
後編:成田悠輔と考える、グローバルサウス
グローバルサウスを攻略せよ:日本が世界で勝つための戦略
世界経済の新たな牽引役として注目される「グローバルサウス」。しかし、その実態は多岐にわたり、一筋縄ではいかない。日本がこの巨大な地域で持続可能な成功を収めるためには、どのような戦略と心構えが必要か。本稿では、激変する国際情勢の中で、気候変動やAI技術、人的交流から、日本政府に求められる大胆な投資戦略まで、多角的な視点からグローバルサウス攻略の鍵を探求し、日本が果たすべき役割とチャンスを深掘りする。
Q. グローバルサウスを理解する上で、まず何が重要か?
「グローバルサウス」は単一のまとまった地域ではない。アフリカ、アジア、中南米に広がる多数の国々から成り立ち、それぞれが異なる文化、歴史、経済状況、そして固有の社会課題を抱えている。この多様性を認識し、国や地域を一括りにせず、個別の視点で深く理解することが最も重要だ。現場に赴き、それぞれの固有課題に「どっぷり浸かって」解決策を共に考える姿勢こそ、成功への第一歩となる。
同じ気候変動対策を例にとっても、産業発展に伴うCO2排出量削減が急務の国もあれば、干ばつや異常気象による食料生産への影響といった適応策が喫緊の課題の国もある。課題の性質が根本的に異なるため、その国・地域の実情に合わせたテーラーメイドなアプローチが求められる。
Q. 多様なグローバルサウス諸国と信頼関係を築くための日本の強みとは何か?
グローバルサウス諸国は、ビジネスパートナーとして中国、インド、欧米など複数の国々を比較検討している。中国がスピードと資金力でインフラ建設を進める一方で、日本は慎重な姿勢が「信頼」につながるという強みを持っている。植民地支配の歴史を持たず、中立的な立場を保てることは、上から目線ではなく、現地の関係者と共に汗を流し、人材を育成するという日本ならではのアプローチを可能にする。
長期的な視点で信頼を築くことは、一過性のビジネス関係を超え、困難な状況下でも「この時こそ日本と組みたい」と選ばれる強固な絆を生み出す。現地の指導者やコミュニティと地道な対話を重ね、協働を進めることが、日本のユニークな強みとなりうる。多国籍なチームで協働できる現地パートナーを見つけ、共に育っていく姿勢が重要だ。
Q. アフリカが世界の脱炭素化において重要な役割を果たすのはなぜか?
アフリカは世界の温室効果ガス排出量のうち、わずか3.8%しか寄与しないが、気候変動による干ばつや異常降水など最も深刻な影響を受ける地域である。この「不都合な真実」がある一方で、アフリカは世界の未開拓耕作地の6割を有しており、広大な土地が二酸化炭素の吸収・隔離・除去の巨大なポテンシャルを秘める。
欧米の投資家たちは、飽和しつつある他の地域の森林マーケットからアフリカへ目を向けている。リジェネラティブ農業のようなサステナブルな農法や植林プロジェクトをアフリカで展開すれば、世界最大の二酸化炭素隔離地となりうるのだ。ここに日本がAI技術などの得意分野を通じて大きく貢献し、地球規模の脱炭素化を推進する機会が潜んでいる。
Q. AI技術は途上国開発や気候変動対策にどう貢献しうるか?
AIは、インフラが未整備で識字率が低い途上国の課題を解決する強力なツールとなりうる。アフリカの多くの農家は小学校にすら通えず、文字を読むことや最新の情報にアクセスすることが困難だ。しかし、彼らに適したテクノロジーを活用すれば状況は一変する。
具体的な活用事例として、現地の農地の状況(水分量、農作物の種類など)を入力するだけで、瞬時に最適なサステナブル農業のやり方や見込み収穫量、さらには二酸化炭素の隔離量を提示する大規模言語モデルの開発が進められている。識字率の壁をAIが超え、農家に直接的な情報提供を可能にすることで、持続可能な農法の普及を加速させ、気候変動対策にも大きく貢献できる。AIは途上国の未来を大きく変えるポテンシャルを秘める。
