
米国大統領選と存亡の危機【エミン・ユルマズ】
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2024年9月2日
地政学リスクが高まる中で、世界と日本のマーケットはどう動くのか?大統領選の分析を含めて、米国と日本の経済・マーケットをエコノミストのエミン・ユルマズ氏に展望してもらった。 <ゲスト> エミン・ユルマズ|エコノミスト トルコ・イスタンブール出身。16歳で国際生物学オリンピックの世界チャンピオンに。1...
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アメリカ大統領選挙は資本主義の分岐点になる - エコノミストが語る地政学リスクと市場展望
「もうアメリカは存亡の危機に引っかかっている。ここまで格差が広がると...」エコノミストのエミン・ユルマズ氏は現在のアメリカ経済の状況をこう評する。米国大統領選挙はただの政権交代以上の意味を持つという。今回は地政学リスクと今後の市場展望について、エコノミストの視点から解説する。

Q. 現在の地政学リスクで最も注目すべき点は何ですか?
今の地政学リスクで特に注目すべきは、ウクライナとロシアの戦争が新局面を迎えていることだ。ウクライナがロシアのクルスク地方に侵攻し、戦争が新たな段階にエスカレーションしている。また、イスラエルとハマスの衝突も継続中で、停戦交渉は進行中だが結果はまだ出ていない。
中国との関係は現在比較的静かだが、これらの主要な地政学的アクター(ロシア、中国、イスラエル、ヨーロッパなど)にとって、次の米国大統領が誰になるかは国益に直結する重大問題だ。そのため、これらの国々は米国選挙に影響を与えようと様々な動きをしている。
日本の観点からすると、トランプかハリスかによる影響は比較的小さい。日米同盟関係の継続や太平洋戦略の基本方針は変わらないだろう。ただし、TPPとの関係や、トランプが主張する追加関税などの貿易政策では影響があるかもしれない。
Q. ウクライナ戦争に対する米大統領選の影響はどのようなものですか?
ウクライナ戦争に関しては、トランプが当選した場合の影響が最も大きい。トランプはウクライナへの支援停止を公言している。ロシアがウクライナの侵攻に対して強い反応を示していないのは、トランプ当選によってウクライナ支援が減少し、ロシアが有利になると期待している可能性がある。
これは民主主義国家と権威主義国家の違いも表している。ロシアや中国といった権威主義国家では政権交代がなく、同じ指導者が長期的な戦略を続けることができる。一方、アメリカや日本のような民主主義国家は定期的な選挙があり、政策の継続性に影響が出ることがある。
トランプが当選して実際に支援を停止すれば、ヨーロッパ諸国は自らの防衛力強化に向かう可能性がある。これは対ロシア軸でヨーロッパが再軍備することを意味し、世界情勢を大きく変える可能性がある。日本も同様の道を歩む可能性がある。
Q. トランプ主義は今後のアメリカ政治にどのような影響を与えますか?
今回の選挙はトランプ主義(MAGA: Make America Great Again)がアメリカで今後も続くかどうかに大きな影響を与える。トランプ主義は共和党内で大きな力を持っているが、トランプが今回の選挙で敗北すれば、この思想は衰退していく可能性が高い。
一方、トランプが勝利すれば、この思想は次の世代にバトンタッチされ、J.D.ヴァンスのようなトランプ主義的な政治家がさらに力を持つことになる。イーロン・マスクなどシリコンバレーの富豪たちもトランプを支持している。
この選挙はアメリカの今後10年、20年にわたる政治思想の方向性を決める可能性がある。単にトランプが当選するかどうかだけでなく、アメリカの長期的な政治思想の流れを左右する重要な分岐点だ。
