
スマホに壊される脳/長時間使用するほど学力低下【榊 浩平】
スマホ依存が脳に与える影響とは?脳科学者が警鐘を鳴らす「スマホに壊される脳」の実態
私たちの生活に欠かせないスマートフォン。便利な反面、長時間の使用は脳の発達に悪影響を及ぼす可能性があると言われています。東北大学応用認知神経科学センター助教の榊浩平氏に、スマホ依存の実態と対策について聞きました。

Q: 日本人のスマホ使用時間はどのくらい?
年代によって差があります。10代・20代は1日約300分(4〜5時間)、30代以降は1日約200分(3時間強)使用しています。これは仕事での使用も含めた時間です。
使用時間を把握することが対策の第一歩です。スマホの設定から使用時間を確認できますが、どのタイミングで何の目的で使っているかまで把握している人は少ないのが現状です。
Q: スマホの使いすぎは学力にどのような影響を与える?
仙台市の教育委員会と共同で行った研究では、スマホの使用時間と子どもの学力には明確な関係があることがわかりました。
スマホを1時間未満使用する子どもは、全く使わない子どもと比べて成績が良い傾向があります。これは使うこと自体よりも、使用時間を1時間未満に抑えられる自己管理能力の高さが影響していると考えられます。
しかし注目すべきは、使用時間が1時間を超えると、使った時間に比例して成績が低下する点です。特に3時間以上使うと、たとえ勉強時間や睡眠時間が十分でも、成績上位層がほぼいなくなるという結果が出ています。
Q: なぜスマホの長時間使用は学力に悪影響を与えるの?
一般的には「スマホをよく使う子は勉強時間が減る」「睡眠不足になる」と考えられがちですが、研究結果は異なる原因を示しています。子どもたちの脳の発達に直接的な悪影響を与えている可能性が高いのです。
約300人の小中学生の3年間の脳の発達を調査した結果、ネットの使用頻度が高いほど、脳の広範囲(約1/3)の領域で発達に悪影響が見られました。特に毎日使用すると答えた子どもたちでは、その部分の発達がほぼ停止していたのです。
脳の発達が適切に進まなければ、同じ時間勉強しても吸収率が下がり、集中力が低下し、記憶に残りにくくなるなど、学習効率に直接影響します。

Q: 大人の脳にもスマホは影響する?
子どもほど顕著ではありませんが、大人の脳にも影響はあります。人間の脳、特に前頭前野(おでこの裏側)は9〜18歳頃に急速に発達し、その後も30歳頃まで発達が続きます。30歳以降は基本的に衰える一方です。
子どもは脳をたくさん使って発達させる必要があり、大人は育てた脳を維持するために適切に使い続ける必要があります。ですから、スマホの使い方は子どもだけでなく大人も気をつけるべき問題です。

Q: 子どものスマホ利用についてはどう考えればいい?
WHO(世界保健機関)のガイドラインでは、2歳未満の子どもにはスマホだけでなく、タブレットやテレビなど、あらゆるメディアの視聴を避けることを推奨しています。2歳以上でも1日1時間までに制限することが望ましいとされています。
現代社会では子育てにスマホを活用する場面も多く、完全に避けるのは難しいでしょう。しかし、科学的エビデンスとしては「スマホ育児は脳の発達に良くない」という結果が出ています。問題解決能力、コミュニケーション能力、言語発達、感情制御能力などに悪影響を及ぼす可能性があります。
Q: すでにスマホを長時間使っている子どもは改善できる?
希望はあります。研究によると、1時間以上スマホを使用していた子どもが使用をやめるか1時間未満に減らすことができれば、成績の上昇が見られました。
ただし、長時間使用していた子どもが自然に使用時間を減らすケースは全体の1割程度と少ないのが現状です。親が一方的に取り上げるのではなく、子ども自身が自己管理できるよう話し合いながら徐々に減らしていくアプローチが効果的です。
Q: スマホ依存から抜け出すには?
スマホをまったく使わない生活は現実的ではありませんが、使い方を見直すことは可能です。まず自分の使用パターンを客観的に把握し、「スマホでなければできないこと」と「楽をしていいこと」という2つの基準で使用を仕分けしましょう。
ホーム画面に配置するアプリは必要最小限にすることも重要です。頻繁に使うもの以外は別ページに移動させ、目につかないようにすることで、無意識に触れる機会を減らせます。背景もシンプルにして不要な視覚的刺激を減らすと効果的です。
試しに「デジタルデトックス」として1日だけでもスマホを使わない生活を体験してみるのも良いでしょう。スマホの機能を他のもので代替できないか考えることで、本当に必要な使い方が見えてきます。

Q: デジタルとアナログの違いは?
実験によると、紙の辞書を使って調べ物をする場合と、スマホで検索する場合では、脳の働き方に大きな違いがあります。紙の辞書を使うと前頭前野の活動が大幅に上昇しますが、スマホでの検索ではほとんど活動が見られませんでした。
これは「Google効果」や「デジタル性健忘」と呼ばれ、ネットで手軽に得られる情報は記憶に残りにくいことが知られています。実際、実験後のテストでも、スマホで調べた内容は覚えておらず、紙の辞書で調べた内容はしっかり記憶していました。
つまり、情報を得ることが目的なら(例えば乗り換え案内や時刻表の確認など)スマホが便利ですが、学習のように情報を記憶にとどめ知識に変換する目的なら、アナログな方法との併用が効果的です。
Q: スマホとの正しい付き合い方は?
スマホはただの道具であり、使う目的を明確にすることが大切です。分析によると、情報検索などの能動的な使い方をしている子どもは、動画視聴やSNSの閲覧だけなど受動的に使っている子どもよりも悪影響が少ないという結果が出ています。
使われる側ではなく、使いこなす側になることが重要です。スマホの便利さを享受しながらも、その弊害も理解して、自分にとってプラスになる使い方を心がけましょう。
スマホは現代社会では欠かせないツールですが、それによって私たちの脳や思考が支配されないよう、適切な距離感を持って付き合っていくことが求められています。
