
【年金のリアル:Q&A(前編)】年金の世代間格差は本当に大きいのか?
年金制度は本当に大丈夫?専門家が「少子化」「世代間格差」の疑問に答える
少子高齢化が進む日本において、将来の年金制度に不安を抱える人は少なくない。「年金は破綻するのではないか」「若い世代は損をしているのではないか」といった疑問が絶えない。そこで今回は、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏と社会保険労務士の高橋義憲氏に、年金制度の持続可能性や世代間格差についての真相を伺った。


Q. 少子化が加速しても年金制度は持続可能なのか?
国は経済状況の予測として「楽観」「標準」「悲観」の3つのケースを想定している。現在は出生率が下がってきており、悲観的な数字に近づいているが、これは予測の範囲内だ。
また、単純に日本人の出生数だけを見ると年間68万人程度だが、日本人が海外で出産する数(2〜3万人)や外国人が日本で出産する数を合わせると、実際には80万人程度になる。
さらに、少子化だけでなく平均寿命も見る必要がある。実は最近は平均寿命が2年連続で下がっている時期もあり、悲観的な予測に近づいている。平均寿命が短くなると年金財政にはプラスに働く。
経済面では、現在の経済状況は「標準」より上のレベルにある。財政検証で使われる「過去30年平均ケース」は、失われた30年が続くという保守的な予測だが、これは現在よりも悪い数字を想定しているのだ。
仮に想定以上に経済状況が悪化した場合、年金制度だけでなく、経済全体、社会全体が危機に陥る。極端な悲観論に基づいて年金制度の未来を否定的に見るのは現実的ではない。

Q. 世代間格差は本当に問題なのか?
1940年生まれの人は支払った年金保険料の6.3倍の給付を受け、現在は2.3倍になっていることから、世代間格差が存在すると言われている。しかし、1940年生まれの人々は戦争中や戦後の困難な時代を生き抜いてきた。中学卒業で働く率が6割、高校進学率も3割程度だった時代を考慮する必要がある。
また、彼らの母親世代(1910年代生まれ)はほとんど年金保険に加入しておらず、現在の高齢者は自分の親世代の分も負担していたという側面がある。
さらに、世代間格差を示すデータは、全員が同じ条件で年金に加入していたという前提で比較しているが、実際には違う。例えば1960年代生まれの人々が社会に出始めた1980年頃は、厚生年金に加入できる人の割合は58%程度だった。小規模事業所や個人事業主は年金に加入していない場合も多く、制度の恩恵を十分に受けられなかった人も多い。
高い年金を受け取っている人もいれば、低い年金しか受け取れない人も多いというのが実態だ。むしろ近年の方が制度が整備され、加入率が上がっている。

Q. 人口ピラミッドが正常化するまでの50年間、年金は耐えられるのか?
「耐え抜く」と言っても、50年間苦しい生活を強いられるわけではない。現在の予測では、最も悲観的なケースでも年金の所得代替率(現役世代の手取り収入に対する年金支給額の割合)は40〜45%程度になる可能性があるが、これは現在より2割程度減る程度だ。
また、かつては60歳までの就労を前提としていたが、現在は65歳まで働くことが一般的になっている。就労期間が延びれば、その分、年金額も増える。さらに、夫婦共働きが増えれば世帯の年金収入は増加する可能性もある。
さらに重要なのは、日本の年金制度には約5年分の積立金があるということだ。これは他国と比べても高い水準で、この積立金を活用しながら団塊世代・団塊ジュニア世代が高齢期を過ごす間の財政を支える計画になっている。この積立金は過去の世代が払った保険料の余剰分で、現在はその恩恵を受けているとも言える。

Q. 将来の所得代替率はどうなるのか?
現在の予測では、標準的なケースでも将来の所得代替率は50%程度に下がる可能性がある。これに対して「受給開始年齢を70歳程度に引き上げるべきではないか」という意見もあるが、それは必ずしも必要ではない。
日本の年金制度は「マクロ経済スライド」という仕組みを導入しており、これにより現在の受給者も含めて少しずつ給付水準を調整している。支給開始年齢の引き上げは、現在の受給者は影響を受けず、将来世代だけが影響を受けるため世代間格差を拡大させる可能性がある。
マクロ経済スライドは世代間で公平に負担を分かち合う仕組みであり、現時点では支給開始年齢を引き上げる必要はないと言える。もちろん、個人の選択として70歳や75歳まで受給を繰り下げることで、年金額を増やすことは可能だ。
Q. 人手不足による賃金インフレが起きた場合、年金生活者は困らないのか?
この質問は重要だが、むしろ年金制度の強みを示している。賃金インフレが起きて給与と物価が上昇した場合、年金額も同様に上昇する仕組みになっている。
これは「賦課方式」と呼ばれる日本の年金制度の特徴だ。現役世代が払う保険料で高齢者の年金を賄う仕組みなので、インフレに強い。仮に「積立方式」(自分の将来のために積み立てる方式)だった場合、インフレによって積立金の価値が目減りする可能性がある。
年金は単にお金の問題ではなく、現役世代が生み出すものやサービスを高齢者が消費するための「権利」を分配する仕組みとも言える。その意味では、賦課方式は経済状況の変化に対応しやすい制度なのだ。
Q. 第3号被保険者(サラリーマンの配偶者)制度はいつまで続くのか?
第3号被保険者制度は、厚生年金に加入している人の配偶者(主に専業主婦)が保険料を払わなくても基礎年金を受け取れる制度だ。この制度は男性が稼ぎ手、女性が家庭を守るという性別役割分担が強かった時代の産物と言える。
この制度の問題点は、厚生年金加入者全体で第3号被保険者の分を負担していることだ。生涯独身の人や共働き世帯からすれば、なぜ他人の配偶者の分まで負担しなければならないのかという不公平感がある。
一方で、第3号被保険者が受け取るのは基礎年金だけであり、決して「お得」とは言えない面もある。基礎年金だけでは最低保障にもならないレベルだ。
現在は、パートで働く人なども厚生年金に加入できるよう適用拡大が進んでおり、第3号被保険者の数は減少傾向にある。制度を急になくすことはできないが、徐々に縮小していく方向にある。
