
脳のピークは30歳/日常生活で脳を鍛える方法/SNSの弊害【榊 浩平】
脳科学者に聞く!スマホ依存で急低下する脳機能、今日からできる「脳トレ3選」とは
私たちの日常生活に完全に溶け込んだスマートフォン。便利な反面、脳機能の低下を招いている可能性があるという。脳科学者の榊浩平氏に、現代人の「脳の運動不足」問題と、今日から始められる簡単な対策を聞いた。

Q: 脳の基本的な構造と働きについて教えてください
脳は1つの臓器でも機能は一様ではなく、場所ごとに役割を分担しています。大きく分けると4つの領域があります。
まず前側の「前頭葉」は体を動かす運動機能を担当しています。脳の上側の「頭頂葉」は触覚や空間認識の働きを担っています。横側の「側頭葉」は主に聴覚、つまり耳の機能を担当し、最後に後ろ側の「後頭葉」は視覚を担当しています。
特に注目すべきは前頭葉のさらに前側、おでこの裏側にある「前頭前野」という領域です。この部分は私たち人間を人間たらしめる重要な機能を担当しています。思考、理解、記憶といった学習に関わる機能だけでなく、感情コントロール、自己管理能力、言語能力、共感能力などの非認知能力も支えています。
いわゆる「脳トレ」は、実はこの前頭前野を鍛える方法を総称したものです。

Q: 現代人の脳はどんな問題を抱えているのでしょうか?
現代人の脳は「運動不足」状態にあります。特にコロナ禍以降、オンラインでの会話が増え、対面コミュニケーションが減ったことが大きな影響を与えています。
実験結果によると、オンラインでの会話中の脳の活動は、対面での会話に比べて著しく低いことがわかりました。驚くべきことに、オンライン会話中の脳の動悸度(同期度)は、何もせずぼーっと座っている時と同じレベルだったのです。
これは非常に重要な発見です。なぜなら、コミュニケーションにおいて言葉のやり取りは全体の約1割にすぎず、残りの9割は目線、頷き、ジェスチャーなどの非言語コミュニケーションだからです。オンライン上では目線を合わせることが物理的に不可能で、画面に映る範囲も限られているため、この非言語的要素が大幅に失われてしまうのです。

Q: SNSの使用は脳にどのような影響があるのでしょうか?
SNSの使用は脳機能、特に学習能力に悪影響を与えることが研究で明らかになっています。調査によると、インスタントメッセージのような通信アプリの使用時間が長ければ長いほど、学力テストの成績が低下する傾向が見られました。
特に注目すべきは、全く使用しない人の成績が最も高く、少しでも使用すると成績が下がるという結果です。これは、スマートフォンの一般的な使用とは異なるパターンを示しています。
近年のコミュニケーションの変化も問題です。例えば、LINEでの「スタンプだけの返信」や「長押しリアクション」など、文字を打つという行為すら省略する傾向が増えています。これにより、脳への負荷がさらに減少し、脳の発達や維持に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、SNSを閲覧する際の「比較」の問題も重要です。他人の投稿と自分を比較することで不安や抑うつ感が高まるリスクがあり、実際にSNSの使用頻度が高い人ほど不安傾向が強まるという結果が世界中の研究で示されています。
Q: 未成年者のSNS使用を制限すべきだという議論がありますが、どう考えますか?
未成年者、特に子どもたちのSNS使用については慎重に考える必要があります。オーストラリアでは16歳未満のSNS利用を制限する法案が話題になりましたが、これは子どもたちの健全な発達を支えるための大人側の責任という観点から理解できます。
公営ギャンブルが20歳未満禁止であることや、映画にR指定があることを考えると、SNSも同様に年齢制限を設けることには一定の合理性があります。ただし、SNSに関しては言論の自由や情報アクセスの問題も絡むため、単純な禁止だけではなく、家庭や学校での適切な教育と組み合わせた総合的なアプローチが必要でしょう。
重要なのは、単に使用時間を制限するだけでなく、子どもたちとスマートフォンやSNSとの適切な付き合い方について話し合うことです。

Q: 脳トレの効果はどの程度あるのでしょうか?
適切な脳トレには実証された効果があります。中学生・高校生を対象にした2か月間の脳トレ実験では、国語や算数の模試の点数が有意に向上しました。英語についても向上傾向が見られました(理科と社会については差が見られませんでした)。
また、医学研究でも4週間程度の脳トレで若者から高齢者まで認知機能が向上することが確認されています。ただし、すべての「脳トレ」に効果があるわけではありません。市販の多くのパズルやクロスワードには効果が認められていない場合があります。
効果的な脳トレを選ぶ際には、大学と共同開発されたものや、論文で効果が実証されているものを選ぶことが重要です。簡単に「脳トレ」と名乗っていても、実際に脳機能を向上させる根拠がないものも多いので注意が必要です。
Q: 日常生活の中で脳を鍛えるには、どんな方法がありますか?
日常生活の中で脳を鍛える方法はいくつかあります。
1. 対面コミュニケーションを増やす:
オンライン会議やテキストメッセージでのやりとりを全て対面に変える必要はありませんが、いくつかの会議や打ち合わせを意識的に対面で行うようにしましょう。脳の同期が起こり、より深いコミュニケーションが可能になります。
2. 文字を書く習慣をつける:
大切なことを伝える時は、テキストメッセージではなく手書きのメモや手紙を活用してみましょう。タブレットでのメモも、キーボード入力よりは脳を使うので良い方法です。紙に書くと心が動く感覚があるのは、脳がより活発に働いている証拠です。
3. 寝る前のスマホをやめる:
就寝前のスマホ使用は睡眠の質を著しく低下させます。ブルーライトの影響で脳が覚醒状態となり、寝つきが悪くなったり、中途覚醒が増えたりします。寝る前はスマホではなく、紙の本を読む習慣をつけましょう。
Q: 脳を鍛えるための具体的な実践方法を教えてください
脳を鍛えるためには「少し面倒くさいこと」を意識的に取り入れることが重要です。「面倒くさい」と感じるということは、脳に適度な負荷がかかっている証拠なのです。
例えば、スマートフォンを常にポケットに入れるのではなく、バッグの中にしまうなど、物理的に距離を取る工夫も効果的です。こうした小さな「不便さ」が、実は脳にとって良い刺激となります。
また、脳トレアプリなどで集中力を鍛えることも効果的です。数字とひらがなを交互にタッチするゲームなどは、前頭前野の情報処理能力を高めます。
脳は筋肉と似た性質を持っており、使えば発達し、使わなければ衰えます。前頭前野は30歳でピークを迎え、その後は下り坂になるため、意識的なトレーニングが必要です。特に、日常的にスマートフォンやSNSを利用することで「楽」をしている現代人は、意識的に脳に負荷をかける習慣が重要です。
小さなことから始めて、徐々に脳の健康習慣を身につけていきましょう。脳が活発に働くことで、思考力や集中力が向上し、生活の質も高まります。
