育児期にキャリアが伸びる人停滞する人

子育て中でもキャリアアップすることは可能か?まずは「キャリア」という言葉の定義から始め、自分はどのゲームで戦うか認識する必要があるという。Xbet経営者であり、パパママ向けキャリア支援を行う濱上翔氏に聞いた。 <ゲスト> 濱上翔|Xbet CEO 2012年「リクルートコミュニケーションズ」入社、...
子育て中に年収が伸びる人・止まる人の分岐点:キャリア資本と「時給思考」で両立を勝ち抜く戦略
子育てとキャリアの両立に悩むビジネスパーソンは多い。
育児期に入ると労働時間が制約され、昇進の道を諦めたり、未経験のバックオフィスへ安易にキャリアチェンジして年収を下げてしまったりするケースが後を絶たない。
しかし、キャリアを適切に分解し、これまで蓄積してきた「キャリア資本」を正しく活かせば、子育て期であっても市場価値と年収を伸ばし続けることは十分に可能だ。
本稿では、キャリアの専門家が提唱する「3つのゲーム理論」や「時給思考」、夫婦間での合意形成術、そして働き方の裁量権を自ら握る「ワークライフオーナーシップ」の全容を解き明かす。

Q. キャリアを考える上で、なぜ年収・昇進・自己実現の「3つのゲーム」に分類して捉える必要があるのか?
多くの人が「キャリアアップ」を一括りに捉え、年収の向上ばかりを追い求めて迷走してしまう。
だが、キャリアとは性質のまったく異なる3つのゲームで構成されている。
第一が市場価値と利益構造によって規定される「年収ゲーム」だ。
同じ成果を挙げても、どの業界や企業で戦うかという「場所」によって報酬水準は劇的に変化する。
第二が組織内の限られたポストを争う「昇進ゲーム」である。
これはポストの空き状況や評価者の主観、タイミングに左右される椅子取りゲームであり、突発的な事態への対応や長時間の拘束を強いられやすい。
そのため、物理的な時間の融通が利かない育児期とは極めて相性が悪い。
第三が自分自身の主観的な幸福を基準にする「自己実現ゲーム」だ。
これは他者との相対比較ではなく、「どんな親でありたいか」「心安らかに働けているか」という自己満足の基準を自ら定義するゲームである。
育児期に突入した際は、自分がどのゲームをプレーしているのかを自覚することが不可欠だ。
相性の悪い昇進ゲームからは戦略的に降りるか時期を遅らせ、主観的な満足度を高める自己実現や、時間あたりの価値を高める年収ゲームに集中することが賢明な判断となる。
Q. 育児期に年収を維持・向上させるための「時給思考」と職種選びの要諦とは何か?

