
エミン・ユルマズの2025年超予測:地政学と世界マーケット
2025年超予測:シリア情勢変化が示す新冷戦の断層と日本への影響
シリアで起きた政治変動は、世界の地政学的構造を根本から変える可能性がある。エコノミストのエミン・ユルマズ氏が語る「知政学断層」の視点から、2025年以降の世界情勢を読み解く。

Q. シリアで起きた政権崩壊は世界にどのような影響を与えるのでしょうか?
シリアで起きた出来事は日本とは無関係ではなく、世界全体の構図に大きな影響を及ぼします。2013年から実質的に始まったシリア内戦が、なぜこのタイミングで急展開したのかは不思議ですが、背景には複数の要因があります。
アサド政権が今まで持ちこたえられたのは、主にイランとロシアの支援があったからです。しかし、イスラエルがハマスへの対応だけでなく、イランが支援するあらゆる勢力(レバノンのヒズボラを含む)を弱体化させました。そのため、アサド政権は軍事的支援を失ったのです。
また、ロシアもウクライナ戦争で余力がなくなっています。シリアはロシアにとって地中海に基地を持つ重要な拠点でした。ロシアは暖かい海に港を持ちたいという200年来の戦略的目標があり、シリアはその意味で重要だったのです。
私はこの状況を「新冷戦の地政学断層」と呼んでいます。シリア、ウクライナ、イエメンを結ぶラインは「エネルギールートの断層」であり、冷戦構造の一部です。シリア情勢の変化は、この新冷戦の第1ステージが終わったことを意味します。
Q. この地政学断層の次の展開はどうなるのでしょうか?
第1ステージが終わったことで、次のステージでは異なる地域での対立が高まる可能性があります。今後10年は「貿易ルートの断層」での対立が激化するでしょう。具体的には、マラッカ海峡、南シナ海、台湾海峡、日本海といったアジア太平洋の貿易ルート上での地政学的対立です。
台湾有事、中国とフィリピンの対立、中国とベトナムの対立など、軍事衝突の可能性が高まっています。特に2025年から2027年までは台湾リスクが高い時期です。
ロシアがシリアから撤退せざるを得なかったことは、ロシアの力が弱まっていることを示しています。これにより、ロシアはアフリカからも後退する可能性があり、中国のアフリカでの影響力も減少するかもしれません。地政学的には新しいステージに入ったと言えるでしょう。

Q. ウクライナとロシアの戦いはどうなるのでしょうか?トランプ政権の影響は?
トランプ氏は選挙キャンペーン中に「大統領になったら1日で戦争を終わらせる」と発言していますが、具体的な計画はありません。今回のトランプ閣僚はほぼトランプ・ロイヤリスト(トランプに忠誠を誓う人々)で、何らかのスキャンダルを抱えている人が多いのが特徴です。
トランプがウクライナへの支援を止めても、バイデン政権時代に蓄積された物資で1-2年は戦闘を継続できます。また、2年後の中間選挙でトランプ派が大敗すれば、再び支援が復活する可能性もあります。
重要なのは、戦争は必ずしも終わらなくてもいいということです。日本の北方領土問題と同様に、自分から諦めない限り、将来的な可能性は残ります。ドイツは冷戦終結時にロシアに旧領土の請求権を放棄するよう迫られ、それに同意したため、永久に取り戻す可能性を失いました。
プーチンの目標はウクライナの土地だけでなく、東ヨーロッパ全体でのソビエト時代のような影響力の回復です。トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策と外国の戦争への不介入姿勢は、プーチンにとって好機になります。
Q. 台湾有事のリスクはどの程度高いのでしょうか?
2025年から2027年は台湾リスクが非常に高い時期です。トランプ政権が「アメリカ・ファースト」政策を掲げ、外国の戦争に関与したくないという姿勢を示していること、韓国で反米・反日感情が高まっていること、これらは中国にとって好都合な環境です。
習近平は3期目でレガシー(遺産)を残したいという思惑もあります。トランプ氏は「中国が台湾を攻撃したら100%の追加関税を課す」と述べていますが、これは軍事的には何もしないという意味で、中国にとってはむしろ好材料です。
中国が台湾侵攻を控えている唯一の理由は、それが第三次世界大戦につながると恐れているからです。もしその懸念がなくなれば、中国はすぐに行動するでしょう。
台湾有事は必ずしも一気に全面侵攻という形ではなく、海上封鎖や周辺の小島の占領など段階的に進む可能性があります。中国はアメリカや日本の反応を見ながら、次の手を決めていくでしょう。

Q. 欧州の政治情勢はどうなるのでしょうか?
欧州はアメリカと比較すると経済成長率やイノベーションで遅れをとっています。ソフトウェアやAIの分野で目立つ企業もありません。しかし、これは欧州市民の意識的な選択でもあります。経済成長よりも福祉の充実や一人当たりの幸福度を高めることを選んでいるのです。
ドイツなど欧州諸国はグリーン政策を推進しすぎた面があり、特にウクライナ戦争後のエネルギー危機で輸出競争力が低下しています。
移民問題に関しては、シリア内戦の終結により難民が帰国する可能性が出てきました。これにより、欧州各国で高まっていた反移民感情が緩和され、極右政党の台頭を抑制する効果があるかもしれません。欧州諸国としては、「ミニ・トランプ」が各国で誕生することを防ぎたいという思惑もあるでしょう。

Q. 北朝鮮で急変が起きる可能性はありますか?
独裁政権の将来は予測困難です。北朝鮮も含め、イランやロシア、中国といった国々がいつ崩壊するかは分かりません。
もし北朝鮮が崩壊した場合、日本にとっては難民問題という新たな課題が発生する可能性があります。北朝鮮から大量の難民がボートで日本海を渡ってくる事態も考えられます。トルコがシリア難民を数百万人受け入れたように、難民の流入を完全に止めることは困難です。
北朝鮮崩壊後の朝鮮半島がどうなるかについては、中国の影響力が強い政権になるのか、韓国との統一が進むのか、様々なシナリオが考えられます。専門家でさえ予測が難しい問題です。
韓国は地政学的に最も葛藤が大きい国の一つで、中国と米国の間で板挟みになっています。興味深いことに、10年前は日本で反韓感情が強かったのに対し、現在は韓国で反中感情が反日感情よりも強くなっています。中国の上から目線の態度や北朝鮮からの脅威が、この反中感情の背景にあります。
韓国は1980年代まで軍事独裁政権だったことを忘れてはいけません。やっと手に入れた自由が失われることへの恐れが、韓国人の感情に影響しています。日本は幸運にも大きな苦労なく自由を獲得できたため、その価値を十分に理解していない面があるかもしれません。
