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フランス財政危機
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2026年10月24日

激化するデモの裏でフランス10年国債利回りが2002年以来となる5%台を突破。市場が恐るシナリオとは?予算案通過の条件は?エコノミストの田中理氏に話を聞いた。 <ゲスト> 田中理 | 第一ライフ資産運用経済研究所 97年慶大卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券を経て、08年クレディ・スイス...
フランス財政危機の真相と「欧州危機再来」の現実味
学生の抗議活動から始まったフランス全土のデモは暴徒化し、社会不安が急速に拡大している。
金融市場では10年国債の利回りが2002年以来となる5%台を突破し、欧州全体への波及リスクが囁かれ始めた。
現在のフランスが直面しているのは、単なる治安の悪化にとどまらない。
激化する社会不安、過去数年進んでいない財政赤字の再建、そして議会の分断による政治機能不全という3つの問題が複雑に絡み合っているのだ。
次期大統領選挙を控える中、フランス経済の現在地と「第2のギリシャ」懸念の真実を専門家の視点から解き明かす。

Q. フランス全土へ拡大した抗議デモや暴動の根底には何があるのか?
抗議の直接的な契機は、学校現場の教員不足や教育環境の劣悪化に対する学生たちの不満だった。
しかし、全国的な暴動へと発展した根本的な要因は、長引く物価高に伴う生活苦とマクロン政権に対する根深い不信感にある。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、政府は大規模なエネルギー料金補助を実施し、インフレ率をユーロ圏平均より低く抑えてきた経緯がある。
しかし、国民にとっては日々の生活が困窮している現実こそがすべてであり、隣国と比較した支援の手厚さなどは実感として伝わっていない。
特に低所得者層や年金生活者の間では、政権が富裕層ばかりを優遇し、弱者を切り捨てているという不公平感が根強く存在している。
教員不足に対する政府の対応も、国民の怒りに油を注ぐ結果となった。
政府は修士修了を要する高い教員採用ハードルを緩和し、2年間の研修を兼ねた補助教員枠を3000人新設する計画を提示した。
だが世論は、少子化を理由とした正規教員1600人の削減方針にのみ過剰に反応した。
政府の意図と国民の受け止め方の乖離が、不信感を一層増幅させている。
Q. フランスの財政赤字はどの程度深刻で、なぜ再建が進まないのか?
フランスの単年度財政赤字は対GDP比で5.4%に達しており、EUが定める財政規律基準の3%を大幅に上回っている。
さらに累積の政府債務残高は対GDP比で120%を突破する見通しであり、欧州の高債務国であるギリシャやイタリアの約140%に着実に迫りつつある。
最も深刻な本質は、コロナ禍以降の数年間において財政再建に向けた抜本的な改善がほぼ全く進んでいない点にある。
再建が進まない背景には、構造的な支出圧力の増大が存在する。

フランスは手厚い社会保障制度を持ち、高齢化と年金の物価スライド制によって自然体でも支出が膨張する仕組みになっている。
加えてウクライナ情勢や米国の要請を受けた防衛費の大幅な増額、さらには金利上昇に伴う国債利払い負担の急増が財政を激しく圧迫している。
何もしなければ赤字比率が6%台後半へ発散しかねないという極めて過酷な現実に直面しているのだ。
Q. 政府が打ち出した歳出削減案に対して、なぜ強い反発が生じているのか?
フランスは税金と社会保障負担を合わせた国民負担率が先進国の中でも極めて高い水準にある。
これ以上の増税は家計を破綻させ、マクロン政権が重視してきた企業の国際競争力回復の成果を水泡に帰す恐れがある。
そのため政府は増税ではなく、540億ユーロ規模に及ぶ各省庁の予算削減や年金支給額の抑制など、歳出削減を中心とした再建案を打ち出した。
しかし、これだけ大規模な痛みを伴う削減を強行しても、赤字比率は5.4%から5.0%へわずかに改善するにすぎない。
防衛費の増加や利払い費の増大に相殺され、国民から見れば努力に見合う明確な成果が見えにくい構造になっている。
財政難ゆえに包括的な物価高対策を打てず、公的サービスばかりが削られる現状に対し、国民は強い失望と反発を抱いている。
Q. 議会の過半数を欠く政権と、大統領選を見据える極右勢力の思惑はどう交錯しているのか?
現在の下院は中道、左派、極右の3勢力に鼎立しており、マクロン大統領を支える与党会派は過半数を持っていない。
予算案を成立させるには野党の協力が不可欠だが、歳出削減に断固反対する左派の要求を飲めば財政規律は完全に破綻してしまう。
そこで鍵を握るのが、マリーヌ・ル・ペン率いる極右の国民連合(RN)の動向である。
RNは次期大統領選の世論調査で首位を走っており、決選投票での勝利を見据えて現実的な穏健化路線を急速に進めている。
過激な言動を控え、議員の身なりや政策議論を徹底的に洗練させ、政府に代わる独自の財政再建案まで提示してみせた。
「統治能力のある責任政党」というイメージを中道層に植え付けることが彼らの狙いである。
政府が予算成立のためにRNと妥協すれば、皮肉にも極右政権誕生へのお墨付きを政府自らが与える結果になりかねない。

Q. フランスの国債利回り5%突破は「第2のギリシャ危機」を意味するのか?
市場では利回りの絶対値だけでなく、欧州の基準となる安全資産であるドイツ国債との利回り格差(スプレッド)が注視されている。
独仏のスプレッドは150ベーシスポイント(1.5%)を超えて拡大傾向にあり、市場がフランスの財政リスクを強く警戒していることは明白である。
しかし、かつて欧州債務危機でギリシャやポルトガルが自力発行を断念し支援を要請した水準は利回り7%であり、現時点で即座に調達不能に陥る段階ではない。
また、フランスをギリシャと同列に論じるのは実態に即していない。
観光業への依存度が高かった小国ギリシャとは異なり、フランスは強固な産業基盤と多様な経済の厚みを持つG7の主要大国である。
国としての稼ぐ力には根本的な隔たりがあり、即座の財政破綻シナリオを過度に懸念する必要はないと言える。
Q. 欧州中央銀行(ECB)による救済の条件と、今後の相場を左右する重要指標は何か?
欧州債務危機当時と決定的に異なるのは、市場の不当な動揺を防ぐための安全網がEU内に整っている点である。
ECBには国債買い入れの枠組みであるTPI(伝達保護措置)が存在する。
ただし、この買い支えは無条件で発動されるわけではない。
支援の前提として、EUの財政規律を遵守し過剰赤字手続き(EDP)に基づく自律的な財政再建努力を継続していることが厳格に求められる。
もし政府が再建を放棄して欧州委員会の予算審査で不適格と判定されれば、ECBは制度上国債を購入できなくなるのだ。
今後の動向を見極める上では、11月の欧州委員会による予算案の審査結果が最大の焦点となる。
ここでEUのお墨付きが得られれば市場の信認は保たれるが、否定的な評価が下されれば激しい国債売りを招く恐れがある。
あわせてムーディーズやS&Pなど格付け会社による評価の見直しにも警戒が必要だ。
格下げが現実となれば機関投資家の資金引き上げを誘発し、市場の緊張が一気に高まるリスクを孕んでいる。
