
パナソニック再生のお手本はシーメンス。イケてるグローバル企業とは?
株価が正直に語る企業変革 - 財務戦略アドバイザーが明かすパナソニック・ソニー・日立の明暗
「株価は正直だ」と言われるように、企業の変革は最終的に株価に表れてくる。会社を良くするには時間がかかり、その成果が目に見えるようになるまでさらに時間を要する。そして市場がそれを評価するのは、それからだ。パナソニック、ソニー、日立の3社を比較すると、近年の株価に大きな差が生まれている背景には何があるのだろうか。

Q: パナソニックとソニー・日立の株価パフォーマンスに差がついた理由は何ですか?
これら3社の株価パフォーマンスを見ると一目瞭然で、特に2017年頃からその差が顕著になってきています。実はそれまではあまり差がなかったのです。
企業規模の大きな会社の場合、事業ポートフォリオの入れ替えなど、会社を本質的に良くしていくには時間がかかります。その成果が見え始め、それを市場が評価するまでには、さらに時間を要するものです。
ソニーと日立の場合、過去10年ほどで評価が大きく分かれてきました。この差の最大の要因は、「家電を切れたかどうか」にあります。もちろん完全に切ったわけではありませんが、得意な領域に特化したことが重要でした。

Q: ソニーはどのように生まれ変わったのですか?
2008年3月期のソニーは完全な家電メーカーでした。しかし今やゲーム、音楽、映画などのエンターテイメント事業が中心となり、売上の7割以上をエンターテイメント部門が占めています。
売上構成を見ると、2008年と比較して2024年は売上高が1.5倍、営業利益は3倍超となっています。各事業の利益率が大きく向上し、音楽ビジネスなど以前は「その他」に分類されるほど小さかった事業が、現在は主力の稼ぎ頭になっています。
最も重要なのは、ソニーが「我々はエンターテイメント企業だ」と企業自身を再定義したことです。これにより投資市場からの評価も変わり、現在のPER(株価収益率)は19倍と市場平均を大きく上回っています。

Q: 日立はどのように変革を遂げたのですか?
日立も大きく変わりました。2008年3月期には様々な事業を行っていましたが、その多くが利益率の低い事業でした。特に家電部門は赤字を抱えていました。
現在の日立は、デジタルシステムやコネクティブインダストリーなど、顧客企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を中心とするビジネスモデルに転換しています。これらの事業は高い利益率を誇り、会社の稼ぎ頭となっています。
個々の事業を見ると、2008年時点では各事業の利益が1000億円程度だったのに対し、現在の主力3事業はすべて2000億円を超える利益を上げています。市場もこれを評価し、PERは27倍という高い水準になっています。
日立は「Lumada」というIoTプラットフォームを軸に全事業を再構築し、これに関係のない事業は売却するという明確なアイデンティティを確立しました。

Q: パナソニックの課題は何ですか?
パナソニックは、売上が若干減少し、営業利益も下がっています。PERは13倍と市場平均を下回っています。最大の課題は、「どのような会社なのか」というアイデンティティが明確でないことです。
パナソニックの中には、デジカメなどの家電製品が「その他」の分類に含まれており、その「その他」だけで1兆数千億円の売上があります。このような状況では、社員のモチベーションにも影響します。会社としての方向性を明確に定義し、それを社内外に示すことが必要です。
2月に発表された新改革プランも、具体性に欠け、日立が目指す方向と似た印象を受けます。パナソニックは優れた家電製品を持っていますが、稼げる分野と競争力のある製品にもっと絞り込むべきでした。
Q: 収益性の高い企業の特徴とは?
収益性の高い企業はシンプルで、その構造は美しいと言えます。例えばドイツのシーメンスは、2000年から20年以上にわたって売上高はほとんど変わっていません。むしろ若干減少していますが、株価は一貫して上昇しています。
これは利益の質が変わったためです。2000年には営業利益率が6.75%だったのが、2024年には12.6%に上昇しています。シーメンスは携帯電話部門などを早期に手放し、デジタルインダストリー(顧客のDX支援)などの高収益事業に特化しました。
この事業はPER比率の高いソフトウェア企業として評価され、シーメンスはハードウェア企業からソフトウェア企業へと完全に生まれ変わりました。現在ではSAPと並ぶドイツのソフトウェア企業として認知されています。
このような事例は、成長戦略において必ずしも売上増加にこだわる必要がないことを示しています。ヨーロッパの優良企業の多くは売上が増えていなくても、利益率を高め、利益の質を向上させることで市場から高い評価を得ています。
Q: 欧州企業が優れた未来予測を持つ秘訣は?
シーメンスの強みとして「ピクチャー・オブ・ザ・フューチャー」という取り組みがあります。これは15年先の未来を予測し、様々な事業分野ごとに詳細な未来予想図を作成するものです。
このドキュメントは50〜100ページほどの詳細なもので、社員全員がこのビジョンを共有しています。3〜5年ごとに更新されますが、興味深いことに過去のバージョンも今見ると非常に的確な予測をしていたことがわかります。
この未来予想は抽象的ではなく、非常に具体的です。例えば電気自動車社会がどのようになるか、充電ステーションはどうなるかなど、グラフィックを交えて詳細に説明されています。
こうした未来への明確なビジョンと、それに基づく一貫した戦略が、シーメンスの強さの源泉となっています。ドイツのケルン大聖堂が600年かけて建設されたように、長期的な視点で事業を構築する文化があるのです。
Q: 日本企業が未来を先取りするために必要なことは?
日本企業が未来を先取りするためには、グローバルな視点とキュレーション能力が必要です。欧州の企業経営者は、様々な国でマネージャーや現地法人の社長を経験し、多様な文化や市場に触れることでアンテナを張り巡らせています。
本社オフィスにこもっているだけでは、未来のトレンドを感じ取ることはできません。生身の体験を通じて得られる知見が、企業の未来を形作ります。
韓国のサムスンが強いのも、世界中に専門家を送り込み、各地域の文化や生活スタイルを徹底的に研究しているからです。市場に受け入れられる製品を作るためには、マーケット志向の考え方が重要です。
日本は物づくりのハードウェアの強みを持っています。これにセンサーを付けて物理的世界のデータを取得し活用することで、インターネットの世界では取れない、現実世界の99%のデータを扱う強みになる可能性があります。

Q: 企業変革に必要なリーダーシップとは?
企業変革には、明確なビジョンを示すリーダーシップが不可欠です。ソニーや日立が再生できたのは、明確な方向性を持ち、そこに向かって進む決断力があったからです。
一方で、カリスマ型のリーダーシップからの脱却も重要です。シーメンスやネスレなどヨーロッパの優良企業は、特定のカリスマ経営者に依存せず、組織として一貫した方向性を持っています。
企業変革は、危機感だけでなく希望も必要です。マイナスをゼロに戻す再生フェーズは危機感で乗り切れても、その先の成長戦略には希望が不可欠です。危機感だけでは長続きしないのです。
パナソニックはゼロリセットはできましたが、これからどのような会社を目指すのか、明確なビジョンを示すことが求められています。
