
20代の出世離れは本当なのか?
「若者の出世離れ」は本当か?データが示す現代のキャリア観と評価のギャップ
「今の若者は出世したがらない」――このような声を耳にする機会が増えているのではないか。果たしてそれは本当に正しいのか。メディアを通じて形成された一般的なイメージと、実際のデータには大きな乖離がある。本記事では、最新の調査データを基に、現代の若者がキャリアや昇進に対しどのような価値観を持ち、また旧来の評価基準とどのようなギャップを抱えているのかを徹底的に分析する。その上で、個人と企業がこれから進むべき方向性を考察しよう。

Q. 世間で言われる「若者の出世離れ」は本当か?
若者の出世意欲が低下しているという言説は、一概に真実とは言えない。弊社の調査によれば、昇進意欲において20代は3年連続で全世代のトップを維持していることが明らかになった。係長、課長、部長といった社内のステップアップに対し、若年層は非常に意欲的であるとデータは示唆する。
しかし、世間には「若者の出世離れ」というイメージが定着している。これは管理職が「罰ゲーム化」しているといったネガティブな報道が影響している可能性がある。昇進への意欲はあるものの、管理職が持つイメージ、特に責任増大と長時間労働のセットを嫌がる傾向は確かに存在するため、「昇進=管理職」と短絡的に捉えることで、全体像を見誤る恐れがあるだろう。
Q. 現代の若者のキャリア観は旧来とどう異なるか?

現代の若者は昇進意欲が高い一方で、そのキャリア観は旧来よりもはるかに多様化している。20代のキャリア観を尋ねたアンケートでは、「社会的地位を得たい」(約3割)や「将来は独立したい」(約24%)といった意欲が他の年代と比較しても高い数値を示している。
最も注目すべきは、「様々な職を経験したい」と回答した層が約36%に達し、最多だった点である。これは、終身雇用制度が揺らぐ現代において、一つの会社に依存することなく、社内外で通用する汎用的なスキルや市場価値を自ら高めていこうとする強い志向の表れであると言える。昇進はキャリアを形成する一つの選択肢であり、それが唯一の道ではないと多くの若者が考えているのだ。
Q. 若者は昇進を望むが長時間労働を厭うのは矛盾するのか?
若年層(20~30代)において、「稼げるなら残業しても良い」と「稼げても残業はしたくない」という二つの考え方はほぼ半々に拮抗している。これは、高給与や昇進を望むことと、無制限の残業を受け入れることが、もはやイコールではないことを明確に示している。若者の多くは、昇進というステップを通じて得られるメリットは享受したいが、そのために対価として長時間労働や私生活の犠牲を払うことは想定していない。
旧来の昇進モデル:終身雇用や年功序列が機能していた時代には、残業を含む長時間労働が「会社へのコミットメント」として評価され、それが昇進や雇用の安定に直結していた。働き方と評価は曖昧ながら一体化していたのだ。
現代の昇進モデル:終身雇用・年功序列の弱体化や働き方改革の推進により状況は一変した。会社への長時間従属ではなく、外部市場でも通用する「成果」や「専門性」の発揮が評価される傾向が強まっている。副業が認められる企業は70%を超え、正社員の転職率も過去最高水準に達するなど、多様なキャリア選択が可能となった結果、若者は自身の市場価値を重視し、複数のルートでキャリア形成を模索するようになっている。
Q. 上司と部下の間で、なぜ評価基準のすれ違いが生じるのか?

現代においても、特に部長層以上の管理職では「残業時間が多いこと」を評価やキャリアアップに良い影響を与えるものだと考えている傾向が強い。これは、彼らが「長時間労働で会社にコミットすることで評価され、出世してきた」という過去の成功体験が根強く影響しているためと推測される。この無意識のバイアスが、客観的な成果とは異なる「見えない頑張り」を過剰に評価してしまう。
管理職が部下との間でギャップを感じる要因として、「仕事や業務の進め方」に次いで「仕事に対する熱量」が挙げられる。しかし、この「熱量」の内容が問題である。上司が若者に期待する「熱量」には、時間外の連絡への即レスや、場合によっては休日対応、長時間会社に残るといった、非効率な「滅私奉公」的な態度が含まれることがあるのだ。これに対し、効率やプライベートとの両立を重視する現代の若者は違和感を覚える。例えば、「繋がらない権利」は、勤務時間外に応答しなかったことで不利益を被らないことを保証するものであり、単に連絡を拒否する権利ではない。しかし、現実には上司と部下の間で、時間外連絡の緊急性に対する認識に30%以上のギャップがある。もし若者が定時内で最高のパフォーマンスを発揮し定時で退社しても、「熱量が低い」と評価されれば、彼らは評価システムに疑問を抱き、結果として転職を考える選択肢が増えていく。
Q. このギャップを解消するために、個人はキャリア形成にどう取り組むべきか?
キャリアの複線化が進む現代において、個人が昇進を目指す際に最も重要なのは、「なぜ昇進したいのか」という目的を言語化することだ。20代の昇進理由は「給与を上げるため」が他世代より低い一方、自己成長、能力発揮、責任ある仕事への挑戦など、多角的な動機が見られる。
昇進を通して得たいものを具体的に突き詰める必要があるだろう。例えば、年収アップを目指すなら社内昇進だけが唯一の道ではない。大きな裁量を手に入れたいなら、社内での昇進を待つよりも、部署移動や独立といった選択肢の方が自己実現に早い可能性がある。また、労働市場で影響力を持ちたいと考えるなら、インフルエンサーとしての活動や特定の専門性を極めるなど、企業内昇進とは異なるキャリアパスを検討することも視野に入れるべきである。
Q. 企業は社員のエンゲージメントと成長のために何をすべきか?
企業はまず、評価基準を客観的に棚卸しする必要がある。「遅くまで会社に残っているから頑張っている」「時間外の連絡に即レスするから熱量がある」「休日にも業務対応しているから忠誠心が高い」といった、旧来の「頑張り」や「熱量」といった曖昧な要素を評価から徹底的に排除すべきだ。
それらの行動が、果たして本当に本質的な価値創出に繋がっているのか、成果として具体的な指標があるのかを冷静に見極めなければならない。形式的な長時間労働や過度なコミットメントではなく、与えられた時間内でいかに効率的に最大の成果を生み出したか、いかに新しい価値を創造したかという点に評価の軸を移すのだ。同時に、「時間外に連絡に応答しなくても、いかなる不利益も生じない」という「繋がらない権利」の本来の意義を制度として明確にし、心理的安全性を担保することで、部下が不必要な不安なく業務に集中できる環境を整備することが不可欠である。
Q. 今後の日本企業とビジネスパーソンに必要な変化とは何か?
若者の「出世離れ」という表層的な解釈は、現代の複雑な労働環境とキャリア観の変化を覆い隠すものである。実際は、若者の昇進に対する条件や個人の価値観が大きく変化しており、企業と個人の双方が、従来の「昭和的」な出世観や評価観をアップデートする時期にきているのだ。
企業は、成果主義をより明確にし、生産性の高い働き方を促す公平な評価システムを構築すべきである。また、個人は自身のキャリアに対する明確なビジョンを持ち、それが会社のビジョンとどのように合致するか、あるいは異なる場合どのように成長機会を探るかを具体的に言語化する必要がある。この変化を前向きに捉え、新しい時代の労働市場に合わせた評価とキャリア構築を追求していくことで、日本企業とそこで働くビジネスパーソンは持続的な成長を実現できるだろう。
