
半導体メモリ価格高騰 不足はいつまで続く?
AIバブルに沸くメモリ市場:強気予測に潜む「シリコンサイクルの罠」
AIブームを背景に、メモリ市場がかつてない高騰を続けている。大手メモリメーカーの決算は記録的な好調ぶりを見せ、業界全体が「2027年まで供給不足が続く」と強気の姿勢を示している。しかし、これは新たな時代を告げる変化なのか、それとも歴史が繰り返す前の過熱の兆候に過ぎないのだろうか?長年にわたり半導体業界を観察してきた大山聡氏が、この熱狂の裏側に潜む冷静な分析を展開する。

Q. Micronの好調な決算、その背景にある実態とは?
最近発表されたMicronの決算は、市場予想を上回るポジティブな結果であった。これはメモリ市場全体への期待と平均単価の上昇が背景にある。ただし、メーカーが「2027年まで供給不足が続く」と表明する裏側には、単なる堅調な実需だけではない要因が含まれる可能性がある。現在のシリコンサイクルピーク時によく見られる現象として、「仮需(ファントムデマンド)」の発生が指摘されている。
顧客は品不足への不安から、必要な量(例えば100個)に対し、供給が限定される(例えば50個しか手に入らない)と判断し、安全策として2倍、3倍(200個、300個)もの注文を出す。この過剰発注が、メーカー側の需要予測を実際の市場規模以上に膨らませている可能性があり、どこまでが真の実需で、どこからが仮需なのかを見極めるのが困難な状況にあるだろう。
Q. 現在のDRAM価格の歴史的な高騰は、過去と比べてどのような状況にあるか?
DRAMモジュールの価格は、昨年第3四半期には約50ドルだったものが、現在230ドル近くまで4倍以上に高騰している。この価格上昇は、過去2022年以降のデータと比較しても前例のない水準である。異常な需給バランスの崩壊が起きている証拠と言えよう。

この歴史的な価格高騰は、メモリメーカーにとっては強気にならざるを得ない状況を生み出すが、最終製品メーカーには深刻な影響を及ぼす。PCやスマートフォンの製造においては、この価格では採算が合わず、生産を断念する企業も出ているのが現状である。割高な製品は消費者離れを招き、結果としてPC・スマホ市場全体の需要を冷え込ませ、メモリメーカー自身にも長期的な負の影響を与える可能性があるのだ。
Q. 「今回は違う」というシリコンサイクル終焉論は、本当に有効か?
シリコンサイクルとは、半導体市場が約3〜4年周期で好況と不況を繰り返す現象を指す。AIブームの隆盛により、今回はこのサイクルが終わり、常に好況が続くという楽観論も存在する。しかし、専門家はこの見方に警鐘を鳴らしている。需要の質が変わり、AIという構造的で巨大な市場が出現したことは事実である。これにより半導体需要がかつてないほどに強く、業界がこれまでとは異なるステージにあることは認められるだろう。
しかし、需給バランスの原則は変わらない。需要がこれほど強いならば、供給側も相応に強化されるからだ。現にSamsungは昨年の6兆円から今年は12兆円へと設備投資を倍増させる計画を発表している。こうした大規模な投資は、遅かれ早かれ供給能力を増大させ、最終的に市場が過剰供給に転じることは歴史の必然であると論じる。異なるステージになったとしても、需給の波がなくなることはないというのだ。
また、「長期契約の増加によって需給バランスが固定化され、サイクルは消滅する」という主張も散見される。確かに、現在のような供給不足時には、供給メーカーがある程度の需要を確保するため、キャンセル不可や優先供給を条件とした長期契約を締結するケースが増えるのは事実だ。しかしこれは、過去のピーク時にも繰り返し見られた典型的な「あるある」現象に過ぎない。
例えば、5年前の車載半導体不足の際も、供給確保のため同様の長期契約が結ばれた。結果的に供給が回復すると、高値で契約した顧客は大量の在庫を抱え苦しむこととなった経緯がある。長期契約が増えたからといってシリコンサイクルが消滅することはない。むしろ、これまでの経験からすれば、供給不足時のこうした契約動向は、サイクルのピークが近いことを示唆する兆候と捉えるべきだと提唱している。
Q. AI向けのHBMと汎用DRAM、市場の全体像を見る上でどちらの動向を重視すべきか?
AI向けGPUに搭載されるHBM(High Bandwidth Memory)は高額で、現在は需給が逼迫していることから注目を集めている。HBMは特定顧客向けのカスタム性が高く、生産計画と出荷数が比較的正確に把握できるため、供給側の見通しも安定していると言える。しかし、HBM市場はメモリ需要全体の「一部」に過ぎないという点に留意する必要がある。

