
採用基準と適性チェックリスト
稀有なキャリアが示す、VC適性の真髄とキャリアパスの多様性
大学で建築を専攻しながら金融業界に進み、新卒入社したリーマン・ブラザーズの破綻を経験。事業再生コンサルティングで修羅場を乗り越え、その後はユーザベースの初期メンバーとしてアジア市場開拓の最前線で奮闘。そして、35歳でベンチャーキャピタルを設立するという夢を具現化した人物、ファーストライトキャピタルの岩澤脩氏。
彼の波乱に満ちたキャリアパスは、ベンチャーキャピタリスト(VC)という職業が単なる金融経験だけでなく、多岐にわたる知見と人間力を要求することを示す。本記事では、岩澤氏のキャリア形成をたどりながら、VC業界の多様な側面、求められる資質、そしてその先にあるキャリアの可能性を深く掘り下げていく。

Q. 建築専攻からVC設立へ、その特異なキャリアパスはどのようなものか?
岩澤氏のキャリアは大学院時代、偶発的なVCインターンから始まった。この時、起業家に伴走し成長を支えるVCの「裏方」の仕事に魅了され、「35歳でVCになる」という目標を設定した。
最初のキャリアはリーマン・ブラザーズの株式アナリスト。しかし入社直後、同社の破綻という歴史的局面に直面し、衝撃的な社会人生活のスタートを切る。その後、野村総合研究所に転じ、地方企業の事業再生コンサルティングに従事した。ここで、本気で会社再建に臨む経営者を後方から支える仕事に天職の喜びを感じ、3年間で多岐にわたる産業と企業の実態に触れる機会を得たという。
次なる挑戦は、ユーザベース初期メンバーとしての金融情報データベース「SPEEDA」の海外展開だった。香港に単身赴任し5年間事業を推進するも、現地での迅速なプロダクト改善体制(エンジニアチーム)が築けなかったことが要因となり、事業は未達で終わる。この経験は、グローバル市場でのスタートアップ事業の難しさを痛感させるものとなった。
挫折からの帰国後、ユーザベースの創業者に面接時に語った「35歳でVCになる」という夢を思い出させられた。奇しくもその時が35歳であり、創業陣の勧めもあり、ユーザベースの知見を活かした「UB Ventures」(現ファーストライトキャピタル)の立ち上げに参画。学生時代の目標を実現する形で、新たなキャリアステージへと足を踏み入れたのである。
Q. VC業界にはどのような種類と内部職種が存在するのか?

ベンチャーキャピタルは、その設立背景によって多様なタイプに分類される。主なものとして、金融機関が母体となる「金融機関系VC」、事業会社が自社とのシナジーを追求する「CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)」、商社が立ち上げ多角的な事業連携を図る「商社系VC」がある。
また、外部から資金を集めて運用する「独立系VC」(ファーストライトキャピタルもこの分類に属す)、国の政策目的で設立された「政府系VC」、大学の研究成果の実用化を支援する「大学系VC」も存在する。特に日本では、独立系VCを育成する動きが活発だ。
VC内部の主要な職種は三つ。一つはファンド全体の責任者である「GP(ゼネラルパートナー)/パートナー」、次いで投資先の選定や支援を行う「ベンチャーキャピタリスト」、そしてファンドの管理業務を担う「ファンドアドミニストレーター」である。
ファンドアドミニストレーターは、投資資金の管理や投資先の評価、監査法人との連携など多岐にわたる業務をこなし、投資家(LP)への報告責任も負う。この職種には数字だけでなく、経営陣や投資家とのコミュニケーション能力が不可欠だ。特にスタートアップの経営は不確実性が高く、AIでの完全代替が困難であるため、高い汎用性と人柄を兼ね備えた人材が求められており、業界全体で深刻な人手不足が課題となっている。
Q. VCのベンチャーキャピタリストに求められる具体的な適性とは何か?
ベンチャーキャピタリストの適性は、しばしば以下の五つのチェックリストで言語化される。第一に「聞き上手であるか」。起業家からの多様な相談内容に対し、的確なアドバイスと深い寄り添いが求められるため、傾聴力は不可欠だ。
第二に「有事にワクワクしてしまう」。スタートアップは常に不確実性と隣り合わせであり、困難な状況をむしろ好機と捉える積極的な姿勢が求められる。文化祭前のような準備段階の熱気や変化のプロセスを楽しめる人材が望ましい。
第三に「大きい組織より小さい組織が好き」という志向。VC自体も、比較的小規模なチームで運営されることが多く、成長途上のスタートアップに関わるため、小規模組織での迅速な意思決定や柔軟な動きを好む性質がフィットする。
第四に「駆け引きが好き」。投資判断や企業価値交渉など、VCの業務には戦略的な駆け引きが頻繁に発生するため、それを楽しめる資質が重要である。
そして最後に、「部活でエースではなかったけれども、後輩に教えるのが上手だった」という資質だ。これは単独で突出する能力よりも、チーム全体を俯瞰し、人の成長に寄り添いながら支援できる能力を示している。起業家を支える側としての立ち位置を理解し、コミュニケーションを通じて本質的な成長を促す姿勢がキャピタリストには不可欠と言えよう。
Q. 起業家との信頼関係を構築するためにVCに求められる要素とは何か?