Q. アメリカの経済思想はどのような岐路に立っていますか?
現在のアメリカは経済思想の大きな転換点に立っている。レーガン時代から約40年続いてきたトリクルダウン経済(供給側経済学)は大失敗だったと言える。この政策により、アメリカの中間層は破壊され、格差が大きく広がった。1970年代には企業の経営者の給料は平均社員の15〜20倍だったが、現在は200〜300倍になっている。
これに対する反発として、バーニー・サンダースのような社会保障を手厚くし、中間所得層や低所得層を守る政策を提唱する人々が登場している。ハリス陣営のマニフェストでも「中間層」を強調している。
アメリカは1929年の大恐慌後のルーズベルト政権のように、より左派的な政策、つまり需要側経済への転換が必要かもしれない。一方、アメリカの大富豪や超富裕層はこの変化に危機感を抱いており、それがトランプ支持の一因になっている。
Q. 資本主義の現状についてどう評価していますか?
現在のアメリカが実践しているのは本当の意味での資本主義ではない。本来の資本主義では失敗した企業は放置され、潰れるべきだ。しかし現実には、貧しい人々には厳格な資本主義を適用する一方で、富裕層や大企業には社会主義的な救済を行っている。
大企業や銀行は利益を上げている時は国民と分かち合わず、内部留保もせずに自社株買いに使い、失敗した時は政府による救済を求める。これはレーガン時代に解禁された自社株買いが企業の設備投資を減らし、内部留保を妨げる結果となっている。
現在の資本主義に最も近いのは意外にも中国だ。中国は企業救済をあまり行わず、失敗した企業は潰している。日本やアメリカ、ヨーロッパとは異なり、本来の資本主義的な態度を取っているのは皮肉な状況だ。
Q. 次の米大統領選挙の見通しはどうですか?
歴史的に見ると、選挙の半年前までに景気後退に突入していない限り、現職の大統領(または与党)が選挙で負けることはほとんどない。バイデン大統領は健康状態に問題があり人気も低かったが、ハリスに交代したことでその問題が解消され、民主党に優位性が戻った。
有権者の経済に対する見方は選挙の約半年前に固まると言われており、その時点で景気が後退していると現職は負ける傾向がある。しかし、直前の景気後退はあまり選挙結果に影響しない。
現在のアメリカ経済は景気後退の懸念はあるものの、まだ実際に後退していない。株価は高く、失業率も4.3%と歴史的に低い水準を維持している。個人消費も崩れていない。選挙まで3ヶ月を切った現時点では、ハリスが有利な状況にある。
ただし、女性候補者に対するアメリカ社会の抵抗感や、選挙直前に起こりうる様々な出来事が結果を左右する可能性はある。
Q. AIバブルと米国マーケットの関係はどうなっていますか?
AIバブルはまだ崩壊していない。NVIDIAなどの株価は一時的に下落しても回復している。しかし、これほど時価総額の大きい企業が短期間に激しく値動きすることは異常だ。これは通常では考えられない動きであり、ミーム株のように投機的に動いている。
相場内に相当なレバレッジが蓄積されており、個人投資家のパニック売りも起こりやすい状態だ。ウォーレン・バフェットやジョージ・ソロスといった著名投資家がテクノロジー株を売却し、現金比率を高めているのも、市場の割高感を示している。
一方、債券市場はアメリカ経済の景気後退を織り込んでいる。10年金利と2年金利の逆転が解消されたことは、景気後退が近づいている可能性を示唆している。株式市場と債券市場の見方には大きな乖離がある。
Q. 米国の景気後退はいつ来ると予想されますか?
景気先行指数は2年以上悪化し続けているにもかかわらず、個人消費が崩れていないという異常な状況が続いている。これはコロナ禍のばら撒き政策による余剰資金の効果かもしれないが、その効果もそろそろ限界に近づいている。
アメリカ人はクレジットカードで消費を続けており、借金が膨らんでいる状態だ。この状況が継続するのは雇用が安定している間だけで、失業率が上昇すれば一気に崩れる可能性がある。現在の失業率は4.3%だが、これが5%を超えると景気後退の可能性が高まる。
雇用統計の数字は見た目は強いが、内容を見ると正規雇用が減少し、パートタイムや公的雇用が増加しているなど、実態は弱い。バイデン政権は選挙に向けて雇用統計の印象操作を行っている可能性もある。
FRBは9月に少なくとも0.25%の利下げを実施すると予想される。これは景気悪化の兆候を受けたものだが、既に遅すぎるかもしれない。
