PIVOT TALK HEALTH
最新科学が教える「腰痛の治し方。予防法」
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2026年8月2日

痛みの王様、国民病とも言われる腰痛。最新科学では腰痛の原因はどこまで解明されているのか?どうすれば予防・治療できるのか?救急医の志賀隆氏と、産業医の大室正志氏に聞いた。 <ゲスト> 志賀 隆|救急医・杏林大学救急医学特任教授 2001年千葉大学医学部を卒業。米国メイヨー・クリニックで研鑽を積む。マ...
慢性腰痛の真実:脳の誤作動を正し、快適な日常を取り戻す
ビジネスパーソンの約4割が腰痛を抱えると言われる。その痛みは単純な身体的損傷に起因するだけでなく、最新の知見によれば「脳のバグ」とも称される神経回路の誤作動が深く関わっている。安易な情報や旧来の常識に囚われると、かえって痛みが慢性化し、悪循環に陥る可能性がある。本記事では、腰痛に関する最新の科学的知識に基づき、その正体と、正しく対処するための方法をQ&A形式で詳細に解説する。脳の誤作動を理解し、能動的に動くことで、多くの人々が腰痛のない快適な生活を取り戻す道が開かれるだろう。
Q. なぜ腰痛の原因は「脳のバグ」と言われるのか?
長期間にわたる慢性的な腰痛は、単に腰部の物理的な損傷が原因とは限らない。その背景には、脳が痛みを学習し、存在しないはずの痛みを生成したり、過剰に増幅させたりする「腰痛回路」の誤作動が存在する。

例えるならば、煙のない場所で火災報知器が鳴り続けている状態と言えよう。実際に、学歴やヘルスリテラシーが低い人ほど腰痛を強く訴える傾向があるという信頼できる報告もあり、これは正しい知識の有無が脳の誤作動の程度を左右する可能性を示唆する。つまり、腰痛は単なる身体の痛みではなく、精神状態や知識レベルと密接にリンクした複雑な現象である。この脳の誤作動、すなわち「脳のバグ」が慢性腰痛の本質とされている。
Q. 腰痛でMRI検査は必要か?過剰な検査は逆効果とならないか?
MRIは詳細な画像を提供する非常に有用な検査手法であるが、腰痛診断におけるその利用には注意が必要だ。

何故なら、痛みを感じていない健常者でも、約64%がMRI画像でヘルニアなどの腰椎の異常が見つかるという衝撃的な研究結果があるからである。ビジネスパーソンを中心に「念のため」とMRIを撮影し、軽微な異常が見つかった場合、それがきっかけで「自分は病気だ」と思い込み、脳内で新たな「痛みの回路」を形成してしまう危険性がある。その結果、本来であれば問題視する必要のない所見に固執し、不必要な不安や痛みを増幅させてしまうのだ。よって、夜間の激しい痛みや下肢の麻痺など、緊急性の高い坐骨神経痛の兆候がない限り、安易なMRI検査はむしろ逆効果となる場合がある。オーストラリアでは、まず理学療法士が1時間半かけて患者を問診し、本当に画像検査が必要かどうかを慎重に判断する体制が構築されているのは示唆に富む例と言える。
Q. ヘルニアがあっても必ずしも手術は必要ないのか?痛み止めとの向き合い方は?
ヘルニアが見つかっても、必ずしも手術が必要なわけではない。アメリカの主要な医学誌JAMAに報告された大規模な研究では、ヘルニアに対する手術療法と保存療法(リハビリテーションと痛み止め)の長期的な改善効果には統計学的な差がないことが示された。

