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【睡眠の質】って結局なに?
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2025年4月16日

ビジネスパーソンのための体・心の鍛え方を一流の専門家から学ぶ。睡眠・冬眠研究の第一人者、筑波大学の櫻井武氏が睡眠の質を徹底解説。 <ゲスト> 櫻井武/筑波大学 医学医療系 教授 1964年東京生まれ。筑波大学大学院医学研究科修了。医師、医学博士。日本学術振興会特別研究員、筑波大学基礎医学系講師、テ...
「理想の睡眠」はそもそも存在しない?睡眠専門家が語る「良質な睡眠」の本当の正体
睡眠の質を上げるために様々な情報が溢れていますが、その多くは正確ではないと指摘するのは、睡眠・冬眠研究の第一人者である筑波大学の櫻井武氏。「睡眠の質を上げなければならないと言っている人でも、実は睡眠の質を理解していないことが多い」と語ります。櫻井氏によると、単に深い睡眠だけで構成された睡眠は理想的ではないのだとか。では、本当の「良質な睡眠」とは何なのでしょうか?

Q: 睡眠の質とは何ですか?
多くの人は「深い眠り」や「短時間でも効率的に取れる睡眠」を質の高い睡眠だと考えています。しかし、睡眠の質を規定する最も重要な要素の一つは「長さ」です。まずは十分な睡眠時間を確保する必要があります。
その上で、睡眠のサイクルも重要です。一晩の睡眠では、ノンレム睡眠とレム睡眠のサイクルが4〜5回繰り返されるのが通常です。このサイクルは単に同じことを繰り返すわけではなく、最初のサイクルの方が深い睡眠が出現し、後半は浅い睡眠になっていきます。そしてこれは本来そうあるべき形なのです。
ノンレム睡眠にも種類があり、N1、N2、N3という深さの段階があります。N3が最も深い睡眠ですが、浅めのN2にも重要な役割があります。例えば、N2では「手続き記憶」(ゲームやスポーツのスキルなど)を固定化する役割があり、深いN3では「陳述記憶」(言葉にできる情報)を固定化する機能があります。

Q: すぐに寝られる人は睡眠の質が良いのですか?
寝床に入ってすぐに寝られることを自慢する人もいますが、実はこれは必ずしも良いことではありません。睡眠専門医が行うポリソムノグラフィという検査では、睡眠潜時(寝つくまでの時間)が8分以下だと「短すぎる」という判定になります。
このような状態は基本的に睡眠不足を示しています。すぐに寝落ちしてしまい、誰かに起こされても全く起きないほど深い眠りに陥る場合、それは慢性的な睡眠不足状態にあることを意味します。睡眠圧(眠気の圧力)が非常に高くなっているため、すぐに深い睡眠に入ってしまうのです。
Q: 夜10時から2時の間の睡眠が「ゴールデンタイム」と言われますが、本当ですか?
これは正確ではありません。成長ホルモンの分泌と結びつけてこの時間帯が特別だと語られることがありますが、時刻と直接関係があるわけではありません。
重要なのは、睡眠の最初の周期に深い睡眠が出現することです。成長ホルモンはこの最初の深い睡眠の際に分泌されます。夜10時に寝ようが、夜11時半に寝ようが、極端な話、深夜3時に寝ようが、最初の周期に深い睡眠があれば成長ホルモンは分泌されます。
ただし、一般的には脳の連続稼働時間は約16時間なので、朝6時に起きた場合、夜10時頃には自然と眠くなる傾向があります。これは「睡眠禁止帯」という概念と関係しており、普段11時に寝ている人は、その2〜3時間前(8〜9時頃)は比較的寝付きにくい時間帯となります。
Q: 「ショートスリーパー」は本当に存在するのですか?
本物のショートスリーパーは確かに存在しますが、5.5時間以下の睡眠で完全に機能できる人は非常に稀です。ビジネスマンなどで「私は短時間睡眠でも大丈夫」と言う人の多くは、実際には睡眠不足状態です。
本物のショートスリーパーは、5.5時間の睡眠で日中全く眠くならず、自分のパフォーマンスを十分に発揮できます。つまんない会議でも全く眠くならず、運動も普通にできるレベルです。これには遺伝的要素があり、いくつかの遺伝子が特定されていますが、その出現頻度は数万人に1人程度です。
現代人に多いのは「高度誘発性睡眠不足症候群」で、常に睡眠が足りていないのに、その状態が長く続いているためそれが普通だと思い込んでいる状態です。本来はもっと睡眠時間があれば日中のパフォーマンスが上がるのに、慢性的な睡眠不足を自覚していないのです。
Q: 良質な睡眠を取るための要素は何ですか?
良質な睡眠のためには以下の4つの要素が重要です:
1. 光環境を整える:
朝は明るい光を浴びて体内時計をリセットし、夜は暗い環境で過ごすことが理想的です。特に起床直後に日光を浴びることが重要です。スマートフォンのバックライトは輝度が高いので、就寝前はなるべく見ないか、ナイトモードにすることをお勧めします。
2. 温度を適切に保つ:
体温が下がらないと寝付きにくくなります。特に夏場はエアコンを使用して室温を調整することが大切です。「エアコンをつけて寝ると体に悪い」という俗説は科学的根拠がありません。
3. 音環境に注意する:
人の声は覚醒を促すため、テレビをつけたまま寝ることは睡眠の質を下げます。「寝ながら聞くと覚えられる」という語学学習法も効果はなく、むしろ睡眠を妨げます。
4. 感情をコントロールする:
寝る前のネガティブな感情だけでなく、「明日楽しいことがある」というポジティブな感情も、脳が「まだ寝てはいけない」と判断して寝付きを悪くする可能性があります。

Q: 睡眠不足は健康にどのような影響を与えますか?
疫学調査によると、睡眠時間が短いと様々な健康問題のリスクが高まります。メタボリックシンドローム、肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病だけでなく、最近の研究ではがんのリスク増加との関連も指摘されています。
また、深刻な睡眠不足はパフォーマンスの低下を引き起こします。仕事や勉強の効率が下がるだけでなく、判断力や記憶力にも影響します。慢性的な睡眠不足状態が続くと、それが「普通」の状態だと思い込み、自分のパフォーマンスが低下していることに気づかないことも問題です。

Q: 人工冬眠の研究はどのように進んでいますか?
櫻井氏の研究チームでは、通常は冬眠しないマウスを冬眠状態に導く研究を行っています。哺乳類は通常37℃前後の体温を維持していますが、体温調節システムの一部を操作することで冬眠に似た状態を作り出すことができます。
この研究は将来的に宇宙探査や医療分野での応用が期待されています。長距離宇宙飛行では、宇宙飛行士の代謝を下げることで、酸素や食料などの物資を節約できる可能性があります。医療面では、臓器保存や救急医療での活用が考えられています。
例えば救急搬送の場面では、酸素供給が十分でない状況で患者の組織が損傷を受けることがあります。人工冬眠技術を応用すれば、体の代謝を下げて酸素需要を減らすことで、治療までの時間を稼ぐことができるかもしれません。これは「究極の省エネ」とも言える技術です。
この研究はまだ基礎段階ですが、将来的には人間にも応用できる可能性を秘めています。