
ポスト・イラン戦争の世界秩序
激動する世界秩序: イラン戦争後のアメリカと独立250周年
中東における「イラン戦争」(本稿では便宜的にこう呼称する)が国際社会に深い爪痕を残している。未だ先の見えない状況が続くが、アメリカ合衆国がこの戦争を経て何を失い、どのような新たな世界秩序が形成されつつあるのか考察が求められる。特に、建国250周年を迎えるアメリカが、その創設期の理念からどれほど変貌し、未来へ向かうのかを問う時期にある。
本稿では、イラン戦争の負の遺産、アメリカ国内で顕著になる「覇権疲れ」、そして外交を左右するイスラエルロビーの影響に焦点を当てる。多角的視点から、現代アメリカの直面する深刻な問題と、それがもたらす国際関係への影響を深掘りする。

Q. イラン戦争はアメリカにとってどのような転換点だったのか?
イラン戦争は、アメリカ・イスラエルによる先制攻撃という一方的な形で開始された。国連に諮ることなく軍事行動を実行したアメリカに対し、同盟国からの協力要請は大きな反発を招いた。欧州諸国や日本が参画を渋ったことは、アメリカが「自国の利益のために一方的に同盟国を巻き込む」という不信感を増幅させたとされる。結果として、アメリカへの信頼が揺らぎ、同盟国を対象とした世論調査では、中国の方が信頼できるとの回答が上回る事態を引き起こした。
さらに、トランプ大統領政権下での国際人道支援機関USAIDの解体に見られるように、ソフトパワーへの関心の希薄化も目立った。これにより、国際社会でのアメリカの道徳的信頼は著しく低下し、単なる軍事力や経済力だけで他国を揺さぶる「負担」として見なされがちになった。
Q. アメリカの建国250周年という節目は、その国家像にどのような影響を与えているか?

アメリカが建国250周年を迎える今、建国の父たちが理想とした民主主義や共和主義の国家像は大きく歪んでいる。講演者が「寡頭政治(オリガーキー)、グロ・リガーキー」という表現で現在の状況を評しているように、一部の富裕層や特権階級が政治、経済、社会の意思決定を支配する構造へと変質している可能性がある。
この変質は、まるでフランス革命前夜のようだという比喩にもつながっている。国民の声を顧みず、少数の利益が優先される現状は、アメリカ本来の姿と大きく乖離しており、歴史の逆行を暗示する重大な節目だと考えられる。
Q. 100年前の日本のように、アメリカに対する信頼が揺らいでいるのはなぜか?
100年前、日本の政治家たちはウッドロー・ウィルソン大統領が唱える理想主義と、実際のアメリカ外交の間に潜む「偽善性」に懐疑心を抱いていた。国際連盟や国際法を掲げる一方で、国益を優先するアメリカの姿勢に対し、信頼すべきか、警戒すべきかという分裂した対米観があった。現在の世界もまた、同じような岐路に立っていると言えるだろう。
トランプ大統領の「米国第一主義」は、時にロシアや中国のような「現状変更国」と類似する行動を示し、国際協調の放棄や一方的な軍事介入を招いた。他方で、唯一の同盟国としてアメリカとの関係維持を重視する声もある。この二面性が、日本を含む国際社会のアメリカに対する信頼を再び揺るがす原因となっている。
Q. 「アメリカ例外主義」は今、どのような形で表出し、その戦略的失敗を露呈させているのか?
「アメリカ例外主義」とは、アメリカが他のどの国とも異なり、普遍的な価値を世界に広める特別な使命を持つという信念を指す。これは過去のベトナム戦争やイラク戦争の失敗後も、「自国の価値観を他国に植え付けられる」という万能感の源泉となってきた。しかし、トランプ大統領のもとではこの例外主義が変質し、価値観やソフトパワーではなく、露骨な軍事力や経済力という物質的な強さに依拠する形となった。
戦略性なく高額兵器を投入したイラン戦争は、軍事的強さを示した一方で、兵器庫の消耗を招き、再生産には数年を要すると指摘されている。これにより、台湾有事といった、より重要な戦略的優先事項に対する備えが空洞化するという本末転倒な状況を引き起こした。米国第一主義による短期的な勝利への固執は、長期的な国益を損なう戦略的失敗と言える。
Q. 米国第一主義は国際社会におけるアメリカの評価をどう変えたか?

米国第一主義は、かつては世界のリーダーとして期待されたアメリカを、国際的な不確実性の源に変えた。同盟国に何ら説明もなく軍事行動を起こし、その責任を同盟国に押し付けようとする姿は、多くの国にとって予測不能で、取引的な関係の強制として映るようになった。
アメリカ国内でも、長引く対外介入による「覇権疲れ」が顕著だ。多くの国民が世界の警察としての役割に疲弊し、中国が将来アメリカを上回ることを容認する世論が広がりつつある。G2体制、すなわち米中による二大国支配の受容は、これまでのアメリカには見られなかった対外政策の大きな転換点を示す兆候であり、国際社会全体のアメリカに対する見方にも大きな変化をもたらしている。
Q. イラン戦争の決定に際し、イスラエルはどのように影響を与えたのか?
イラン戦争の開戦に至る意思決定において、ベンヤミン・ネタニヤフ首相(当時)の強い影響が指摘されている。暴露本『レジームチェンジ』によれば、ネタニヤフはホワイトハウスでの会談において、閣僚たちが懐疑的な見方を示す中、イランの壊滅と容易なレジームチェンジ、そしてホルムズ海峡の封鎖はないとする楽観的なシナリオをトランプ大統領に直接提示した。
閣僚たちがホルムズ海峡封鎖の可能性や支持層からの反発、容易でないレジームチェンジのリスクを忠告したにもかかわらず、トランプ大統領はネタニヤフの言葉を強く信奉し、戦争に踏み切ったとされる。この決定過程は、アメリカが自国の利益のためではなく、イスラエルの利益のために戦争に巻き込まれたという疑惑を呼び、国内世論からの強い批判を引き起こした。
Q. 急速に進む「イスラエル離れ」はアメリカ政治にどう影響するか?

イラン戦争の結果、アメリカ国民の間で急速な「イスラエル離れ」が進行している。自らの税金が、イスラエルの軍事行動による民間人の犠牲や中東での無益な戦争に使われることへの不満が噴出し、民主党支持者、若者、そして進歩派の議員を中心に、イスラエルとの関係を見直すべきとの声が高まった。これは、従来盤石とされたアメリカにおけるイスラエル支持に亀裂が生じていることを示す。
AIPACなどの強力なイスラエルロビー団体による政治家への献金実態も、SNSを通じて可視化され、国民の政治不信を一層煽っている。過去には親イスラエル的な言動が政治的成功につながるのが常識であったが、現在ではそれがむしろ逆効果となりかねない。中間選挙や大統領選を控え、候補者はイスラエルとの関係を慎重に見直す必要に迫られていると言える。
