
写真で見る、中国・不良債権インフラのリアル
空から暴く中国「不良債権インフラ」の深淵:僻地のゴーストタウンと破綻する開発モデル
中国の不動産市場が深刻な低迷を続ける中、衛星画像を通じて地上を見下ろすと、異様な光景が広がっている。
何もない荒野や農村の周縁部に突如として林立する数十棟の高層マンション群、人影のない巨大卸売市場、そして利用客が途絶えた新幹線の巨大駅である。
かつて中国の驚異的な経済成長を牽引したインフラ投資は、いまや各地で解消不能な「陸の孤島」を生み出し、巨額の不良債権へと変貌している。
既存市街地を避けて更地を開発し続ける構造的理由や、習近平指導部が主導する巨大国家プロジェクトの裏側、そして拡大モデルの限界について現地取材を重ねたジャーナリストの視点から解き明かす。

Q. 中国の地方都市ではなぜ需要のない僻地に巨大団地やハコモノが乱立するのか?
地方政府の官僚にとって、目に見えるハコモノの建設は手っ取り早くGDPを押し上げ、自身の政治的業績を誇示するための最も簡便な手段である。
貴州省貴陽市の事例では、市の中心部からバスで2時間近くかかる山奥の荒れ地に、大手デベロッパーの碧桂園が数十棟もの高層マンション群を造成した。
夜間に点灯するのはエレベーターホールばかりで居住区画の窓にはほとんど明かりが灯らず、実態は完全なゴーストタウンと化している。
敷地に隣接して幕張メッセ数十個分に匹敵する巨大な卸売市場も建設されたが、内部は店舗が入らず倉庫代わりに使われるなど閑古鳥が鳴いている。
既存市街地の再開発は住民の立ち退き補償費が高騰するため、地方自治体は手っ取り早く安価に収用できる郊外の農村部や更地を選定して開発を進めてきた。
さらに中国の都市住宅は周囲を壁で囲んだ「ゲーテッドコミュニティ」が主流であり、外界から隔離された構造を持つ。
公共交通が通らない僻地では自家用車がなければ生活が成り立たないが、内陸部の低所得層には車を購入する余裕がなく、結果として住民が定着しない負の連鎖に陥っている。

Q. 世界最大の未完成建築とされる「高銀117」の周辺ではどのような歪みが生じているのか?
天津市に位置する超高層ビル「高銀117」は、デベロッパーの資金ショートにより10年以上も外壁のない雨ざらしの状態で建設が中断されてきた。
ビルの周囲には高級マンションや低層の戸建て住宅街、さらにはポロ競技場まで整備されたが、買い手は住宅ローンを払い続けながら未完成のまま放置され、泣き寝入りを強いられている。
近年、政府主導で未完成物件を強引に完成させる号令が下り工事が再開されたものの、長年風雨に晒された躯体の安全性や、完工後に企業や住民が集まる見込みは極めて薄い。
この地域の農村部に高層ビルを林立させる背景には、習近平政権が掲げる「18億ムー(約1.2億ヘクタール)の耕地死守」という食糧安全保障のノルマが存在する。
無制限に農地を潰せないため、地方政府は農民が住む平屋の集落を取り壊して高層団地に住民を集約し、空いた敷地を畑として開墾し直す帳尻合わせを行っている。
庭で家畜を飼育していた農民側との補償トラブルが頻発しながらも、規制逃れのために農村の真ん中に不釣り合いな高層ビル群が誕生するという歪な開発構造が定着している。

Q. ドル箱路線であるはずの高速鉄道の駅がなぜ機能不全に陥っているのか?
北京と上海を結ぶ中国屈指の幹線上にある山東省の「徳州東駅」は、何本ものプラットホームを備えた巨大で壮麗な駅舎を誇る。
しかし一歩駅の外に出ると、客待ちのタクシーや路線バスは皆無で、配車アプリすら圏外となり移動手段が途絶する地獄のような環境が広がる。
中国の新幹線駅は、用地買収費の抑制と迅速な工期達成を最優先するため、既存の市街地から極端に離れた郊外の農地に建設されるケースが極めて多い。
新幹線に乗れば北京まで短時間で到着できるにもかかわらず、在来市街地から駅へ辿り着くまでに同等以上の時間を要するという本末転倒な事態が生じている。
駅周辺には「ハイテク開発区」として広大な用地が確保されたが、企業誘致は進まず敷地内には雑草が生い茂る更地や田んぼが広がっている。
中国のインフラ開発は、ソフトウェアのように「まず形を作り、利便性は後から考える」という思想で高速施工される傾向が強い。
その結果、接続する二次交通網の整備が後回しにされ、全国各地に1日の乗降客数が極少のまま放置されたり閉鎖に追い込まれたりする巨大駅が続出している。
Q. 習近平総書記が主導する「雄安新区」は従来の都市開発と何が異なるのか?

北京、天津、河北省の中間に位置する雄安新区は、「国家の大計、千年の都」というスローガンのもと、湿地と農村だった更地にゼロから30万人規模の都市を造成する国家プロジェクトである。
通常の都市計画は需要に応じて段階的に拡張していくが、雄安新区では病院から街角のコンビニの位置に至るまで細部を事前に決定し、都市全体を一挙に完成させてから住民を招く手法をとる。
計画開始から10年以上が経過してもなお広大な造成工事が続いており、初期に完成した建造物が人が住まないまま老朽化していく懸念を抱えている。
中国の強みは、同一設計の団地を数十棟単位でまとめ造りする徹底的な標準化によって、世界最速かつ最安で街を出現させる施工力にある。
すでに10面以上のホームを持つ超巨大高速鉄道駅が完成しているものの、現時点での利用客はほぼ皆無に近い。
都市を稼働させるため北京の主要大学の移転が計画されているが、不便な陸の孤島への移転を嫌う学内では、政治的発言権の弱い文系学部が優先的に追いやられるといった激しい権力闘争が巻き起こっている。

Q. かつて機能した「インフラ先行逃げ切り型」のモデルはなぜ終焉を迎えたのか?
中国の開発手法がすべて無謀だったわけではなく、過去には成功事例も確実に存在した。
浙江省杭州市のように、当初はゴーストタウンと揶揄された未開の僻地であっても、急速な経済成長と猛烈な地下鉄網の延伸が追いつくことで、10年から20年かけて巨大経済都市へ結実した歴史がある。
「まず箱モノを造り、後から交通インフラを結べば街になる」という過去の成功体験が、地方政府の無謀な拡大路線を正当化し続けてきた。
しかし現在、地方政府の深刻な財政難によって地下鉄や道路を郊外へ延伸する資金は完全に枯渇している。
交通接続の見込みが永久に絶たれた結果、建設途中のまま放置された陸の孤島が不良債権として固定化する事態となった。
官僚の責任回避のために無価値な未完成物件へ追加投資が続けられる一方で、雲南省昆明市のように放置された15棟の高層マンション群を一挙に爆破処理する極端な事例も現れている。
中心部の高密度な優良立地と、再生不能な僻地の不良資産を峻別して見極める視点こそが、中国不動産危機の行方を正確に捉える鍵となる。
