
Substackは日本で流行るか
「信じる」が生み出す新たな経済圏:Substackが変革するメディアの未来
デジタル情報が洪水のように押し寄せ、SNS疲れやアルゴリズムに支配される時代に、私たちは本当に価値ある情報とどう向き合えばよいのか?
そんな問いに対する一つの答えとして、欧米を中心に急速に支持を集めるメディアプラットフォーム「Substack」が今、注目されている。
個人クリエイターが質の高いコンテンツを届け、読者がその信頼に対し直接対価を支払う新たな「クオリティエコノミー」の実現を目指すSubstackは、情報消費の未来をどう描き出すのか。その全貌を深掘りする。

Q. Substackとはどのようなサービスか?
Substackは、米国サンフランシスコ発のオールインワン型メディアプラットフォームである。
個人のクリエイターや発信者が、ニュースレター(メルマガ)をはじめ、Podcast、動画、ライブストリーミングといった多様な形式で情報を発信できる。
最大の特徴は、これらの複数のメディア形式を一つのプラットフォーム内で統合し、発信者自身が自身のコミュニティを構築・所有できる点にある。さらに、SNSフィード機能も備わっており、単なる情報発信ツールに留まらず、コミュニティ形成からコンテンツの発見までを一貫して提供している。クリエイターはコンテンツを通じて読者と深く結びつき、よりパーソナルな体験を創出することが可能である。
Q. 世界ではどの程度普及しているのか?その背景は?
Substackは特に英語圏で驚異的な成長を遂げており、現在ではメインストリームのプラットフォームの一つと認識されている。
米国内のニュースメディアのトラフィックランキングで上位に位置するほどの存在感を示し、数千万人ものアクティブな購読者、そして500万人以上の有料購読者を抱えている。年間に100万ドル(約1.6億円)以上を稼ぎ出すクリエイターも50組以上おり、その市場規模は拡大の一途を辿る。
この急速な普及を支えるのは、圧倒的な「クリエイターファースト」のビジネスモデルだ。Substackはクリエイターの収益の90%を手元に残し、プラットフォームの手数料をわずか10%に抑えている。
この高い還元率は、クリエイターが経済的に自立し、質の高いコンテンツ制作に集中できる環境を提供する。プラットフォーム側はクリエイターが成功することで収益を得る仕組みのため、積極的にクリエイターの成長を支援していると言えるだろう。
Q. アテンションエコノミーからの脱却が求められるのはなぜか?

現代社会は、視聴者の注意(アテンション)を集めることを主眼とする「アテンションエコノミー」が支配する。YouTubeやTikTokのようなプラットフォームでは、クリエイターはアルゴリズムに最適化された刺激的なコンテンツや、真偽が不明瞭な情報で再生回数や広告収入を稼ごうとする。
この「インプレッション稼ぎ」は、過激化を助長し、ユーザーに多大な精神的疲弊、いわゆる「SNS疲れ」をもたらしている。自分たちが本当に消費したい情報ではない、ノイズのようなコンテンツが次々と流れてくることに、多くの人が倦怠感を抱くようになった。
これに対しSubstackは、信頼できる情報源からの質の高いコンテンツを、購読者が直接選び、対価を支払う「クオリティエコノミー」の実現を目指す。
ジャーナリストや学者、あるいは著名人といったプロフェッショナルが、自らの信じる情報を独自のプラットフォームで発信し、読者はそのコンテンツに「投資」する形で信頼関係を築く。
この仕組みは、クリエイターに自由な発信を促し、読者には本当に価値ある情報へのアクセスを保証する。アテンションエコノミーによって見過ごされがちな、熟考を要する質の高いコンテンツに再び光を当てようとするのだ。
Q. 日本では有料コンテンツへの障壁があるという指摘にどう答えるか?
「日本人は情報にお金を払わない」という声が聞かれるものの、実態は異なる可能性がある。国際的な調査によれば、ニュースの有料購読率は日本(9%)はイギリスやドイツといった欧州の先進国と同等の水準であり、これらの国々でSubstackのような有料コンテンツプラットフォームが成功している事実は、日本での普及にも十分な余地があることを示唆する。
さらに、日本新聞協会のデータが示す通り、日本には現在も約2486万部もの紙の新聞が購読されており、多くの人々が毎月数千円を情報購読に支払う。これは、日本人には元来、情報に価値を見出し対価を支払う意識が根付いていることの証左であろう。つまり、「情報に金を払わない」のではなく、「デジタルコンテンツへのシフトが遅れている」、あるいは「発信者と受け手のニーズにミスマッチがある」という可能性が高いのだ。
多くの大手SNSに見られる過激な投稿やノイズに疲れを感じるユーザーにとって、Substackの提供する、信頼できる発信者からの「心地良い」コンテンツ体験は、新たな居場所となる可能性がある。
自ら選んだ少数の信頼できる発信者と深くつながり、不要なアルゴリズムの介入なく情報を受け取る環境は、SNS疲れへの有効な処方箋ともなり得るだろう。
Q. Substackが掲げるビジョン「文化のための経済エンジン」とは何を意味するのか?