子育て期において年収総額だけを追い求めると、労働時間の制約から必ず行き詰まる。
必要なのは、総額ではなく時間あたりの価値を引き上げる「時給思考」への転換だ。
たとえば世帯年収2000万円を目指し、片方が年収1000万円を稼ぎ出す場合、手取りは約730万円となる。
これを標準的な労働時間で割り戻すと、実質的な手取り時給は約3800円、額面時給では約5000円に相当する。
副業案件や市場相場をリサーチし、自身が時給5000円相当の価値を1時間で生み出せるかを逆算して確認することが第一歩となる。
時給を決定づける原資は、これまでに投じた時間と努力によって培われた「キャリア資本」である。
最も避けるべき失敗は、育児と両立しやすいからといって、過去の知見や信用が一切通用しない未経験職種へ安易に移ることだ。
資本が活かせない領域へ行けば、生産性が落ちて時給は激減してしまう。
重要なのは、顧客都合に振り回されがちな新規開拓営業から、日程調整がしやすいカスタマーサクセスや営業企画へ移行するように、既存の強みを転用しながら自分の裁量で時間を動かせる隣接領域へシフトすることだ。
Q. 世帯年収の目標を設定する際、夫婦間の軋轢を防ぐにはどのようなアプローチをとるべきか?
高収入を目指す夫婦が陥りがちな罠が、際限のない年収追求によって家庭崩壊を招く事態だ。
この問題を整理する上で、組織論の名著であるハーズバーグの「二要因理論」が極めて有効なフレームワークとなる。
人間の満足感には、不足すると不満を引き起こすが満たされても幸福感が持続しない「衛生要因(不満要因)」と、やりがいや成長実感を高める「動機付け要因(満足要因)」の2つが存在する。
家庭における世帯年収はまさに衛生要因に該当し、家族の理念やビジョン、共に過ごす時間こそが満足要因に当たる。
夫婦の軋轢を防ぐためには、まず不満要因を解消する最低限の世帯年収ライン(たとえば1500万円など)をあらかじめ数値として合意することが重要だ。
そのラインを下回っている間は夫婦で協力して年収向上を狙うべきだが、基準を達成した後は、無理な年収アップを追うのをやめなければならない。
年収が上がるほど業務の難易度や拘束時間は増大するため、家族の価値観や時間を毀損して稼ぎを増やしても、家庭全体の幸福度は決して上がらない。
不満を消した後は、家族としての満足要因を最大化するフェーズへ移行することが鉄則である。
Q. 子育て期に年収が伸びる人と止まる人を決定づける本質的な差はどこにあるのか?

育児期に年収の伸びが止まる原因は、働く時間の制約にあるのであって、本人の能力や市場価値が後退したわけではない。
過去に蓄積したキャリア資本は、労働時間が短くなったからといって消滅したりゼロになったりしない。
ここで明暗を分けるのは、子供を持つ前の段階で「2度目の成長カーブ」を経験していたかどうかである。
入社後1〜2年は誰もが新しい業務に挑戦して急激な成長カーブを描くが、3〜5年が経過すると業務に慣れて成長は停滞期を迎える。
子育て期に年収を伸ばせる人材は、20代後半などの時期に、事業拡大、昇進によるマネジメント経験、あるいは新職種への挑戦を通じて、意図的に2度目の急成長カーブを経験している。
複数の武器を持つことで、転職市場でも代替不可能な人材として高い時給を維持できるのだ。
また、2度目のカーブを立ち上げる手段としては「社内異動」が最も費用対効果が高い。
異業種・異職種への転職は未経験扱いで年収を落とされがちだが、社内異動であれば現行の給与水準や社内人脈という資本を維持したまま、ノーリスクで新たな専門性を獲得できる。
人生全体を見据え、資本を集中投下する時期と家庭を優先する時期のメリハリをつけることが肝要となる。
Q. 育児期の疲弊を防ぐ「ワークライフオーナーシップ」の5つのコントロール権とは何か?

単に仕事と生活のバランスを取る受動的な姿勢から脱却し、境界線の裁量権を自ら握る「ワークライフオーナーシップ」の確立が不可欠である。
米パデュー大学のエレン・コスセック教授が提唱するバウンダリーコントロール理論では、仕事と私生活の境界線を管理する5つの要素が提示されている。
第1がいつ働き終えるかを決める「時間」、第2が自宅やオフィスを自由に選択する「場所」である。
第3は「仕事量」であり、業務の難易度を下げるのではなく、抱えるプロジェクト数を5件から3件に絞るといった絶対量の調整を指す。
第4は長期休暇や復帰のタイミングを自ら主導する「継続性」だ。
そして第5が、休日に仕事の連絡を遮断するなど、私生活への侵食を防ぐ「境界の透過性」である。
これらの権利を会社と交渉し、自らの手でコントロールするための最大の武器が、過去に蓄積した圧倒的な成果とキャリア資本だ。
「この人材に辞められたら困る」「任せておけば確実に成果を出す」という社内信用があるからこそ、柔軟な働き方の交渉が成立する。
市場を熟知した第三者に自らの希少性を客観的に評価してもらい、確固たる資本を武器に、自分主導の働き方を実現することが求められる。