ベンチャーキャピタリストの仕事は、起業家のパートナーとして深く伴走することである。その中で最も重要視されるのは「信頼関係」の構築にほかならない。投資先企業から忌憚ない意見を引き出し、真の問題点を共有するためには、「バッドニュースファースト」で報告してもらえるような心理的安全性の高い関係性が求められる。
起業家は、資金提供者であるVCに対して事業のマイナス面を伝えることにためらいを感じることが多い。事業が停滞すると、資料のページ数が増え、見栄えだけが良くなり、本質的な予実の差が見えにくくなる傾向があるという。
こうした状況で真実を引き出すためには、キャピタリストの鋭い洞察力や質問力が試されるだけでなく、日常的にオープンなコミュニケーションを築ける人間性が何よりも重要だ。 VCには、単なる出資者としてではなく、起業家の抱えるハードシングス(困難)に耳を傾け、共に解決策を模索する姿勢が強く求められているのである。
ファーストライトキャピタルでは、採用において履歴書の「綺麗なCVC(経歴)」よりも、人柄や内面の資質を重視する。例えば、「自己破壊できるか」「逆境を楽しめるか」といった要素は、常に変化し、時に困難な局面を迎えるスタートアップの世界で必要不可欠な特性と捉えられている。
Q. VCが採用面で最も重視する「知的好奇心の軸」とはどのような意味を持つのか?
ベンチャーキャピタリストは、最先端のテクノロジーから産業構造まで、常に多様な情報を深く理解し、分析する必要がある。そのため、採用において経歴や学歴の華々しさよりも、候補者が持つ「知的好奇心の軸」が最も重視されるという。
知的好奇心は、単に「何にでも興味を持つ」という意味ではない。特定の領域において深く探求し、物事の本質を突き詰めた経験があるかどうかだ。この探求心は、あらゆる情報に触れた際に、ぶれることなく自分なりの判断軸を持ち、物事を評価する能力に直結する。多種多様なスタートアップや市場動向を瞬時に見極める必要があるVCにとって、明確な判断軸は欠かせない要素となる。
この軸が定まっている人材は、スタートアップが描く事業計画が現実的か、どの部分に課題があり、どのような成長可能性があるかを正確に見抜ける。面接では、応募者がどのような分野で好奇心を抱き、それをどれほど深く掘り下げたのかを問うことで、その人の判断軸を測っているのである。これは、未知の領域や不確実性の高いスタートアップ投資において、堅実な判断を下す上で極めて重要な基準である。
Q. VC経験が切り拓く多様なキャリアパスとEIR制度とは?

VCでの経験は、その後のキャリアにおいて非常に多様な可能性を切り開く。ベンチャーキャピタリストは、様々なスタートアップの事業に深く関与するため、短期間で幅広い産業やビジネスモデルの知見を習得できる。
そのため、数年のVC経験を積んだ後、スタートアップのCXO(最高執行責任者など)として転職する者や、自ら起業する者も少なくない。VCは、いわば多くの事業アイデアと経営者と接する「ショートカット」の場となり、起業家としての実践的な視点や人脈を効率的に培うことができる。
アメリカには「アントレプレナー・イン・レジデンス(EIR)」というユニークな制度が存在する。これはVCの内部に所属しながら、給与を得て自身の起業アイデアを準備できるポジションだ。VCとして多くのビジネスを見てきた経験を活かし、じっくりと起業に向けた戦略を練り、事業の立ち上げを行う。このように、VCのキャリアは単なる投資家としての道だけでなく、未来の起業家を育むインキュベーター的な側面も持ち合わせている。