PIVOT TALK POLITICS
原子力潜水艦がなぜ必要なのか?日本の安全保障戦略
(408)
6,970回視聴
2026年7月8日

世界情勢が大きく変わる中、日本の国家安全保障戦略の見直しが急務になっている。日本の課題はどこにあり、どう安全保障戦略を描くべきなのか。衆議院議員の阿部圭史氏に聞いた。 <ゲスト> 阿部圭史|日本維新の会 衆議院議員 北海道大学医学部卒業。2013年に厚生労働省に入省。米ジョージタウン大学へ留学経験...
激動の国際情勢に立つ日本の国家安全保障戦略:国益とリアリズムを再定義せよ
陸海空を越え、サイバー空間から人間の意識までをも戦場とする現代のハイブリッド戦争。平時と有事の境界線が曖昧になり、国家の存立を揺るがす脅威が地球規模で増大している。国際秩序は「力の体系」「利益の体系」「価値の体系」の微妙な均衡の上に成り立つ。この激変する世界で、日本はいかに自らの国益を定義し、国家安全保障戦略を構築すべきか。唯一の被爆国としての理想と、国際社会のリアリズムの中で、日本が直面する喫緊の課題を解明する。

Q. 現代の国家安全保障を取り巻く環境は、どのように変化したのか?
現代の戦争形態は大きく変貌した。従来の陸海空といった物理的な戦場に加え、宇宙、サイバー空間、さらにはフェイクニュースや認知戦を通じて人々の意識までが新たな戦場となった。これを「ハイブリッド戦争」と呼ぶ。ロシアのウクライナ侵攻や米イスラエルによるイラン攻撃では、AIを活用し、人間の思考速度をはるかに超える意思決定を行う「アルゴリズム戦争」の様相も呈した。
この変化により、平時と有事の境目は希薄化し、安全保障の概念も拡大した。もはや単一の軍事力に依存する時代は終わり、外交(Diplomacy)、情報(Intelligence)、軍事(Military)、経済(Economy)という国力発露の4要素「DIME」の総合力が不可欠である。

Q. 日本は激変する国際情勢の中で、どのように国益を再定義すべきか?
国益は決して普遍不変なものではなく、時代や国際環境に応じて常に再定義され、変容する。この認識こそが、激動の時代において国家の進路を誤らないための第一歩だ。日本の「国家安全保障戦略」は、2013年に初めて策定されて以来、本来約10年スパンでの改定を想定していたが、劇的な外部環境の変化により、大幅に前倒しで改定が進んでいる。
この改定プロセスそのものが、現在の国際情勢に即した日本の国益を再定義する作業と言える。他国の善意や協調にのみ期待する「理想主義」から脱却し、自己の防衛力強化と国益確保のための「リアリズム」に基づいた戦略的自律性を確立することが求められる。これは、日米同盟を基軸としつつも、最終的には自国を自らの力で守るという強い意志と同義である。

Q. 過去の「危機の20年」の教訓から、現代の「危機の30年」時代において、日本は何を学ぶべきか?
国際政治学の古典であるEHカーの『危機の20年』は、第一次世界大戦後から第二次世界大戦勃発までの期間に、国際社会がユートピア的理想主義から弱肉強食のリアリズムへと傾き、破局に至った経緯を詳細に分析した。前半の国際連盟設立に代表される協調路線の後、大恐慌を挟んで、ナチスの台頭に象徴される力の政治が台頭した時期だ。
現代もまた、細谷雄一教授が指摘するように「危機の30年」と呼ぶべき時代にある。冷戦終結後、一時は国連の活動が活発化し、中国のWTO加盟やロシアのG8入りなど、ユートピア的協調主義の様相を呈した。しかし、2010年代以降、ロシアによるクリミア併合やウクライナ侵攻、中国の急速な軍拡は、力の政治への回帰を明確に示した。
『危機の20年』が示す教訓は、「平和な時代にあっても力、すなわちリアリズムを忘れてはならない」というものだ。戦後の日本は特にリベラリズムに深く浸り、リアリズムへの転換が他国に比べて遅れている。この歴史の反復とも言える状況を直視し、自国の「力」を培うことが、将来の「大きな戦争」を回避し、国家の生存を確保するための喫緊の課題となる。