Substackは「文化のための経済エンジンを創造する」というビジョンを掲げる。
これは、短尺動画や即時性のある情報が優先され、ロングフォームで質の高い文化や専門的なコンテンツが見過ごされがちな現代において、それらを守り、育むための経済的基盤を提供することを目指すものだ。
創業CEOであるクリス・ベストは、両親が英語教師という文学的環境で育った経緯もあり、質の高い文章や深い考察が「廃れていく」現状に危機感を抱いた。
彼らは、クリエイターが「信じることで稼ぐ」エコシステムを構築する。つまり、プラットフォーム側が言論をジャッジせず、クリエイターが自身の信じる価値ある情報を自由に発信し、読者がその価値を評価し支援することで、コンテンツが持続的に生み出される環境を追求するのだ。
このモデルは、「言論の自由」を尊重し、クリエイター一人ひとりが生活の糧を得ることを可能にする、真の「クリエイター中心のビジネスモデル」を体現している。
さらに、自動翻訳機能により日本語のコンテンツが英語やスペイン語などに翻訳され、世界中の読者に届く仕組みも提供し、国境を越えた文化の循環をも促進する。
Q. AIが情報に溢れる時代に、「信じる」価値はどう高まるのか?

AIによって生成される情報が洪水のように溢れ、その真偽や「誰が書いたか」の判別が困難になる時代において、「信じる」価値はより一層高まる。
「この人だからこそ書ける」という「一人称」の物語や、明確な責任と信念に基づいて発信されるコンテンツは、AIが提示する正確な情報とは異なる、代替不可能な価値を持つだろう。
Substackは、このような個人からの情報に対し、読者が時間とお金を投じて積極的に選び取る「尊厳のある消費」を推奨する。それは、消費者側が自らの意思で情報を選択し、対価を払うことで得られる「読者としての尊厳」である。
同時に、クリエイターも自身の信念に正直な発信で生活を成り立たせるという「クリエイターとしての尊厳」を保つことができる。AIが汎用的な知識を提供する一方で、人間特有の視点、経験、感情が織り込まれたコンテンツの価値は、今後さらに重みを増すと考える。
Q. 日本でSubstackから発信するべきなのはどのような人たちか?
Substackは基本的に、あらゆる個人に開かれたプラットフォームである。
「私なんて」と思うような人であっても、誰もが独自の経験や視点を持つ「物語の主人公」であり、その正直な発信は共感を呼ぶ。一方で、特定の分野における高い専門性を持つプロフェッショナル、例えば学者やジャーナリストも重要な存在だ。
彼らの質の高いコンテンツが、質の高いオーディエンスを惹きつけ、エコシステム全体の活性化につながる。
さらに、SNS疲れを感じる人々や、クローズドな環境でより深い交流を求める著名人など、多種多様な背景を持つ人々が参加している。企業に所属する個人でも、企業規定に抵触しない範囲で個人の経験や見解を発信し、あるいは有料設定を設けることで限られたコミュニティにのみ本音を語ることも可能である。
「強い個人」と「強い組織」が共存する未来を見据え、個人の影響力や発信力を高めることで、最終的に所属組織や社会全体にも貢献する循環が期待される。
