
インド進出は今がラストチャンス
インド市場攻略の鍵:中国の過去と日本の成長期、そして日本の製造技術が日印連携を加速させる
インドは今、世界で最もダイナミックな市場の一つであり、その成長可能性は計り知れない。
かつての中国や日本の経済発展の軌跡が、現代のデジタルインフラと融合し、新たな事業機会を次々と生み出している。
本稿では、このインド市場がなぜこれほど注目され、日本の産業界がどう向き合うべきかについて深掘りする。

Q. インド市場への投資において何を参考にしているのか?
現代の日本市場は、あらゆるものが洗練されすぎており、新たな事業機会の創出が難しい状況にある。欧米市場も同様に成熟が進む。
このような状況下、我々はインド市場の投資戦略を立てる際、日本の高度経済成長期と15年前の中国市場を主要な参考事例として捉えている。
インドは現在、14億人もの人口を抱え、急速なデジタルインフラの整備が進む。この状況は、当時の日本や中国が経験した発展段階に酷似している。
そのため、過去の事例を分析することで、今後インドでどのようなベンチャー企業が生まれ、どのようなビジネスモデルが成功するかの予測に役立てているのである。
Q. インドのベンチャーエコシステムのバックボーンは何か?

インドのベンチャーエコシステムの最も強固なバックボーンは、起業家精神が極めて旺盛である点にある。この精神は決して衰えることがない。
インド人は、自分の人生を誰かに任せるのではなく、自らがオーナーシップを持ち、コントロールしたいという強い願望を抱いている。この自立志向が、活発な起業活動を支える根本である。
彼らは「大きな絵を描くこと」に長けている。「5年で数千億円」といった大胆なビジョンを打ち出すことに全く躊躇しない。
この壮大な構想力は、緻密なコスト管理や利益創出といった堅実な実務を得意とする日本企業と極めて相性が良い。互いの強みを補完し、強力なパートナーシップを築ける可能性が高いのである。
Q. 日本とインドのスタートアップ連携に潮目が来ているとは具体的にどういうことか?
過去10年間、インドのベンチャー市場はデジタル化を軸に発展し、多くの起業家がインターネットやソフトウェア分野で米国市場を目指した。当時、米国IT大手企業のトップには多くのインド系人材が就いていた事実もある。
しかし、デジタル化が一巡した現在、インドの主要な焦点は国内生産の強化と製造業の活性化へとシフトしている。モディ政権もこの動きを強力に推進する。
この変化こそが、日本にとって大きな機会となる。日本の大企業から地方の中小企業に至るまで、長年培ってきた製造業の知識、経験、そして世界に通用する卓越した技術(例えばネジ一本の精密さ)は、まだインドでは不足している領域である。
縮小する国内市場で飽和状態にある日本企業は、成長著しいインド市場に活路を見出す必要性を感じている。一方、インド企業は、日本が持つ高水準な「ものづくり」のノウハウを強く求めている。
このように、日本の「海外市場開拓」とインドの「技術吸収」という二つのベクトルが合致した結果、かつて米国が強かったデジタル分野とは異なり、製造業という文脈では日本がインドから選ばれる可能性が飛躍的に高まった。
まさに今、両国のスタートアップ連携の「潮目」が訪れているのである。
Q. 大手金融機関がインドに注目する背景は何か?

日本の大手金融機関は、インドへの投資や連携を加速させている。SMBCアジェライジングファンドのような大規模なコーポレートベンチャーキャピタルがその代表例である。この動きには主に三つの理由がある。
第一に、インド市場の圧倒的な成長性とその中のバンキングニーズに対応するためである。SMBCはYES Bankへの出資やノンバンク買収、MUFGもスリランカのノンバンクに出資するなど、現地金融機関との連携を強化している。これにより、14億人の人口における中間層以下のバンキング需要を取り込もうとする。
第二に、インドが有する先端テクノロジーを自社のバンキングサービスへ導入し、デジタル化・高度化を進めるためである。AI時代における銀行業務の刷新において、インドの技術力を取り入れることはグローバル競争力強化に不可欠である。
第三に、大手金融機関の主要顧客であるトヨタ、パナソニック、ソニーなどの名だたる日系大企業がインド市場に強く注目し、進出を図っている。インド特有の市場構造や事業環境における効率化ニーズに対し、金融機関はスタートアップのソリューションを活用して顧客企業をサポートしようとする。
これらの理由から、日本のメガバンク各社はインドを重点市場と捉え、投資と事業開発に注力しているのである。
Q. インド進出を検討する日本企業に今伝えるべきことは何か?
インド進出を考える日本の企業や個人に対し、最も伝えたいことは「まずインドに来てほしい」ということである。日本国内で得られるインドに関する情報は限定的で偏りがあり、現地のリアルな熱気やビジネス環境を実際に肌で感じることで、抱いていたイメージが180度変わる可能性が高い。現地に足を踏み入れることが、具体的な戦略策定の第一歩となる。
次に強調したいのは、「今がラストチャンス」だという危機意識である。
現在のインドは、まだ国内エコシステムが発展途上であり、外資や先進的なノウハウを強く歓迎する時期である。しかし、この数年でインドが自国の力だけで十分にビジネスを展開できるようになれば、日本企業への関心は急速に薄れる可能性がある。
これは過去の中国市場で多くの日本企業が経験したことでもあり、今動かなければ5年後には手遅れになる恐れがある。
弊社がファンド名を「インキュベートファンドインディア」から「インキュベートファンドアジア」へ変更した背景も、この柔軟な戦略を示す。約8割は依然として投資効率が高いインドに重点を置くが、インドで成功したビジネスモデルを東南アジアに横展開したり、シンガポールを拠点にグローバルを目指す中国系AI企業などの新たな投資機会を捉えることも視野に入れている。この「今」を逃さず、積極的な姿勢でインド市場にコミットすべきである。
Q. 今後のインド市場はどのように変化していくと予想されるか?

インド市場の今後の盛り上がりは疑いようがなく、さらに拡大するだろう。
巨大な人口、若年層が厚い人口構成、そして巧みな地政学的位置取りにより、インドのグローバル社会における存在感は一層高まることが確実である。
世界中の投資家はすでにこの事実を認識している。感度の高い米国などは、弊社がインドに移住するよりも20年以上前から独自のファンドを設立し、インドへの継続的な投資を進めていた経緯がある。遅れをとっている日本にとって、今行動することが重要である。
インドは、特定の国や陣営に過度に依存せず、あらゆる国と友好的な関係を構築しようとするオープンな外交姿勢を保つ。この多角的な関係構築は、グローバルサプライチェーンの多様化が進む現代において、極めて魅力的なパートナーとなることを意味する。
今後、インドが世界の経済成長を牽引する中核の一つとなることは明確であり、日本がこの大きな潮流に乗り遅れないよう、積極的かつ戦略的に関与していく必要がある。