Q. 拡大した現代の戦場と新たな脅威に対し、日本はどのような防衛力構想を持つべきか?
「ハイブリッド戦争」や「アルゴリズム戦争」が台頭する現代においては、従来の軍事力だけでなく、情報・サイバー・認知戦への対応が不可欠である。例えば、フェイクニュースがSNSを通じて国民感情を煽り、戦局に影響を与えるような状況が頻繁に起こる。
そのため、防衛省や自衛隊といった特定の組織に限定されず、全政府、さらには国民や民間企業を含めた「全社会統合レジリエンス(強靭性)」の構築が喫緊の課題だ。「防衛産業そのものが防衛力である」との認識の下、長期化する有事に対応できるよう、ドローン、弾薬、ミサイルなどを継続的に生産・供給できる防衛産業基盤を強化する必要がある。スタートアップ企業もこの分野に参入し、革新的な技術開発が期待される。
加えて、軍事的な「ハードセキュリティ」だけでなく、戦争を未然に防ぐ「ソフトセキュリティ」も重要だ。紛争国の調停や和平合意の形成といった外交的活動、認知戦に対応するための平時からの広報文化外交を強化し、日本の存在感を高めることが求められる。
Q. 海洋国家日本にとって、原子力潜水艦の導入はなぜ不可欠なのか?
日本周辺の安全保障環境は急速に悪化している。中朝露は強力な軍事同盟を固め、特に中国は第一列島線や第二列島線を越えて、太平洋への進出を強めている。日本の広大な排他的経済水域(EEZ)やシーレーンを守り抜くためには、これまでの防衛概念では不十分だ。西太平洋地域を守る「太平洋防衛」の確立が不可欠であり、その鍵を握るのが原子力潜水艦である。
現状の通常動力型潜水艦は、数日ごとに浮上して吸気を行う必要があり、航続距離や水中での行動範囲に限界がある。広大な海域を高速で長期間潜航し、脅威に対処するためには、半永久的に行動可能な原子力潜水艦の圧倒的な性能が不可欠となる。これは空の防空識別圏が太平洋まで設定されていないのと同様の問題であり、水中の「見えない領域」を守る上で核動力は必要条件だ。
米英豪韓といった日本の主要な同盟・同志国は、すでに原子力潜水艦の導入を決定・推進しており、この国際潮流から日本が取り残されれば、共同作戦における連携が困難になる恐れがある。日本は高度な原子力産業技術とサプライチェーンを備えており、原子力潜水艦の自国開発は十分可能である。原子力基本法や日米原子力協定の見直し、母港確保、要員育成といった法整備と実務的課題のロードマップを策定し、早期に実現する必要がある。これはもはや喫緊の防衛上の要請と言えるだろう。

Q. 核保有国に囲まれた日本は、核戦略においていかなる現実的アプローチを取るべきか?
日本は中国、北朝鮮、ロシアという3つの核保有国に囲まれた「核の三正面」という、欧州(対ロシアの一正面)よりも遥かに厳しい戦略環境に直面している。唯一の被爆国として「世界から核兵器をなくす」という理想は今後も追求し続けるべき道義的責務である。しかし、目の前の核の脅威から国民を守るためには、理想論だけでなく、リアリズムに基づいた「核抑止」戦略も並行して構築しなければならない。これらは相反するものではなく、時間軸の異なる共存可能な概念だ。
特に警戒すべきは「2032年問題」である。米国は2032年までに海洋発射型核巡航ミサイルの実戦配備を決定しており、これが配備された攻撃型原子力潜水艦が日本に寄港する可能性が生じる。これにより、日本の「非核三原則」の一つである「持ち込ませず」の原則と、日米同盟の抑止力維持との間で深刻な矛盾が生じるため、日本の核政策を根本から見直す必要がある。
非核三原則のうち「持たず」「作らず」はNPT体制の国際標準であり堅持すべきだが、「持ち込ませず」はNPTとは直接関係がない。したがって、この原則は変化する脅威環境を踏まえ、現実的に再検討すべきだ。また、NATOで採用される「核共有」の議論も、日本が置かれた海洋国家としての特性に合わせた形で、予断を持たずに検討するべき実質的な抑止策である。米国の「核の傘」(拡大核抑止)の信頼性をいかに高めるかが、今後の核戦略の要となる。

Q. 日本の防衛費増額の必要性と財源確保の展望は何か?
日本は2022年に5年間の防衛費倍増を決定したが、これは前倒しで既に実施された。現在の戦略環境を鑑みると、この規模でも到底不十分だ。西太平洋地域の同志国(台湾のGDP比5%、オーストラリアと韓国の3%以上)の水準を参考に、日本も中長期的にGDP比3%以上の防衛費を目指すべきである。これは諸外国と比較して特別高い目標ではない。
急激なインフレや円安により、防衛費の実質的な購買力が目減りする可能性もあるため、為替変動なども考慮した予算編成が重要だ。また、財源確保は単純な増税論に終始すべきではない。国家の事業全体を見渡し、社会保障、教育、経済といったあらゆる分野における効率化と予算の優先順位の精査により、中長期的な財源を捻出するマクロな視点が必要だ。国防は国の存立を支える土台であり、安全保障が揺らげば、経済も国民生活も成り立たない。この国家の生存基盤としての最重要課題に対する覚悟が問われている。