
金利上昇後の株式市場:松本大マネックスG会長
金利復活と事業再編が呼び覚ます日本の資本主義:個人が動かす新時代の成長シナリオ
長きにわたる超低金利と停滞の時代を経て、日本の資本市場は歴史的な大転換期を迎えている。
上場企業数の過多による資本の分散、形式的なガバナンス改革にとどまっていた産業界に、金利の復活という強力な市場の規律が戻りつつある。
今求められているのは、単なる資金の蓄積ではなく、付加価値を最大化する真の投資資本への転換である。
個人の意識改革から企業の事業再編、そして日経平均株価の将来像に至るまで、日本経済が目指すべき資本主義の本来の姿を解き明かす。

Q. 日本の産業界で上場企業数が過多と指摘される背景と、求められる事業再編とはどのようなものか?
現在、日本には4000社近い上場企業が存在するが、これは米国や欧州の主要国と比較しても著しく多い水準である。
企業数が細分化された状態では、研究開発やAI領域への巨額投資に必要な規模の資本を集約することが極めて難しい。
小粒な企業が乱立している現状は、資本効率の低下を招き、世界市場での競争力を削ぐ要因となっている。
この課題を克服するためには、企業間で重複する事業を互いの強みへ集約する事業ポートフォリオの再編が不可欠である。
得意分野へ事業を移転させるベストオーナー体制を整えるべく、事業再編時の税制優遇などをテコにした再編が期待される。
かつての薩長同盟のように、競合同士が手を結んで資本力を高める大規模な統合を進めることが産業復活の鍵となる。
Q. 個人投資家が資本市場を変革するアクティビストとして機能するためには何が必要なのか?

個人投資家は単なる預金の預け手にとどまらず、自らの資金を成長資本へと変えて企業に規律を迫る主体となるべきである。
株主総会への出席はもちろん、企業の代表窓口等へ株主として意見を届けるだけでも経営陣に一定の緊張感を与える力がある。
日本企業の特性上、株主からの直接的な提言を完全に黙殺することは難しく、着実なガバナンス改善の契機となり得る。
社会課題の解決においても、個人の単独の奉仕活動より、当事者企業の株式を取得して提言を行う方が遥かに大きな波及効果を生む。
有権者が政治に意見を言うのと同様に、株主が企業に権利を行使することは健全な資本主義の基本動作である。
物言う株主をタブー視する日本特有の偏見を払拭し、民主的に企業変革を後押しする文化を根付かせることが求められる。
Q. NISAは単なる減税ツールを超えて今後どのような役割へと進化すべきなのか?
これまでのNISAは節税メリットを前面に打ち出すことで、幅広い国民層へ投資を普及させる役割を成功裏に果たしてきた。
しかし、非課税枠で国債等の安全資産を囲い込むだけでは、社会全体の成長資本の創出には直結しない。
制度の次のステージとして、個人の遊休マネーを成長産業を牽引するリスクキャピタルへ転換する意識改革が欠かせない。
かつて英国サッチャー政権は、民営化株の購入権を広く配ることで国民皆資本主義の理念を根付かせた。
日本においても、政府主導の補助金に頼り切るのではなく、国民自身が資本の出し手となる仕組みを設計する必要がある。
税制優遇を契機として国民一人ひとりが主体的な資本配分者へと成長することが、持続的な市場発展の基盤となる。
Q. 金利上昇の本格化は日本経済や企業経営に対してどのような規律と好影響をもたらすのか?

金利の引き上げは資本コストを押し上げ、経営者に対して従来以上の高リターンを義務づける強力な圧力となる。
低採算事業から撤退し、最も付加価値の高い分野へ資本を再配分する市場メカニズムが機能し始める。
外部のアクティビストが介入せずとも、金利そのものが経営規律を呼び覚ます最良の推進役として作用する。
借入過多に苦しむ欧米企業と異なり、日本企業や家計は負債を上回る現預金を保有しているため金利上昇への耐性が極めて高い。
銀行の利ざや拡大や過度な円安の修正に加え、将来債務の割引価値縮小と保有株式の含み益により国の財政実態も改善に向かう。
金利ある世界への正常化は、日本経済全体にとって構造的な追い風として捉えるべき好機である。
Q. 真の資本配分力を高め資本市場を支える人材を育成するために何が必要なのか?
低金利下で過熱したタワーマンション等の不動産投資は、新たな生産物を生み出さない資産保全のマネーに過ぎない。
将来の価値を創出する真のキャピタルと単なる資産保有とを明確に選別する眼識が必要とされる。
国家の重点投資方針においても、政府による細部の介入を退け、民間の目利きであるアロケーターの判断に委ねるべきである。
資本市場の論理は数学や物理、実践的な経営判断に基づき、既存の理論重視のマクロ経済学とは一線を画している。
市場のダイナミクスを理解し、資本の最適配分を指揮できる高度な金融プロフェッショナルを育てる専門教育が急務である。
大学等の教育機関と連携した専門領域の確立こそが、日本の長期的競争力を盤石なものにする。
Q. 資本コストが意識される新時代において日経平均株価にはどのような成長シナリオが描けるのか?

資本コストを意識せずリターン要求が曖昧だった数十年間、日本の株式市場は長期的な横ばいを続けてきた。
しかし金利が正常化し、企業のROE目標が10パーセント程度へと切り上がれば、複利成長の軌道が自ずと確立される。
年率10パーセントのリターンが定着すれば、計算上は5年で約1.6倍、7年強で株価が2倍へと跳ね上がる。
株主によるガバナンス監視と資本規律が維持される限り、日経平均株価は上下動を伴いながらも右肩上がりの基調を持続できる。
民主主義と同様に、資本主義も不完全さを抱えながら人類が生み出した最も実効的な繁栄のメカニズムである。
国民が資本市場を主体的に活用し、自ら声を上げて富を築くことで、日本経済は力強い復活を遂げることができる。
