
静かに分断する組織 #1
静かに分断する職場って何?対話の専門家に聞いた「本音」の引き出し方
「会社では不満を感じていない」と言いながらも、静かに退職していく人が増えている。会議では表立った反対意見は出ないのに、組織に一体感がない。こんな風景が日常の職場で増えてきた。この現象の正体とは何か?
『静かに分断する職場』の著者で、ジェイフィール代表・コンサルタントの高橋克徳氏に、職場の分断とその解決策について聞いた。

「静かな分断」とは?お互いが何を考えているか見えなくなった状態
Q: 「静かな分断する職場」とはどのような状態を指すのでしょうか?
「静かな分断」とは、お互いが何を考えているのか見えなくなってしまった状態です。現代の職場では人の気持ちや背景にあるものが見えづらくなっています。価値観も多様化し、世代による違いもあります。
そうした状況で「この人とは背景が違うし、前提も違うし、価値観も違う」と感じるようになると、お互いに触れられなくなります。「余計なことを言ってはいけない」「下手なことを言ったらパワハラだと言われるかも」といった恐れから距離が生まれ、言ってはいけないことが増えていきます。
次第に多くの人が「それでいいのかな」と慣れてきて、目の前の仕事をきちんとこなせばいいという雰囲気になっていきます。お互いを理解できないのは当たり前、深く関わらない方が楽だと考えるようになり、ますます関わりが持てない職場になっていくのです。
表面は円滑でも、本音では「会社に思い入れない」人が増加
Q: 分断が進んでいる職場ではどんな問題が発生しているのでしょうか?
表面的には仲が悪いわけでもなく、ギスギスしているわけでもありません。最近のエンゲージメント調査などでは、表面的には「良い」と回答する人が多い傾向にあります。しかし実際に話を聞くと「あまり仕事に思い入れはないし、会社にもこだわっておらず、何かあれば転職したい」と考えている人が増えています。
実際の調査でも、何かあっても本音で相談できないと感じている人が約6割にのぼっています。こうした状況では大きく3つの問題が発生します:
1. 仕事は孤立して自分だけでやるもの、仕事に喜びを求めなくていいという諦め
2. 同僚との関係も単なる仕事の関係だけという割り切り
3. 会社に対する思い入れが持てず、会社の未来を考えることからも引いてしまう姿勢
マネジャー層と上司の分断が組織に大きな影響を及ぼす
Q: マネジャー層における上司との分断の影響について教えてください
特に興味深いのは、マネジャー層と上司との間の分断が、組織全体に大きな影響を与えている点です。調査によると、管理職が上司と分断度が高いと、「仕事が面白い」「職場が楽しい」「会社が好き」といった気持ちに大きなギャップが生じます。
この現象が特に重要なのは、管理職が孤立しやすい立場にあるためです。管理職になると横のつながりが弱くなり、さらに上司との縦のつながりも弱くなり、下からは突き上げられるという辛い状況に置かれがちです。そんな状況の管理職を若い世代が見ていれば「自分もマネジャーになりたい」とは思わなくなるでしょう。

これは単なる個人の問題ではなく、組織全体の課題です。人口減少や市場縮小など社会課題が増える中、組織として一緒に対話し考え乗り越えていく文化がなければ、誰も本気で向き合わず、誰も対話せず、誰も立ち上がらない状態になってしまいます。
対話の土台作りが重要 - 5つのステップで関係を作る
Q: 分断された職場を立て直すために、どのようなアプローチが必要でしょうか?
職場の分断を解消するためには、本音で向き合うことが大切です。しかし、いきなり「本音を聞かせてください」と言っても、相手は本音を話してくれません。まずは対話の土台作りから始める必要があります。具体的には5つのステップがあります:

