
前編:成田悠輔と考える、グローバルサウス
グローバルサウス:日本企業が捉えるべき未来のビジネスフロンティア
現代ビジネスにおいて、「グローバルサウス」という言葉が急速に注目を集めている。これは単なる途上国の総称ではなく、経済成長の「最後のフロンティア」や地政学的な要衝としての多角的な意味合いを持つ概念だ。本記事では、このグローバルサウスが日本企業にもたらす潜在的なチャンスと、それに伴う複雑な課題について、識者の見解を交えながら深掘りする。
2050年には世界人口の約3分の2がグローバルサウス地域に居住すると予測され、特にアフリカ大陸はその後の人口増加を牽引する唯一の地域として注目される。しかし、その巨大な成長可能性は、雇用創出といった社会課題の解決なくしては持続可能ではない。このような複合的な背景を持つグローバルサウスに対し、日本企業はどのように向き合い、新たなビジネス機会を創出していくべきなのだろうか。戦略、リスク、現場主義という3つのキーワードを中心に考察していく。
Q. グローバルサウスとは具体的にどのような地域を指すのか?
グローバルサウスは、アジア、アフリカ、中南米など新興国や発展途上国を指す総称である。しかしその定義は曖昧であり、非常に多様な国々を含んでいる点が特徴である。例えば、インド、ブラジル、インドネシア、エチオピア、ナイジェリアといった人口大国が含まれ、それぞれが異なる経済状況、文化、政治体制を持つ。
この言葉はもともとベトナム戦争時代に生まれ、冷戦後のソ連崩壊を経て再注目された。特に近年は、ウクライナ危機を背景に、欧米諸国の経済制裁に対し中立的な立場をとる国々を指す地政学的な意味合いが強まっている。そのため、一括りにしてビジネス戦略を考えることは難しいのが実態だ。
インドネシア
フィリピン
バングラデシュ
モルディブ
ナミビア
ケニア
インド
ブラジル
エチオピア
ナイジェリア
Q. グローバルサウスの経済的・人口的なポテンシャルはどれほどか?
グローバルサウスの経済的・人口的影響力は急速に増大している。IMFの予測では、2050年までにこの地域の経済規模は米国、中国を上回る可能性がある。さらに、人口面では2050年には世界全体の3分の2がグローバルサウスに住むようになると予想される。
特にアフリカ大陸は、2050年以降も人口が伸び続ける唯一の地域とされ、その真の「アフリカの時代」は2050年以降に訪れるとの見方がある。しかしこの人口ボーナスは、若い世代への雇用創出が実現されなければ社会不安の要因となる「人口オーナス」に転化するリスクを抱えている。
Q. 日本企業がグローバルサウスで成功するために必要な戦略とは何か?
JT会長の岩井氏は、日本企業がグローバルサウスで成功するには以下の3つが不可欠であると指摘する。
明確な戦略:
個々の企業がグローバルサウス全体ではなく、特定の国や地域に対してどのような目的で進出し、いかなる貢献を目指すのかを明確にする必要がある。現地での事業展開を通じて日本国内の過疎地の課題解決に繋がる気づきを得る可能性も秘めている。
計算されたリスクテイク:
グローバルサウスでのビジネスは機会だけでなく、政治的・経済的なリスクも大きい。日本企業はリスク分析に時間をかけすぎ、投資をためらう傾向があるが、最悪のリスクを想定した上で、リーダーが戦略的にリスクを取る決断が求められる。
徹底した現場主義:
日本の経営トップは、本社工場だけでなく、フロンティアであるグローバルサウスの現場に自ら足を運び、機会とリスクを肌で感じることが重要である。現地でしか得られない洞察が、机上の分析を超えた的確な意思決定を可能にする。
たとえ短期的に利益が出なくても、長期的な成長を見込んで「今、投資しておく」という発想が特にアフリカのような地域では不可欠となる。
Q. 社会課題の解決は、ビジネスチャンスにどう結びつくのか?
グローバルサウスでは、多くの地域で貧困やインフラ不足など、解決すべき社会課題が山積している。しかし、これらの課題こそが巨大なビジネスチャンスを生み出す源泉となり得る。
ガーナで農業ビジネスを展開するデガスCEOの牧浦氏の事例はその好例である。アフリカの6億人もの小規模農家に対し、テクノロジーを活用して肥料や種子の融資、営農指導、与信判断までを行うことで、彼らの生産性を劇的に向上させている。これは単なる寄付ではなく、持続可能なビジネスモデルとして社会課題の解決と経済成長を両立させるアプローチと言える。
日本の大企業でも同様の事例がある。ヤマハ発動機は漁業者の命に関わる高品質な船外機を供給し、現地に根差した修理網を構築することで長年の信頼を築いてきた。味の素も、ガーナで乳幼児の栄養改善という社会課題に取り組むため、現地政府やNGOと連携し、ビジネスモデルとしての実現性を探っている。これらの事例は、ビジネスを通じて社会課題を解決する「ソーシャルビジネス」がグローバルサウスで大きな可能性を持つことを示している。
Q. なぜ日本人によるスタートアップの成功事例は少ないのか?
アフリカにおいて、日本人起業家による大規模なスタートアップの成功事例はまだ少ないのが現状だ。これは、例えば米国でのザッカーバーグやマスク、日本での孫正義や柳井正といった「ロールモデル」が存在しないことが大きな要因である。
小規模なビジネスやソーシャルビジネスで地道に成功している日本人はいるものの、巨額の資金を調達し指数関数的な成長を目指す「スタートアップ」の気運は、残念ながら日本人起業家の間ではまだ醸成されていない。
現地でも、天然資源関連の旧来型富豪を除けば、ITなどを活用して一代で莫大な富を築いた「アフリカンドリーム」の象徴はまだほとんどいない。アフリカのスタートアップエコシステムは黎明期であり、ユニコーン企業が数社誕生しつつあるものの、全体としては市場整備や資金流入がこれから加速する段階にあると言える。
Q. 日本はグローバルサウスとの関係構築で、どのような役割を果たすべきか?
グローバルサウスは多様性に富み、政治、経済、社会といった複数の側面から理解する必要がある。この複雑な地域と向き合うためには、個々の企業努力だけでなく、官民連携による「オールジャパン」でのアプローチが不可欠である。
日本は、これまで培ってきた技術力、品質、そして信頼性といった強みを活かし、「困った時には日本に頼りたい」と現地国から思われるような、代替不可能なパートナーシップを構築すべきである。単純な経済的利益追求にとどまらず、グローバルサウスの健全な成長に貢献するという大局的な視点を持つことが、日本全体のプレゼンス向上にも繋がるだろう。
また、国連などが主導する開発協力だけでなく、インパクトファンドのような新しい資金メカニズムを通じて、現地の社会課題解決型ビジネスを支援することも、日本の果たすべき重要な役割となる。
