
米・老年医学専門医に聞く認知症予防の真実
65歳以上の4人に1人が認知症? 今日から始める脳の守り方
「今日という日が一番若い」―この言葉通り、認知症予防は生まれた瞬間から始まっている。アメリカで高齢者医療に携わる専門医が語る、脳を守るための生活習慣とは。

Q. 認知症と年齢による物忘れの違いは何ですか?
認知症と正常な老化による物忘れには明確な違いがある。その間に「軽度認知障害」という段階もあり、実際には3つの状態に分けられる。
正常な老化でも脳の機能は少しずつ低下するが、経験値でカバーできるため日常生活や仕事に支障がない状態だ。一方、認知症は物忘れを含む脳機能の低下によって、自立した生活ができなくなる状態と定義される。
軽度認知障害は、まだ認知症ではないものの認知症になりやすいグループだ。生活は自立しているが、仕事などに支障が出るレベルの脳機能低下がある状態を指す。
日本では65歳以上の4人に1人が軽度認知障害か認知症であるとされている。
Q. 認知症のリスクを高める生活習慣は何ですか?
タバコとアルコールは認知症リスクを高める。特にビール缶2本以上を毎日飲む習慣は脳にとって過剰であり、認知症リスクを高める。適切な飲酒量は缶ビール1本程度と考えられる。
アルコールは直接脳細胞にダメージを与えるだけでなく、脳の血管を傷つけるプロセスを経て、脳への栄養供給を妨げる。これは植物に水や栄養を与えないことで枯れていくのと同じ現象だ。
また、人間関係の希薄さ(社会的孤立)も認知症リスクを高める。人との会話は知的活動であり、脳を活性化させる。孤立状態ではこの刺激が減少し、認知症リスクが高まる。
意外なリスク要因として大気汚染もある。特に家庭内の空気の質が重要で、ガスコンロでの調理後は、危険レベルを示すアラートが出るギリギリの値の約100倍もの大気汚染が発生している。換気せずに閉め切った室内で過ごすことは、長期的に脳にダメージを与える可能性がある。
Q. 甘いものと認知症にはどんな関係がありますか?
甘い飲食物の過剰摂取は糖尿病リスクを高め、それが認知症リスクにつながる。果物100%ジュースでも、清涼飲料水と比べてあまり変わらないとされ、どちらも糖尿病リスクがある。
糖尿病は脳血管の「錆び」を進める大きな原因の一つだ。血管が錆びると水道管のように流れが悪くなり、脳への栄養供給が滞る。脳細胞は一度壊れると再生しないため、このダメージは蓄積していく。
Q. うつ病と認知症はどう関連していますか?
うつ病による気分の落ち込みは精神的ストレスを引き起こし、体内のコルチゾールなどのホルモン量を増加させる。これが脳に直接悪影響を及ぼす。
また、うつ状態では外出や人との交流が減り、社会的孤立が進むことで認知的刺激が減少し、さらに認知症リスクが高まる可能性がある。
Q. プロサッカー選手は認知症になりやすいというのは本当ですか?
データによると、サッカー選手は一般人口と比較して認知症リスクが約3.5倍高いという研究結果がある。特にディフェンダーなど、ヘディングの回数が多いポジションでリスクが高い傾向がみられる。
ヘディングによる小さな衝撃が繰り返し脳に加わることで、長期的には脳にダメージが蓄積すると考えられている。これを受けて、一部の国や地域では子どものヘディングを禁止する動きもある。
Q. 認知症リスクを下げるために今からできることは何ですか?
運動習慣をつけることが重要だ。どの種類の運動が最適かというよりも、自分が続けられる頻度と種類の運動を選ぶことが大切。「理想が高すぎると続かない」ため、現実的に生活に溶け込ませられる範囲で運動を取り入れるべきだ。
知的刺激も重要な要素だ。社会人になってからも勉強を続けることで、脳に刺激を与え続けることができる。仕事だけでは「慣れ」が生じて頭をあまり使わなくなることもあるため、仕事外での知的活動が大切だ。
また、家の換気をこまめに行うことも有効。特に料理後の室内は大気汚染レベルが非常に高くなるため、寒い時期でも換気を心がけるべきだ。
現在の医学的知見では、認知症全体の約45%は予防可能と考えられている。つまり、個人レベルでは自分の選択次第で認知症リスクを少なくとも半分に減らせる可能性があるのだ。
Q. 認知症の疑いがある場合、まず何をすべきですか?
インターネットで自己診断するのではなく、まずはかかりつけ医に相談することが最初のステップだ。専門的には老年医学科や神経内科、「物忘れ外来」や「認知症外来」などの専門窓口も相談先として適している。
診断プロセスで最も重要なのは、画像検査ではなく「患者のストーリー」だ。いつから、どのような症状が、どう変化してきたかという詳細な経過を丁寧に聞き取ることが、正確な診断の鍵となる。
例えば、認知症と思われていた症例が、実は両耳の耳垢詰まりが原因だったというケースもある。耳の聴こえが悪くなると情報が脳に届きにくくなり、会話の辻褄が合わなくなることがある。こうした原因を見逃さないためにも、専門家による丁寧な診察が必要だ。
Q. 認知症と診断された場合、本人に伝えるべきですか?
基本的には本人に伝える必要がある。医療はチームで行うものであり、本人も家族も医師も一体となって同じ方向を向いて準備していくことが大切だ。
認知症になる人が多いということは、不安を持つ人も多いということ。そしてそれを狙ったビジネスも多く存在する。正確な情報と適切な対応のためにも、オープンなコミュニケーションが重要だ。