1. 遠くから眺める、客観視してみる:自分のフィルターを外して、起きていることをそのまま受け止める姿勢が大切です。立場によって見える景色は異なります。様々な視点から状況を見つめ直すことで、より本質的な理解が可能になります。
2. 人の心理と特性を理解する:人は何かうまくいかない時に自分で抱え込んだり、助けを求められなかったり、周囲に同調しようとする心理があります。背景にどんな心理があるのかを一緒に探求することが大切です。
3. 議論ではなく、対話をする:議論は正解を求めて多様性を排除していきますが、対話は違いを認め合い、なぜそう思うのかを重ね合わせて新しい意味を見つけていくプロセスです。
4. 当たり前を問い直す:「会社はそういうもの」「仕事とはそういうもの」と片付けずに、なぜそうなのかを問い直し、別の可能性を探ることが必要です。
5. 一致ではなく、重なり合わせ続ける:全員が完全に同じ方向を向くことを求めず、重なる部分を見つけて、そこから繋がりを作っていくことが大切です。
リーダーの「弱さの開示」が対話を生む - オーセンティックリーダーシップの重要性
Q: マネジャーや上司はどのように対話を始めれば良いのでしょうか?
分断が進んでしまった職場では、上司がいくら「皆さんの話を聞きたい」と言っても、すぐには部下は本音を話しません。ここで重要なのは、上司自身が「困っている」ことを開示することです。
現代のリーダーシップ論は「オーセンティックリーダーシップ」という考え方に変わってきています。これは「リーダー自身のあり方」が大切だという考え方です。リーダーが自然体でありのままの存在であり、「自分はこう考えている」「こういうことで困っている」と示すことで、周りも「自分も言っていいんだ」と感じられるようになります。
リーダーの振る舞いやあり方が周りに影響を与え、それが文化を作っていくのです。リーダーの役割は自分が影響を与えて人を動かすことではなく、みんなが動き出せるような環境や空気感を作ることです。
そのために有効なのが「バルネラビリティ(脆弱性・弱さの開示)」です。リーダー自身が弱さを素直に出すことで、周りも本音を言える状況が生まれます。
日本人は対話に向いている?心理的安全性と「悩む力」の価値
Q: 日本と海外の対話文化の違いはありますか?日本企業の強みはあるのでしょうか?
オランダやフィンランドなどでは、幼児教育から対話の文化を育てています。小さい頃から様々な立場の意見を言う訓練があり、政治家との対話の機会も作られています。
一方で、高橋氏は「日本人の方が実は対話に向いているのではないか」と考えています。日本人は相手の気持ちを察知しようとする力、寄り添う力が強いからです。「本当はどう思っているの?」「どうしたいの?」と自然な問いを立て、一緒に悩む能力があります。
しかし現在は、その能力を使う機会が少なく、スピード重視の働き方の中で失われつつあります。対話の場を作り実践してみれば、意外と多くの人が「こんなに自分の思っていることを話したことがなかった」「話してみて初めて自分が何に悩んでいるか分かった」という気づきを得ることができます。
「エンゲージメント調査」だけでは分からない危険信号
Q: 「静かに分断している職場」に危機感を持つきっかけとして、どのような兆候に注意すべきでしょうか?
実は、分断が進んでいる職場では、問題が見えにくくなっているのが特徴です。エンゲージメント調査などを実施しても、表面的には結果が良いことも多いのです。「下手なことを言うと後で調査が入るかも」と考え、うまく答えようとする傾向があるからです。
明確な兆候としては「離職者の増加」がありますが、それはすでに問題が表面化した状態です。むしろ、「静かな分断」が起こっているかもしれないことを前提に、コミュニケーションの土台を作り直す取り組みを始めることが大切です。
多くの経営者は「ちゃんと働いて成果を上げてくれれば良い」と考え、問題が見えていないことが多いのですが、表面化する前に手を打つことが重要です。
若手が求めるのは「変化できる組織」- 問いかけに向き合えない組織からは人材が流出する
Q: 若い世代が「この会社に未来がない」と感じる理由は何でしょうか?
ある会社の事例では、辞めていく若手が「この会社に未来がない」というコメントを残していました。理由を調査したところ、「なぜ会社は常に成長、成長と言うのか?」「なぜ残業が当たり前なのか?」「なぜ会社が一方的に転勤を決める権利があるのか?」といった問いかけに対して、上司は「会社というのはそういうもの」「仕事とはそういうもの」と答えるだけでした。
若い世代はこれらの問いかけに真摯に向き合わない組織には「変化する力がない」と判断し、未来を感じられずに離れていくのです。「会社の当たり前」を問い直し、新しい可能性を探る姿勢がなければ、優秀な人材は流出していくでしょう。
会社の方向性に完全に一致することを求めるのではなく、多様な価値観を認め、重なる部分を見つけ、そこから繋がっていく柔軟さが必要です。

まとめ:関係性の再構築が組織の未来を決める
静かに分断する職場では、表面的には円滑でも深い繋がりは失われています。これは単なる個人の快適さの問題ではなく、組織として社会課題や市場変化に立ち向かう力を弱めることになります。
解決の鍵は、対話
の土台を作り、本音で向き合うことです。特にリーダーには、自身の弱さを開示し、多様な意見を受け入れる姿勢が求められます。完全な一致ではなく、重なり合う部分を見つけ、そこから関係性を構築していくことが大切です。
日本人が持つ「相手に寄り添う力」「一緒に悩む力」は、対話文化を作る上での強みになり得ます。静かな分断を乗り越え、共に未来を創る組織へと変わっていくことが、今後の日本企業に求められています。