市場全体の需給バランスを決定づけるのは、PC、サーバー、スマートフォンなどに幅広く使われる「汎用DRAM(DDR)」である。汎用DRAMは顧客が不特定多数であり、「取り合い」が起きやすいため仮需が発生しやすく、需給が大きく変動する傾向がある。価格はHBMの約5分の1程度だが、数量ベースでは圧倒的なボリュームを占めている。HBM市場がどれほど活況を呈していても、この巨大な汎用DRAM市場の需給が崩壊すれば、メモリ市場全体は不況に陥るだろう。投資家やアナリストは、むしろこちらの動向にこそ注目すべきである。
現に、スマホ市場はメモリ不足と価格高騰により、今年の生産見通しが前年比10%以上減少すると見られている。これは消費者の実需が価格に耐えられなくなっているサインだ。データセンター向けのハイパースケーラーがメモリを大量に買い占めることで、PCやスマホといったエンドユーザーデバイス市場が破壊されれば、最終的にAIサービスの利用者基盤が縮小することにつながる。短期的な利益追求が長期的には自身の首を絞めるというパラドックスに陥る可能性があるのだ。
Q. メモリ市場の変曲点はいつ訪れると予測されるか?また、その中で日本はどのような戦略を持つべきか?
今年の年末までは季節的な需要が市場を牽引し、メモリメーカーの強気姿勢は続くだろう。しかし、その年末商戦が終わった後、来年(2025年)の早期に需給バランスの変曲点が訪れる可能性が高いと予測されている。高価格が維持できなくなり、徐々に価格が下落し始める局面が来るかもしれない。
供給側を見ると、HBM市場では昨年にSK Hynixに首位を奪われたSamsungが王座奪還に猛攻を仕掛けており、この韓国2社の激しい競争は過剰な設備投資と供給過剰を早める可能性がある。中国勢では、DRAMメーカーのCXMTは最先端製造に不可欠なEUV露光装置の規制により苦戦を強いられているが、NANDメーカーのYMTCは規制の影響が比較的少なく、国産装置を活用した3D積層技術で西側プレイヤーにキャッチアップしつつあり、中長期的には脅威となるだろう。

AIの「推論」用途で高速NANDに特需が到来。従来のNANDフラッシュは読み書きの遅延時間が長いためAI処理には不向きとされていたが、キオクシアが開発した従来の100倍高速なNANDは、推論に必要な膨大なデータを迅速に処理できるため需要が殺到している。キオクシアが現状世界で唯一この高速NANDを提供しており、他社の追従は早くても2027年後半以降と見られている。
日本にとって、このキオクシアの躍進は朗報だ。しかし、メモリ市場の主戦場であるDRAMを製造できる日本メーカーが存在しないという課題も抱えている。AIがデータセンターだけでなく、スマートフォンやエッジデバイスへと普及する「フィジカルAI」の時代を見据え、日本がどの半導体分野に注力すべきか、具体的な戦略議論を深める必要があるだろう。今こそ、過去の経験を活かし、次世代の半導体市場での日本の立ち位置を確立する時がきている。