Q. インドのデジタル革命がもたらすビジネスチャンスの具体例とは何か?
人口世界一のインドの最大の強みは、国民の99%が登録する生体認証システム「アドハー」と、QRコード決済を含むデジタルインフラの統合にある。このアドハーは、マイナンバーのようなもので、政府の補助金給付から銀行取引、農業資材の購入まで、あらゆる公共サービスや商取引の基盤を担う。統一されたデジタルIDと決済システムが、他国を飛び越える「リープフロッグ」型の経済発展を可能にする。
このインフラ基盤の上では、医療、農業、保険といった幅広い分野で革新的なサービスが生まれる巨大なビジネスチャンスが広がる。中間所得層が今後も大きく拡大していくことを考慮すると、インド市場は日本企業にとって計り知れない成長機会を提供する。多州多様な文化や慣習を理解し、その上で戦略的な投資を行う必要はあるものの、中国からのサプライチェーン分散(デリスキング)の流れも加わり、インドは今最も注目すべき市場の一つだ。
Q. 日本人がグローバルサウスへ積極的に関わるために必要な意識改革とは何か?
日本の現状を顧みると、「言いたいことが言えない」「リスクを取って行動しない」という国民性が課題となっている。成田悠輔氏のような特定の論客だけが本音を語り、それが注目される社会は、裏を返せば、多くの人々が自分の意見を表現するのを躊躇している証左だ。SNSを通じてさえも行動につながるムーブメントが少ない点は、米国のBLM運動などとは対照的である。
日本はまだ経済的に豊かで生活のクオリティも高いため、海外の困難な環境へ自ら飛び込みリスクを取る「合理的なインセンティブ」が希薄だ。「この国でそこそこやる」という短期的な効率性を優先する傾向が強い。しかし、本当の危機が訪れる前に、自らの強い使命感や原体験に駆られて、言葉だけでなく行動で困難な課題に挑戦する「フロンティア精神」をどう育むかが、日本社会全体の活力を取り戻し、グローバルサウスでのチャンスを掴む上で極めて重要となる。
Q. グローバルサウスにおける日本の官民連携と、政府に求められる役割は何か?
グローバルサウス攻略には、個々の企業や一産業の力だけでは限界がある。中国のように官民が一体となった強力な国家戦略が必要だ。「官は官、民は民」という日本にありがちな縦割り意識を排し、癒着を恐れずに政府が民間の活動を大胆に支援する体制を構築しなければならない。省庁の垣根を越え、「日本全体としてこの国に貢献する」という共通の絵姿を描き、それを実行に移すことが求められる。
特に、気候変動やAIのような世界的課題には、ドラスティックな資金投下が必要だ。米国のインフレ抑制法(IRA)がEV産業に巨額の補助金を投じたように、日本政府も「気候変動、AI、グローバルサウス」の分野に100兆円規模の補助金投資を行う覚悟が求められる。これは日本が世界の主導権を握るための長期的な産業政策であり、国際会議の場を戦略的な政策表明に活用する視点も重要である。政府が長期的な視点でリーダーシップを発揮し、具体的なロードマップを示すことが、日本企業の海外展開を強力に後押しするだろう。
Q. 21世紀の日本は、歴史の転換期をどう乗り越えるか?
21世紀は、かつて天然資源に恵まれながらも経済発展が遅れたグローバルサウスが、再び世界の中心となる「幸運の逆転の再逆転」ともいえる歴史的な転換点にいる。日本は国内の短期的なトレンドに囚われず、地球規模で起きているこの巨大な地殻変動を直視しなければならない。
この歴史的潮流をチャンスに変えるためには、内向きな思考を脱却し、ビジネス、政策、そして個人の行動を世界規模の視点で方向付ける必要がある。自らの使命感に駆られ、合理性を超えて困難な課題に挑戦するフロンティア精神を喚起し、政府はそれを後押しする国家戦略を大胆に実行することが不可欠だ。日本全体が一体となり、このグローバルな変化の波に能動的に乗り出すことこそ、日本が再び世界の舞台で輝くための唯一の道である。