手術は短期的に痛みを早く取り除くことができるが、数年という長期で見ると保存療法と結果は同程度となる。痛み止めについては「単なる誤魔化し」という誤解が根強いが、それは正しくない。急性期、例えばぎっくり腰や坐骨神経痛の初期数週間には、ロキソニンなどの非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)を適切に活用することが推奨される。これは、痛みを緩和するだけでなく、椎間板の炎症そのものを鎮める効果もある。炎症を抑え痛みを和らげることで、患者は早期に身体を動かせるようになる。この「薬の力」をブースターとして積極的に動くことが、脳に「痛みの回路」が固定されるのを防ぎ、慢性化を回避するための極めて重要な戦略となるのだ。ただし、慢性的な長期服用は腎機能低下のリスクがあるため、特に中高年のビジネスパーソンは、他の持病や併用薬との関係について医師や薬剤師に相談しながら服用することが肝要である。日本の医薬品規制は依然として厳格だが、海外ではイブプロフェンなどの強力な鎮痛剤が長年市販薬として流通し、適切に利用されている実績もある。
Q. 慢性腰痛を悪化させる「やってはいけない習慣」とは?
旧来の常識の中には、現在の科学的知見と矛盾し、かえって腰痛を悪化させる習慣が散見される。以下に避けるべき主な習慣を挙げる。
一つ目は「絶対安静」。これは最も大きな誤解であり、早期からの適切な運動が回復を促進することが確立されている。
二つ目は「牽引療法」である。椎間板の圧力を緩和するという理論は一見合理的だが、実際には劇的な効果は期待できない。しかも、定期的に通院することで、脳は「自分は治療が必要な患者だ」という依存回路を形成し、痛みに固執してしまう危険性がある。
三つ目は「コルセットの常時着用」だ。急性期の腰痛を一時的にサポートするには有効だが、長期間にわたって頼りすぎると、腹筋や背筋といった体幹のインナーマッスルが衰退し、コルセットなしでは身体が安定しない状態を招く。これもまた、精神的な依存と身体的な弱体化を同時にもたらす悪循環となる。
四つ目は「痛む方向への強すぎるストレッチ」である。「痛みで痛みを制す」という考え方で、あえて痛い方向に体をひねったり曲げたりするのは極めて危険な行為だ。身体の組織にさらなる損傷を与え、かえって症状を悪化させる可能性が高い。痛みのない範囲で、あるいは痛みが軽減する姿勢や方向での運動に留めるべきである。最後に、不要なMRI撮影が挙げられる。無症状の腰痛患者が、医療機関で「念のため」と安易にMRI検査を受けることは、医療費の無駄遣いであるだけでなく、実際には痛みとは無関係な画像上の所見に過度にとらわれ、心因性の「腰痛回路」を生成するきっかけとなってしまう可能性もある。
Q. 日常生活で取り組める効果的な腰痛予防・改善策とは?
慢性腰痛に対する「特効薬」は残念ながら存在しない。しかし、日々の地道な積み重ねが最も効果的な予防と改善につながることが科学的に証明されている。最も重要なのは、「同じ姿勢を長時間続けないこと」そして「とにかく適度に体を動かすこと」である。

以下に具体的な対策を解説する。
一つ目に、スタンディングデスクの導入や「立ち会議」の活用だ。これにより長時間座り続ける姿勢を解消し、体の負担を軽減する。実際に、立ち会議は会議時間を平均20分短縮する効果もあるという報告もある。
二つ目に、デジタルツールを活用した意識的な動きの習慣化が挙げられる。デスクワーク中の集中は尊いが、1時間ごとにアラームを設定し、席を立って軽いストレッチをする、あるいはトイレ休憩などを利用して少し歩くなどの習慣を確立することが推奨される。
三つ目に、寝具の選択も重要である。マットレスは体圧分散と寝返りのしやすさに直結する。体重が重い人や腰が沈み込みやすい人は、身体の自然なS字カーブ(緩やかな前湾)を保つために、少し硬めで反発力のあるマットレスを選ぶべきである。
四つ目に、長時間の移動や運転には細心の注意を払う。トラックドライバーに腰痛が多いことからもわかるように、同じ姿勢での運転は腰への負担が大きい。1時間おきに休憩をとり、車から降りて軽いストレッチをする習慣をつけると良い。日常の移動も、可能な限りタクシーやハイヤーではなく、電車移動や徒歩を選択し、活動量を増やすことが望ましい。これは費用対効果も高く、お金をかけずに実践できる効果的な腰痛予防となる。
最後に、過度な肥満は腰に負担をかけるため、適切な体重管理も重要な予防策である。これらの対策は劇的な変化を即座にもたらすものではなく、数週間から数ヶ月を要する地道な取り組みだが、自身の身体と脳を正しく理解し、意識的な行動変容を継続することが、腰痛を克服し快適な日々を取り戻す最善の道となる。