重要な要素として、長期的視点とガバナンス構造が挙げられます。中国企業やテスラの強みは、短期的な収益よりも長期的なビジョンに基づいて投資できる点にあります。
BYDは外部株主からの短期的な収益や株価向上の圧力があまりなく、長期的な視点で鉱山開発などの時間のかかる投資を行えます。テスラもイーロン・マスクの強力なリーダーシップのもと、一貫したビジョンを持って進めています。

一方で、株主至上主義が強い日米欧の企業は、短期的な収益を求められるため、時間とコストがかかるサステナブルな世界への移行が難しい状況にあります。また、ESGの観点から「汚い仕事」に手を出せないという制約も抱えています。
結局のところ、未来のモビリティ産業における勝者は、資源確保の戦略性、長期的ビジョン、そして「汚い仕事」も厭わない覚悟を持った企業になるでしょう。そして、そのためには創業者が十分な株式を保有し、長期的なビジョンを実現できるガバナンス構造も重要な要素となります。
